ASCOガイドライン、肥満患者への化学療法剤適正量の計算に実体重使用を推奨

ASCOガイドライン、肥満患者への化学療法剤適正量の計算に実体重使用を推奨
速報
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Aaron.Tallent@asco.org

アレキサンドリア(バージニア州) ― 米国臨床腫瘍学会(ASCO)は本日、肥満の成人癌患者に対する化学療法剤の適正投与量について新たな臨床ガイドラインを発表した。

本ガイドラインは、ほぼ全ての化学療法剤について、肥満患者への適正投与量を計算するにあたり、理想体重や他の推定体重ではなく実体重を恒常的に用いることを医師に推奨している。本ガイドラインは2012年4月2日に発表された。

研究によると、肥満患者の40%程度が実体重に基づかない不十分な投与量化学療法剤投与を受けており、これは、ほとんどの場合、副作用への懸念や長年の慣習がその理由である、とされている。ASCOの新ガイドラインはこの問題について、実体重基準の投与量設定は副作用リスクを上げずに肥満患者に対する治療効果を最大化することが臨床試験で明確に示された、と述べている。

本ガイドラインを草稿したASCO専門家委員会の共同チェアマンで、Duke Cancer Instituteの腫瘍内科学教授であるGary H. Lyman医学博士・公衆衛生学修士は、「このガイドラインは、肥満以外に問題のない癌患者に対し実体重に基づいた化学療法剤を投与することの不安を軽減するでしょう」と語っている。「医師は、肥満患者に対し、従来慣習的に投与していた量よりも高用量の化学療法を行ってよく、実体重に基づいた投与量による毒性リスクが非肥満患者と比べて肥満患者のほうが高くなることはない、と安心してよい。」

臨床試験で確立される化学療法剤の至適投与量は、体重と身長から導く体表面積(BSA)を使って算出されるのが一般的だ。しかし、臨床現場では通常、肥満癌患者は、至適投与量を下回る量、つまり実体重と理想体重の中間の「調整理想体重(adjusted ideal weight)」から計算された量での投与を受けている。化学療法剤の投与量が不適切であれば治療効果が減る可能性もあり、乳癌など特定の癌患者の間で肥満者の再発リスクと死亡リスクが非肥満者に比べて高いことの説明となるかもしれない。

ASCOガイドライン専門家委員会の共同チェアマンで、ミシガン大学(UM)Internal Medicine and Health Management & Policy 学部准教授ならびにミシガン大学総合癌センターBreast Cancer Survivorship Program ディレクターであるJennifer Griggs医学博士・公衆衛生学修士は、「米国をはじめとする先進国や発展途上国における肥満発症率が過去最高である今、腫瘍学者はこの問題にかつてなく取り組んでいます」と言う。「肥満患者が現在有効な治療の恩恵を最大限に受けるには十分かつ適正な用量の薬剤投与が必要です。」

ASCO専門家委員会は、ガイドライン作成にあたり、1966年から2010年までに発表された肥満あるいは過体重者に対する化学療法剤投与についての文献を公式かつ系統的にレビューした。世界保健機構による基準に準じ、BMI(ボディマス指数)25~29.9 kg/m2を「過体重」、BMI30 kg/m2以上を「肥満」、BMI40 kg/m2超を「病的肥満」としている。このエビデンス・レビューの結果、本ガイドラインは以下を明確に推奨している。

  • 細胞毒性を有する化学療法の(静注・経口)投与量は、肥満の程度にかかわらず実体重を用いること。治療目的が治癒にある患者の場合は十分量での投与が特に重要である。体重から算出した最大投与量の化学療法剤を服用した肥満患者の間で短期もしくは長期の毒性が増えたことを示すエビデンスはない。
  • 病的肥満患者に対しても、体重に基づいた最大投与量を推奨する。 しかし、投与量選択にあたり(心臓や腎臓、肺の異常など)併存疾患を考慮し、毒性を注意深く監視する必要がある。病的肥満の癌患者への至適投与量に関するデータは十分ではない。
  • 副作用が発現した場合は、投与量の減量をすべての患者に行うこと。重度の副作用を発現した肥満患者への投与量を減らすにあたり、医師は、非肥満患者が副作用を発現した場合に準じるであろうガイドラインに従うべきである。
  • いくつかの化学療法剤については、確立された上限量を厳守すること。たとえば、神経障害のリスクがあるビンクリスチンや、肺を線維化させる恐れのあるブレオマイシン、腎臓機能を基準に投与されるべきカルボプラチンなど。
  • さらなる研究が必要。本ガイドラインは、今後の研究が必要とされる分野についても言及している。なかでも、肥満が最新化学療法薬剤の代謝に及ぼす影響をより高い精度で評価するための研究を最重要課題としている。

本ガイドラインは医師向けに、患者、看護師、薬剤師とのコミュニケーションや、こうした推奨事項が日々の臨床現場にもたらす影響(患者や医療保険会社に及ぼし得る費用面の影響も含む)についてのガイダンスも提供している。

この新ガイドラインや臨床ツール・データベースについての詳細はwww.asco.org/guidelines/wbd.に掲載されている。

本ガイドラインの入手は、e-mail(aaron.tallent@asco.org)か電話(571-483-1371)でAaron Tallent宛にご連絡下さい。

翻訳担当者 村上智子

監修 東 光久(血液癌・腫瘍内科領域担当/天理よろづ相談所病院)

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