砂糖とがん-知っておきたいこと

糖類(砂糖)にまつわる情報やアドバイスには、正しいかどうか定かでないものがたくさんあります。

砂糖はがんの原因になるのでしょうか。砂糖はがん細胞に栄養を与えて、より活発に成長させるのでしょうか。また、食べ物や飲み物で摂った糖分は私たちの健康にどのような影響を与え、そのような影響にはどのように対処すればよいのでしょうか。

今回の記事では、糖類についてじっくりと考えてみたいと思います。

今回は「糖類とがん」に焦点を当て、一般的に広まっている誤解を解き、がんの新しい治療法の発見を目指して研究者たちが行っている研究を紹介します。

また、私たちの食べ物に含まれる糖類がなぜ問題なのかを説明します。糖分の多い食生活は、がんのリスクという面で悪いニュースになる可能性はありますが、いつも見出しを飾るほどの理由になるわけではありません。

ここでは、まず基本的なこととして、私たちのからだは糖類を必要としていること、そしてその糖類を食事のどこから得ているのかを説明します。

ブドウ糖-生命維持のための燃料

インターネットで「砂糖とがん」を検索すると、砂糖は「白い死」であり、「がんの好物」であるという警告がすぐに見つかります。

しかし、砂糖ががんの増殖を促しているという考えは、複雑な生物学的メカニズムを単純化しすぎています。まず、糖類とは何かを考えてみましょう。

糖類にはさまざまな形があります。最も単純な形態は、ブドウ糖(グルコース)や果糖(フルクトース)のような単一の分子です。これら単糖類の分子は、2つ1組でくっついていたり、長い鎖状になっていたりします。これらの分子の結合体はすべて炭水化物であり、私たちのからだの主なエネルギー源となっています。

私たちがよく知っている糖類は、水に溶けて物に甘味を与える単糖であるテーブルシュガーでしょう。正式名称はショ糖(スクロース)で、ブドウ糖と果糖の結晶からできています。テーブルシュガーは精製されています。つまり、天然の原料(通常はテンサイ)から砂糖を取り出すために加工されているのです。加工されていない食品にも単糖類が多く含まれていることがあります。例えば、ハチミツ(こちらもほとんどがブドウ糖と果糖でできています)はほぼ純粋な砂糖です。

糖類の鎖が長くなると、甘みが失われ、水にも溶けなくなります。この鎖は多糖類と呼ばれ、でんぷん質の食品の大きな構成要素になっています。米、パン、パスタ、ジャガイモなどの野菜のようなでんぷん質の食品は、甘くないかもしれませんが、炭水化物も多く含まれています。

私たちが口にする多くのものには、何らかの形で糖類が含まれています。私たちのからだは糖類に大きく依存しているので、これは良いことです。

私たちのからだのほぼすべての部分は、生きた細胞でできています。私たちが見たり、呼吸したり、感じたり、考えたりできるのは、これらの細胞のおかげです。

体内での役割はそれぞれ異なりますが、これらの細胞に共通しているのは、生きて仕事をするためにはエネルギーが必要だということです。

細胞は、食事で摂った栄養素を、ATPと呼ばれるエネルギーに変換する必要があります。これを説明すると長くなりますが(ご興味のある方はこちらをご覧ください)、簡単に言うと、このプロセスはブドウ糖から始まります。

ブドウ糖は、私たちの細胞一つ一つを動かす基本的な燃料です。炭酸飲料のようにブドウ糖を多く含むものを食べたり飲んだりすると、ブドウ糖はそのまま血液に吸収され、細胞が利用できるようになります。パスタのようなでんぷん質の食べ物を食べた場合は、唾液や消化液に含まれる酵素がでんぷん質を分解してブドウ糖に変えます。何らかの理由で炭水化物が摂れない場合、細胞は最後の手段として脂肪やタンパク質をブドウ糖に変えます。細胞が働くためには糖類が必要だからです。

がんは細胞の病気ですから、ここで糖類とがんが対峙することになります。

糖類とがん

がん細胞は通常、速いスピードで増殖するため、多くのエネルギーを必要とします。つまり、がん細胞はたくさんのブドウ糖を必要とするのです。がん細胞が必要とするのは、糖類だけではなく、アミノ酸や脂肪など、他の多くの栄養素も必要です。

ここまで考えると、がん細胞が大量のブドウ糖を必要とするのであれば、食事から糖類を取り除くことでがんの成長を抑えられるはずであり、そもそもがんの発生を防ぐこともできるはずです。しかし、残念ながらそれほど単純な話ではありません。健康な細胞もブドウ糖を必要としています。健康な細胞には必要なブドウ糖を与え、がん細胞には与えないようにからだに指示する方法はありません。

