流行のケトジェニック食についてわかっていること、わかっていないこと
シリコンバレーの流行仕掛人ら や有名な俳優、さらにオンラインの健康サイトなどが、低炭水化物かつ高脂肪のケトジェニック食(ケトジェニックダイエットまたはケトン食)を 熱心に勧めるようになり、科学者らは脳の炎症が体重や心臓の健康状態に及ぼす作用や、潜在的な健康上のリスクにケトジェニック食がどのように影響するのか研究し始めている。
この食事療法の有効性と安全性を研究している研究者の中には、ケトジェニック食のさまざまな側面を研究してきたEthan Weiss氏とRaymond Swanson氏(両名ともカリフォルニア大学サンフランシスコ校の医師/研究者 )がいる。
ケトジェニック食は、炭水化物を1日のカロリー摂取量の5%未満に抑えるものである。これは、ほとんどの穀物、果物、でんぷん質の野菜、マメ科植物、そして菓子類を絶つことを意味する。 そして、脂肪がそれらのカロリーの代わりとなる。その脂肪は代替エネルギー源であるケトン体に変わる。炭水化物由来のグルコース以外では、脂肪由来のケトンが脳で使用できる唯一の燃料なのである。
Weiss氏とSwanson氏はケトジェニック食を分析した。
「何か主張しようという場合、わかっていることにこだわってみよう」とWeiss氏は語った。
わかっていること
Swanson氏は脳の炎症に対するケトジェニック食の影響を研究してきた神経学教授であるが、脳卒中を患った人にその後数日間持続する炎症を治療しようとしたとき、ケトジェニック食に興味をもった。 同氏は、脳卒中になったマウスにケトン生成状態を誘発しようとして「その影響に圧倒された」と話す。ブドウ糖代謝を阻害することによって炎症遺伝子が抑制され、次に脳卒中の回復が促進された。
脳卒中の回復に対するケトーシスの抗炎症効果は、特定のてんかん発作をもつ子供に効くのと同じ効果があると、カリフォルニア大学サンフランシスコ校ワイル神経科学研究所の研究員でもあるSwanson氏は述べた。 ケトジェニック食は、ほぼ1世紀の間、いくつかの形態のてんかんの治療として使用されてきた。
心臓血管研究所の准教授であるWeiss氏は、食事が体重や心臓の健康に及ぼす影響を研究しており、Virta Health Corp社の顧問を務めてきた。同社は、ケトジェニック食により2型糖尿病患者の血糖値をコントロールして2型糖尿病を治療している。
「それは信じられないほど強力です。炭水化物を減らすことは、代謝に非常に多くの利点をもたらします。身体は残りの炭水化物をより効率的に処理するので、インスリンの必要量がはるかに少なくなります」と、ケトジェニック食についてWeiss氏は述べた。
カリフォルニア大学サンフランシスコ校オッシャー統合医療センター研究部長であるFrederick Hecht医師も、2型糖尿病の人々を対象に、より多くの試験を実施している。対照試験では、ケトン生成状態はヒトのグルコース制御の改善と、必要とする糖尿病薬の低減に有望であった。
まだわかっていないこと
ケトジェニック食が人体に及ぼす影響に関する理解に立ちはだかる大きな障害の一つは、脳の炎症軽減を助け、脳損傷後の結果を改善し、寿命を延ばすなどの利点の多くが、マウスの研究でしか認められていないことである。
ケトーシスは維持するのが困難な状態であるため、発作予防以外で、ヒトを対象とした臨床試験はほとんど行われていない。果物、パン、豆類、そして、職場でたまにある誕生日ケーキなど、炭水化物を絶つことは、長期的には多くの人々にとって実現不可能である。
査読された臨床試験はなく、多くのメリットは 経験談報告のままである。 例えば、Weiss氏自身は、低炭水化物・高脂肪(厳密にはケトジェニック食ではないが)の食事を6カ月以上続けており、かなり良い気分だ、と主張する。 しかし、同氏は、わかっていることとわかっていないことについて自分自身が明確に認識している。 同氏は体重が減り、境界型前糖尿病ではなくなった。
「素晴らしい気分だと思う」と、同氏は言った。 しかし、それは同氏が加工食品をあまり食べなくなっていること、よりよく眠っていること、または体形が変わったことへの褒め言葉を楽しんでいることによる可能性がある。
ケトジェニック食が高揚感、認知促進、腎機能からがんの治療まで何らかの改善をもたらすという、健康や食事療法の教祖的存在の魅惑的な主張については、「われわれはまだ関連データを得ていない」とWeiss氏は語った。
研究者は、ケトジェニック食自体が本質的に危険ではないことに同意する。 しかし、「何らかの内科的疾患があり、何か薬を飲んでいるならば、薬の体内での効き方を変える要因は数多くあり、栄養は間違いなくその一つです。 あなたが栄養摂取法を大きく変えているのであれば、必ず主治医に話すべきです」と、Weiss氏は警告する。
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