多数のAYA世代がんサバイバーが治療完了後の定期検診を受診せず

専門家の見解

「ここ数十年の若年者がん治療の進歩により、思春期および若年成人のがんサバイバーはいま寿命を全うすることが可能となっている。しかし、長年にわたり健康を維持するためには治療後の注意深いケアが必要である。より多くの若年成人がんサバイバーが必要な治療後のケアを確実に受けるよう、私たちには取り組むべき課題があるということをこの研究は示している」と、米国臨床腫瘍学会(ASCO)の専門医であり本日のPresscastの司会を務めたTimothy Gilligan医師(医学博士、科学修士、米国臨床腫瘍学会フェロー)は話している。

がんの治療を受ける思春期および若年成人(AYA)の大部分は、一次治療完了後、長期的な健康の維持に重要であるにも関わらず、治療後の定期検診を受診しないことが新たな研究で示されている。AYA世代のがんサバイバーは、心疾患、不妊、がん治療による二次がんなどのリスクが高い。

2005~2009年にがんと診断された患者の半数近くと、2010~2014年に診断された患者の3分の1が2016年中には腫瘍科医の定期検診を受けていなかった。これらの知見は、フロリダ州オーランドで近く開催される2018年がんサバイバーシップシンポジウムで発表される。

「AYA世代の多くは、がん治療完了後の自身の長期的リスクがどのようなものか意識していない」と、筆頭著者のLynda M. Beaupin医師(医学博士、ニューヨーク州バッファローのロズウェルパークがん研究所腫瘍科助教)は話す。「医師や他の医療提供者は、患者が受けたがん治療の特定の側面に基づき、将来起こりうる副作用や健康リスクについて患者自身が知るように、より積極的に取り組む必要がある」。

本研究について

以前の研究で、著者らは18~39歳までの27人のAYA世代を対象にフォーカス・グループインタビューを行い、治療完了後の定期検診受診の妨げとなっている主な障壁について尋ねた。要因として挙げられたのは、担当の腫瘍科医とのコミュニケーション不足、がんサバイバーとしての生活に適応するという目前の問題、また健康保険の喪失などであった。

このフォーカス・グループインタビューのフォローアップ研究として、著者らは、ロズウェルパーク包括がんセンターの腫瘍レジストリを利用して、同センターで治療を受けたAYA世代の大規模集団について調査した。同センターの腫瘍レジストリには、センターでがんと診断された患者全員の情報が記録されている。

研究データには、対象者の現年齢、がん診断時の年齢、性別、診断日、直近の受診日、がん種といった非特定情報を含めた。がん種として最も多かったのは、白血病/リンパ腫、メラノーマ(悪性黒色腫)、胚細胞腫、甲状腺がん、乳がんで、これらのがんはこの年齢集団に最もよくみられるがんである。

著者らは、上位5種のがんの治療を受けたAYA世代を2つの群に分けた。2010~2014年に診断を受けた852人と、2005~2009年に診断を受けた783人の2群である。また著者らは、治療後の定期検診時に受診者本人から提供された情報と保険加入状況データも含めた。

主な知見

がん治療の最終受診日からの経過時間が、治療完了患者が定期検診を予約しない最大の要因となっており、2005~2009年診断群では2016年中の定期検診未受診者は48%であったが、2010~2014年診断群では33%であった。治療を受けたがんの種類別では、定期検診受診の有無に差はなかった。健康保険加入状況については、2005~2009年診断群では定期検診受診の有無に影響はなく、2010~2014年診断群では健康保険未加入者の定期検診未受診率は加入者にくらべてわずかに高かった(39%対33%)が、この差は統計的に有意な差ではなかった。

次の段階

今後の研究では、就業状況、がんセンターまでの通院距離、がんセンター以外の医療機関での検査や治療の有無、また著者が最も重要だと指摘しているところだが、AYA世代が現時点のQOLをどう捉えているかなど、AYA世代の治療後の定期検診受診意欲に影響すると思われる要因について検討したいと著者らは考えている。

「この世代の患者は通常の寿命を生きる可能性があるので、彼ら自身が自らの擁護者となり治療後のケアを定期的に受けるよう、われわれは患者の意識向上をはかる必要がある」とBeaupin医師は話す。「心疾患の検査や必要時にリハビリテーションが行える設備を備えた実績のあるがんセンターで、患者が継続して定期検診を受けることをわれわれは望んでいる。現在、全国的にサバイバーシッププログラムが確立しており、治療を完了した患者への定期検診は可能となっている」。

著者らは、より包括的な研究のため医療保険提供機関が保有するようなより大規模なデータベースの利用を求めている。現在、大規模データを入手する確実な方法がないか、複数の医療保険提供機関に確認を行っている。

この研究は、米国国立衛生研究所の国立がん研究所から資金提供を受けた。

要約全文はこちら

患者向け情報(英語):
若年成人がん患者であること
治療後ケアの重要性

翻訳担当者 林 賀子

監修 朝井鈴佳(獣医学・免疫学)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

がんサバイバーに関連する記事

若年AYA世代を質の高いがんケアにつなぐプログラムの画像

若年AYA世代を質の高いがんケアにつなぐプログラム

思春期から自活、就職、社会での人間関係まで、青少年や若年成人は次々と立ちはだかる困難に直面しているように感じることがある。そこにがんが加わるとしたらどうだろう。

毎年、約9万人の青年・若...
医療を受けられないマイノリティがんサバイバー向け運動推奨プログラムの画像

医療を受けられないマイノリティがんサバイバー向け運動推奨プログラム

からだを動かすことは、がんサバイバーにとって、生活の質を向上させ、再発の可能性を低くするなど、多くの恩恵をもたらす。しかし、多くのがんサバイバーは推奨レベルの身体活動を行うのに苦労して...
野菜、ナッツ/豆類が小児がんサバイバーの早期老化を軽減の画像

野菜、ナッツ/豆類が小児がんサバイバーの早期老化を軽減

米国臨床腫瘍学会(ASCO)​​ASCO専門家の見解  
「本研究により、小児期にがん治療を受けた成人において、濃い緑色野菜やナッツ・種子類の豊富な食事と早期老化徴候の軽減との間に強力な...
大腸がんサバイバーの食事に豆を取り入れると腸内環境が改善し免疫・炎症プロセスに好影響の画像

大腸がんサバイバーの食事に豆を取り入れると腸内環境が改善し免疫・炎症プロセスに好影響

MDアンダーソンがんセンター食事に白インゲン豆を加えることで腸内細菌叢(マイクロバイオーム)が多様化し、がんの予防や治療に役立つ可能性

テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの新たな研...