「糖類抜き」の食事をすることで、がんになるリスクが下がったり、がんと診断された場合の生存率が上がったりするという証拠はありません。

また、炭水化物を極端に制限した食事をすると、食物繊維やビタミンを多く含む食品が取り除かれてしまうため、長期的には健康を損なう可能性があります。

特にがん患者さんの場合は、治療によって体重が減少したり、体に大きな負担がかかったりすることがあるので、注意が必要です。食事制限による栄養不足が、回復の妨げになったり、命に関わる危険もあります。

糖類の研究に終わりはない

炭水化物を控えることががんの治療につながるという証拠はありませんが、がん細胞がエネルギーを作り出す方法を理解することで、新たな治療法につながるという重要な研究結果が出ています。

1950年代、Otto Warburgという科学者が、がん細胞が正常な細胞とは異なる化学的プロセスでブドウ糖をエネルギーに変えていることに注目しました。

健康な細胞は、ミトコンドリアという小さな細胞の「バッテリー」で一連の化学反応を行っています。それに対し、Warburg効果(好気的解糖)とは、Ottoが発見した後に呼ばれるようになったもので、がん細胞が「バッテリー」をバイパスし、需要に応じてより速くエネルギーをつくりだす様子を表しています。

エネルギーをつくりだすためのこの近道は、一部のがんの弱点であり、研究者が新しい治療法を開発する上で有利に働くかもしれません。

まず、がん細胞がエネルギーをつくるプロセスを停止させ、健康な細胞がエネルギーをつくるプロセスは停止させないという薬を開発できる可能性があります。研究者たちは、この方法で作用する薬を試しています。

次に、がん細胞がとる異常なプロセスにより、アミノ酸などの他の栄養素が不足した場合に、がん細胞が適応できなくなる可能性があります。このような潜在的なもろさが、治療にもつながる可能性があります。

しかし、これらのアプローチはまだ実験的なものであり、がん細胞を飢えさせる治療法が安全かどうか、効果があるかどうかはまだわかっていません。

ましてがん患者さんが治療中に食事制限を試みる理由にはなりませんし、先ほどの話に戻りますが、食事制限は危険な場合もあります。

糖類ががんの原因にならないのなら、なぜ心配するのか

糖類を抜いてもがんの治療の助けにならないのであれば、なぜ糖類の多い食品を控えるように勧めるのでしょう。

それは、がんのリスクと糖類には間接的な関係があるからです。糖類をたくさん摂り続けると太りやすくなりますが、太りすぎや肥満は13種類のがんのリスクを高めることが科学的にはっきりと証明されています。実際、肥満が喫煙に次いで、予防できる最大のがん原因となっていることは、以前からお知らせしているとおりです。

そして、2019年に発表された研究では、何か別のことが起こっている可能性が示唆されました。研究者たちは、体重に関係なく、多くの砂糖入り飲料を飲む人ほど、がんのリスクがわずかながら高まることを発見しました。この研究では体重についても考慮していますが、まだ答えのない疑問がたくさんあります。この点を調査するにはさらなる研究が必要でしょう。

遊離糖類を減らす方法は

太る原因としては、果物や牛乳など食品に自然に含まれている糖類や、全粒粉や豆類などのヘルシーなでんぷん質(人々がもっと摂るべき食品*)ではなく、遊離糖類(または添加糖類)が問題となります。[訳者注:遊離糖類とは蜂蜜・シロップ・濃縮果汁などに天然に存在している糖類や人が食品・飲料に添加するものをいう]

添加糖類量を減らす最も簡単な方法は、英国の食生活で最大の糖類源となっている砂糖入り飲料を減らすことです。

炭酸飲料やエナジードリンクなどの甘い飲み物には、1本分だけで1日の推奨上限量を超える糖分が含まれているものがあります。これらの余分なカロリーは体重を増加させますが、他の栄養上の利点はありません。

お菓子、チョコレート、ケーキ、ビスケットなど、明らかに糖分の多い食品も、おやつとして管理するのがよいでしょう。しかし、大量の添加糖類が隠れている食品は意外と多いものです。朝食用シリアル、調理済み食品(「ヘルシー」とうたっているものも含む)、パスタソース、ヨーグルトなどには、驚くほど大量の糖類が添加されていることがあります。栄養成分表示を読み、成分表を確認することで、低糖のものを選ぶことができます。

