ノボビオシンはBRCA変異がん細胞を内と外から攻撃

ダナファーバーがん研究所

BRCA遺伝子変異があるがん患者を対象としたノボビオシンの最初の臨床試験がまもなく開始されるが、この薬剤が腫瘍細胞に二重の打撃を与えることが、ダナファーバーがん研究所の最新研究により示された。

本日、Nature Communications誌に掲載された研究結果によると、ノボビオシンはBRCA遺伝子変異がある細胞の内部を狙い撃ちすることに加え、免疫系による細胞への攻撃も誘発することが判明した。この発見から、ノボビオシンが臨床試験で期待通りの効果を示すにしても、免疫反応を拡大する薬剤と組み合わせればさらに優れた効果を発揮する可能性を示唆している。

1月、米国食品医薬品局(FDA)は、BRCA1またはBRCA2遺伝子に変異があるがん患者を対象としてノボビオシンの臨床試験への使用を承認した。ダナファーバー研究者が主導するこの試験は、6月1日までに患者登録を開始する予定である。

本試験の筆頭著者であるダナファーバーのJeffrey Patterson-Fortin医学博士は、次のように話す。「ノボビオシンは、BRCA1またはBRCA2に変異があるがんの生存に重要な酵素であるPOLθ阻害薬です。これまでの研究から、ノボビオシンでPOLθの作用を止めると、BRCA1またはBRCA2変異のあるがんが死滅することがわかっていました。今回、われわれのねらいは、免疫微小環境(腫瘍内の免疫系細胞)が、ノボビオシンの抗がん作用にどのように寄与しているかを調べることでした」。

BRCA1変異陽性トリプルネガティブ乳がんと、BRCA2変異陽性膵臓がんという2つの腫瘍モデルを使った研究によって、ノボビオシンは細胞分裂ですでに起こっている混乱を増幅させ、腫瘍細胞にとって致命的な結果をもたらすことが示された。

研究者らは、この薬剤によって微小核(染色体の損傷断片を含む小核)が腫瘍細胞にますます増えることを発見した。染色体の断片は、微小核の膜の隙間から細胞の細胞質に容易に入り込み、cGAS/STINGと呼ばれるタンパク質経路を活性化させる。この経路によって、病気と闘うCD8+T細胞が腫瘍に侵入し、攻撃モードに入る。

このプロセスがノボビオシンの腫瘍細胞殺傷効果にどの程度関与しているかを調べるため、Patterson-Fortin氏らは、2つの腫瘍モデルからCD8+T細胞を枯渇させたところ、ノボビオシンの効果が急激に低下することを発見した。「このことは、腫瘍細胞に対する直接的な効果に加えて、免疫系の刺激がノボビオシン有効性の主要部分であることを示しています」と、本研究の上級著者であるGeoffrey Shapiro医学博士(ダナファーバー)は述べる。

Shapiro氏の説明によれば、腫瘍細胞がノボビオシンの存在に適応する方法の一つは、PD-L1タンパク質の産生を高めることで、これによってT細胞の攻撃をかわせるようになる。このことから、ノボビオシンとPD-1阻害薬を併用することで、ノボビオシン単独よりも高い効果が得られる可能性があると考えられる。研究者たちは、将来、この併用療法の臨床試験を開始したいと考えている。

  • 監訳 小坂泰二郎(乳腺外科/JA長野厚生連 佐久総合病院 佐久医療センター)
  • 翻訳担当者 山田登志子
  • 原文を見る
  • 原文掲載日 2023年3月14日

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

 

がん治療に関連する記事

一部のメラノーマ、乳がん、膀胱がんで術前/術後の免疫療法薬投与により長期生存が改善の画像

一部のメラノーマ、乳がん、膀胱がんで術前/術後の免疫療法薬投与により長期生存が改善

体の免疫系ががん細胞を認識して破壊できるようにすることで効果を発揮する免疫療法薬により、進行メラノーマ(悪性黒色腫)患者の長期全生存率が改善したという大規模国際共同試験の結果がESMO...
免疫チェックポイント阻害薬投与後のアバタセプト投与は、抗腫瘍活性を損なうことなく副作用を軽減の画像

免疫チェックポイント阻害薬投与後のアバタセプト投与は、抗腫瘍活性を損なうことなく副作用を軽減

MDアンダーソンがんセンター抗CTLA-4療法や抗PD-1療法などの免疫チェックポイント阻害薬は、多くの患者に劇的な抗腫瘍効果をもたらしてきた。しかし、心筋炎(生命を脅かす可能性のある...
代謝プログラミングと細胞老化におけるMETTL3の新たな役割が明らかにの画像

代謝プログラミングと細胞老化におけるMETTL3の新たな役割が明らかに

MDアンダーソンがんセンターがんを進行させる最も初期のメカニズムを解明する上で特に注目されているのが、細胞老化(細胞が成長を停止するが機能は継続)と呼ばれるストレス応答細胞の状態である...
新たな計算ツールにより、がん進化の複雑な段階がより深く理解可能にの画像

新たな計算ツールにより、がん進化の複雑な段階がより深く理解可能に

MDアンダーソンがんセンターがんが進化するにつれて、遺伝子の変化が蓄積され、その変化を追跡することで、がんの生物学的性質をより詳しく知ることができる。コピー数の変化は、DNAの断片が増...