がんと生殖医療(オンコファティリティ)

がんケアとリプロダクティブヘルス(生殖に関する健康)との架け橋

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がんと診断された若年者の生存率が上昇し、医師ら医療関係者は、がんやその治療が妊孕性に及ぼす影響を患者と家族に話す必要がある。

2006年、ノースウエスタン大学産婦人科Teresa K. Woodruff博士は、腫瘍学と生殖医療を結びつける新たな医学分野である「がん・生殖医療(オンコファティリティ:oncofertility)」という新しい用語を作った。同博士はがん・生殖医療コンソーシアムを設立して会長に就任した。同コンソーシアムは、若いがん患者のヘルスケアと生活の質の問題、特にがん発症後の妊孕性に関する問題に焦点を当てた学際的ネットワークである。

2019年11月、がん・生殖医療コンソーシアムはシカゴで年次総会を開催した。コンソーシアムはNIHの助成金で設立され、年次総会も一部NIHの支援を受けている。ここでWoodruff博士は、総会の最重要点とがん・生殖医療分野の発展について語る。

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「がん・生殖医療」と「妊孕性温存」の違いとは

腫瘍科医は生殖医療の専門家でないことが多いため、私たちは「がん・生殖医療」という用語を使用することの大切さに気付いた。この新しい用語を作ったことで、これが腫瘍科医が積極的に関与する必要のある集学的医療である、とがん医療に携わる人々がより理解できるようになった。しかし、腫瘍科医は生殖医療管理戦略を全て理解する必要はなく、また不妊治療専門医ががんに関する全ての側面を理解する必要もない。

この分野ができた頃、患者にはがんと生殖医療関係者との橋渡しをする良い方法がなかった。他の医療従事者と連携するような方法、たとえば、乳腺外科から形成外科へ紹介し、また乳腺外科に戻るといったやりとりである。がん・生殖医療という分野は、そのような状況や他の課題に取り組むために作られた。

一般の人々には数多くの(体外受精)不妊治療センターがあるが、がん患者が妊孕性の温存について相談するために受診する場合、6カ月間も待つ可能性がある。がん・生殖医療の診察では、患者は急を要するため、医師は治療と両立する一般的な不妊治療とは全く異なる方法を検討する必要がある。腫瘍科医と話し合い、がんの治療プランを理解した上で個別化した不妊治療を行う必要がある。

がん・生殖医療コンソーシアムの背景は

がん・生殖医療コンソーシアムは、若いがん患者の妊孕性の問題に取り組むという、緊急で満たされていないニーズに対し、協力し集学的戦略を立てたることを目的に設立された。

コンソーシアムは、以前はがん患者の妊孕性を管理する必要がなかった人々のための交流の場のようなものである。たとえば、腫瘍科医と不妊治療医の連携を図る。卵巣または精巣の組織を失った若いがん患者は単に不妊症になる可能性があるだけではなく、ホルモンが分泌されなくなることで骨に問題が生じたり、重度の早期閉経になったりする可能性があり、テストステロンを失うと男性であっても重症の閉経様状態やホットフラッシュを経験することがあるからである。

そのため、若年者の妊孕性だけでなく、ホルモン状態の管理など、全体としてがん患者が良好な生殖機能を獲得し、維持するのに役立つ方法を考慮している。

がん・生殖医療コンソーシアム年次総会で行われたこと

年次総会は、ある種研究室でのミーィテングのようなものである。世界的な著名人が発表するような典型的な総会ではなく、実際に日々患者ケアのの方法を考えている現場の人々の話を聞くのである。

今年の総会には、20カ国から250人が参加した。腫瘍科医、内分泌科医、泌尿器科医、小児および思春期の専門医、ソーシャルワーカー、ナースナビゲーター、さらに患者、両親、パートナー、祖父母、支援者、科学者などである。いわゆる「360度のケア」とも呼べる代表者が出席した。

この総会が成功し、成長し続けている主な理由の1つは、実践の場で積極的に関わりを持ち、妊孕性管理が、がんケア要素の一部であるといった確実な認識があるためと考えられる。

この数年間で年次総会はどのように展開してきたか

総会は様々な立場の人々と幅広いテーマで展開してきた。最初は展開の方法などのがん・生殖医療の実践のみが行われ、対象は主に成人がん患者であったが、徐々に小児へも広がった。

さらに、当初はまずこの分野を確立させようとしていたが、現在は本分野に関わる人々が直面する広範囲の問題に取り組んでいる。たとえば、治療による不妊の可能性に直面するがん患者などの妊孕性温存処置を保険の補償対象とする保険償還に関する法律について議論してきたが、これは今年米国の数州で通過した。妊孕性温存アライアンス理事のJoyce Reinecke氏からは、現在議論されている法律やアドボケート活動に関する素晴らしい報告があった。

もし2006年の時点で、2019年までに8つか9つの州でがん・生殖医療サービスを保険の補償対象とする法律が可決されると言われたら、「早すぎる。どうすればそんなに早くできるのか」と言っていただろう。これまで活動してきた人々に、私たちは毎年驚かされ続けている。

ミーティングで他に注目すべき点は、初めての参加者が毎年多くいることである。彼らは自らの手でがん・生殖医療を実践しようとしており、ナビゲーターが腫瘍学と生殖医療との連携を図れるようにする方法を新たに学んでいる。そのため、私たちは常にこのミーティングに新たに参加し基本や基礎を必要とする人々のニーズと、長年にわたりこの分野の進展を見てきた人々のニーズのバランスをとっている。

本年度のミーティングの注目点は何か

今年は、小児のがん・生殖医療に注目した。患者の親に情報を届ける方法について、多くのすばらしい議論が交わされた。

子供ががんと診断され、がん治療について学ぶ時、親は真剣に自分の子供たちの生存について考え、子供たちの将来の健康に関する多くの複雑な決断を下す。彼らが治療法とその効果についての議論に組み入れられるようになったことの一つが、子供たちの将来の妊孕性である。

妊孕性温存の治療に対して、患者の同意をどのように得る必要があるのか、また最良の方法は何である必要があるかについても話し合った。妊孕性を保護するための新たな治療の可能性と、小児に対する放射線療法の変更の両方の観点から、近い将来の展望について議論した。

2人の基調講演者は、妊孕性管理の倫理的問題を挙げた。その中には、小児や青年期の患者の両親が、現在、または患者ががんから回復して家族を持つ準備ができた後に、妊孕性に関する治療法の情報を確保することについて語られ、非常に活気のある討論であった。最初のミーティング以来、倫理、宗教、法律の問題はがん・生殖医療コンソーシアムの一部であり、議論の一部としてこれらを必ず討議の項目に挙げている。

がん・生殖医療について患者と医療従事者が今なお有する最も大きな課題は何か

最も大きな課題は、若い患者と妊孕性温存についての話し合いを開始することを提唱するASCOガイドラインを遵守するように、より多くの医師に働きかけることである。ガイドラインが遵守されない理由は、医師が妊孕性温存に否定的あるいは反対であるというのではなく、単に患者に紹介する容易なルートを持たない、または管理の方法に自信がないということかもしれない。

がん・生殖医療コンソーシアムが行う最も重要なことは、最終的により多くの米国内のがん患者が妊孕性の管理を行えるような仕組みを構築する手助けをすることである。

翻訳担当者 白鳥理枝

監修 吉田加奈子(メディカルライター、がん・生殖医療専門心理士)

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原文掲載日 

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