添加糖類を減らすために、自分や家族でできることはありますが、それを実行するのは言うほど簡単なことではありません。そこで、政府が手を差し伸べる必要があります。

「たとえそのつもりがなくても、ジャンクフードを買い物かごに入れてしまうきっかけはいくつもあります。だからこそ政府には、誰もが簡単に健康的なものを選択できるような、より良い食環境が築けるように支援してほしいのです」とエディンバラ大学でがん予防を推進するLinda Bauld教授は述べています。

2020年のサクセスストーリー-英国政府の肥満対策

2018年4月に施行された砂糖税(糖類を含む飲料に対する課税)が、炭酸飲料や私たちの食生活から膨大な量の糖類を取り除くことに成功したことを嬉しく思います。英国政府の2020年肥満戦略で発表された他の施策と合わせて、国民が消費する糖類の量を減らすことで、将来的に何百万件もの太りすぎや肥満、そして過剰な体重に関連するがんを防ぐことができるはずです。

しかし、子どもたちに人気のある食品に含まれる糖類の量を減らすための政府による計画はあまり進んでいません。計画開始から4年が経過しましたが、産業界は政府が設定した自主目標を達成できず、自主的なアプローチが効果的でないことを示しています。これはフロント・オブ・パック(包装前面)栄養表示についても同様であり、一貫した義務的なアプローチが必要です。

また、2020年以降に予定されている英国政府の貿易協定交渉では、他の公衆衛生上の問題と並んで、食事の遊離糖類を減らすことを最優先に検討することが不可欠です。

甘い結末はない

糖類とがんについての話は複雑です。

糖類そのものががんの原因になるわけではありませんし、健康な細胞に害を与えずにがん細胞からブドウ糖を奪う方法は(現時点では)ありません。

また、炭水化物を極端に減らした食事をすることで、がんのリスクが下がったり、治療に役立つという証拠もありません。そして、患者さんにとっても、治療に取り組むためには十分な栄養を摂ることが大切です。

しかし、人々が摂る糖類の量が体重増加を促していることは懸念されます。太りすぎや肥満は、少なくとも13種類のがんのリスクを高めると言われています。

糖類を一切摂らなかったといって、がんを直ちに防ぐことにはなりませんが、健康的な食生活を心がけることで、がんになるリスクを減らすことができます。そして食事に含まれる糖類の量を減らすことで、健康的な体重を維持できるということぜひ覚えておいてほしいのです。

Emma Smith

*果物や牛乳、ヘルシーなでんぷん質の食品は炭水化物を多く含みますが、それ以外にも重要な栄養があります。これらの栄養価の高い食品には食物繊維も多く含まれていますので、丸ごとの果物や野菜、全粒粉や豆類をもっと食べるべきです。食物繊維はからだが自然の糖類をゆっくりと消化するのを助け、健康的な体重を維持するのに役立つだけでなく、大腸がんのリスクを減らします。

翻訳担当者 白鳥理枝

監修 大野智(補完代替医療、免疫療法/島根大学・臨床研究センター)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

がんと生活・運動・食事に関連する記事

ポンセグロマブはがん悪液質治療に大変革をもたらすか?の画像

ポンセグロマブはがん悪液質治療に大変革をもたらすか?

治験薬であるポンセグロマブが、がん患者に影響を及ぼすことが多い衰弱症候群である悪液質に対して有効な治療薬になる可能性があることが、臨床試験結果から明らかになった。

悪液質の特徴的な徴候は...
ストレス誘発性の免疫変化はがん転移を助長する可能性の画像

ストレス誘発性の免疫変化はがん転移を助長する可能性

過去数十年における研究から、お金の心配、仕事の問題、家族の緊張などの慢性的なストレスは、体内に化学変化を引き起こすことが証明されている。こうした変化は、血圧の上昇、炎症、特定のホルモン...
意図せぬ体重減少はがんの兆候か、受診すべきとの研究結果の画像

意図せぬ体重減少はがんの兆候か、受診すべきとの研究結果

ダナファーバーがん研究所意図せぬ体重減少は、その後1年以内にがんと診断されるリスクの増加と関連するという研究結果が、ダナファーバーがん研究所により発表された。

「運動習慣の改善や食事制限...
野菜、ナッツ/豆類が小児がんサバイバーの早期老化を軽減の画像

野菜、ナッツ/豆類が小児がんサバイバーの早期老化を軽減

米国臨床腫瘍学会(ASCO)​​ASCO専門家の見解  
「本研究により、小児期にがん治療を受けた成人において、濃い緑色野菜やナッツ・種子類の豊富な食事と早期老化徴候の軽減との間に強力な...