放射線治療による重度の肌トラブルを簡単な抗菌治療で解決
アルバート・アインシュタイン医科大学
低コストの抗菌レジメンで急性放射線性皮膚炎の予防が可能なことがMontefiore Einstein Cancer Centerの研究で明らかに
がんの放射線治療を受けている人の95%もが、皮膚の赤み、痛み、かゆみ、剥離が特徴の急性放射線皮膚炎(ARD)を発症している。重症化すると、生活の質が著しく損なわれる可能性のある大きな腫れや痛みを伴う皮膚潰瘍が生じることがあるが、この症状が起きる原因はほとんど分かっておらず、広く適応されている重度のARDを予防する標準治療はない。【※監訳者注あり(記事下部を参照)】
ARDの症例の多くは一般的な皮膚細菌が関係しており、簡単な低コストの治療で重症化を防ぐことが可能であることをNCI指定のMontefiore Einstein Cancer Center(MECC:モンテフィオーレ・アルベルトアインシュタイン医科大学がんセンター)の研究者らが明らかにし、放射線治療を受ける患者の新しい標準治療となる可能性を示した。この研究結果は、5月4日のJAMA Oncology誌に掲載された2つの論文で報告された。毎年、1,000万人が腫瘍を小さくするために放射線治療を受けている。
「これまでARDは放射線による皮膚の火傷が原因であるにすぎないと考えられており、その予防のためにできることはあまりないということでした」とMECCの支持的皮膚腫瘍学(supportive oncodermatology)部長、Montefiore Health System and Albert Einstein College of Medicine(モンテフィオーレヘルスシステムおよびアルベルトアインシュタイン医科大学)の皮膚科部長で、2つの研究の統括著者であるBeth N. McLellan医師は語る。「われわれが開発し、臨床試験を実施したすぐに利用できる治療により、米国で毎年何十万人もの人々を重度のARDとその耐えがたい副作用から救える可能性があります」と語る。
感染源を特定する
黄色ブドウ球菌(SA)は、「スタフ」と略されることが多く、通常、鼻やわきの下などの皮膚に無害に生息している細菌である。しかし、切り傷などで皮膚が破損すると感染症を引き起こす場合がある。放射線は治療部位の皮膚の構造を弱め、SAが外皮を壊すことで感染症を引き起こす。放射線治療(数週間にわたって毎日治療を行うことが必要)により皮膚感染症が発生するリスクが高くなる。
SAは湿疹のような皮膚の損傷につながる一般的な皮膚疾患に関係していることから、この細菌もARDの一因である可能性があるとMcLellan医師らは推論した。JAMA Oncology誌の研究のうちの1つの研究で、MECCの研究者は、がんの放射線療法を受けている患者76人を登録した。放射線治療前後に患者から、鼻の中、放射線照射部分の皮膚、放射線照射を受けていない側の皮膚の3つの異なる体の部位から細菌培養菌を採取した。
治療前、患者の約20%がSA陽性であったが、活動性感染は生じていなかった。治療後SA陽性だったのは、軽症の患者が17%のみであったのに対し、重度のARDを発症した患者では48%であった。皮膚にSAが付着している患者の多くは、鼻のSAも陽性であり、鼻からのSAが皮膚に感染している可能性が示唆された。
「SAがARDの主な一因であることが今回の研究で明確に示されました」とMcLellan医師は語る。「喜ばしいことは、この細菌と戦うツールがたくさんあるということです。2つ目の研究で、効果的で人々が使いやすいと考えられる局所抗菌薬の併用を検証しました」
重度のARDを予防する
2つ目の研究に放射線治療を受けている患者77人が登録され、そのうちの2人を除く全員が乳がんであった。参加者は、MECCで標準治療(通常の衛生管理とAquaphorなどの保湿ケア)を受けるか、実験的な抗菌レジメンを受けるかのいずれかに無作為に割り付けられた。この治療法は、放射線治療期間中、ムピロシン2%鼻腔軟膏と併せてボディークレンザーのクロルヘキシジンを1日2回、隔週で5日間使用するものである。
抗菌薬投与群の患者半数以上が軽度から中等度のARDを発症したが、湿性落屑(皮膚が破壊されてボロボロになる最も重度のARD)を発症した患者はおらず、治療による副作用を発症した患者はいなかった。一方、標準治療を受けた試験参加者の23%に重度のARDが発生した。
「われわれのレジメンは簡単で安価かつ容易なため、最初にSA検査を個々に行う必要はなく、放射線治療を受ける人すべてに使用するべきと考えています」とMcLellan医師は語る。「この治療により乳がんの放射線治療を受ける人のプロトコルが完全に変わると期待しています」
また、McLellan医師は次のように言及している。「MECCのほとんどの臨床試験と同様、参加者の大半はわれわれの地域の黒人やヒスパニック系の人々であり、このプロトコルは様々な人種や民族の人々に対して一般化でき、有効であることを意味しています。肌の濃い人は重度のARDを発症しやすいため、これは特に重要な点です」
「われわれが開発し、臨床試験を実施したすぐに利用できる治療により、米国で毎年何十万人もの人々を重度のARDとその耐えがたい副作用から救える可能性があります」。
-Beth N. McLellan医師
論文のタイトルは、「Association of Staphylococcus aureus Colonization With Severity of Acute Radiation Dermatitis in Patients With Breast or Head and Neck Cancer」および「Bacterial decolonization for prevention of radiation dermatitis: a randomized clinical trial」である。両論文の共著者は原文記事を参照のこと。
<画像キャプション訳>
簡単な抗菌治療により急性放射線皮膚炎(ARD)の重症化を防ぐことがJAMA Oncology誌に掲載された新しい研究により判明:治療群で重度のARDを発症した患者はいなかったが、現行の標準治療の場合、重度のARDを発症した患者は23%であった。(軽度から中等度のARD=グレード<2、重度のARD=グレード>2-MD)
【※監訳者注】 急性放射線皮膚炎(ARD)の原因は放射線障害で、皮膚バリアが破壊されているところへの細菌感染である。日本では軽度のARDからヒルドイド・アズノールやステロイド軟膏(リンデロン、ボアラなど)を使用し、これらは十分重症ARDを予防していると考えられる。特に、リンデロンVGのGは抗菌剤ゲンタマイシンを示し、以下の皮膚細菌感染に有効である。
本研究に用いられているクロルヘキシジンは消毒薬であり、創傷治癒を遅延させるため外科的には勧められない。また、コントロール群における乳癌放射線治療の皮膚炎グレード3 23%は日本の通常診療と比較すると多すぎるため、この論文は日本と状況が異なると判断し、批判的に読むべきであると考える。
- 監訳 河村光栄(放射線科/京都桂病院)
- 翻訳担当者 松長愛美
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- 原文掲載日 2023/05/04
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