がんサバイバーが感じる再発への恐れに、新たな心理介入法が効果

ASCOの見解

「がんサバイバーの数はこれまでにないほど増えていますが、多くのサバイバーは治療終了後長時間経ってもがんが再発するのではないかと恐れています。この恐れを軽減するための介入が良好な結果を示し、患者により広く適応できる道を開くことが望まれます」とASCOの乳がん専門医で米国内科学会名誉上級会員(FACP)のDon S. Dizon医師は述べた。

すべてのがんサバイバーの約50%および若年乳がんサバイバーの70%が、再発に対し中等度から高度の恐れを報告している。恐れは医学的フォローアップ行動、気分、人間関係、仕事、目標設定、QOLなどに悪影響を与えるほどの苦痛の原因になる可能性がある。しかし依然としてこの恐れを軽減する介入が不足している。

2相ランダム化試験で、Conquer Fearと呼ばれる心理介入により介入直後、さらに3カ月と6カ月後の再発に対する恐れを大幅に低減させた。治療直後の心理介入群では、一般的な不安、がん特有の悩み、QOLがより良好に改善された。

この試験は本日の記者会見で取り上げられ、2017年米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で発表される。

「心理介入群では再発への恐れが軽減され、サバイバーの心理的および感情的な安定性が十分に増大しました」。オーストラリアのシドニー大学腫瘍内科医で筆頭筆者の Jane Beith医学博士は述べた。彼女は同僚の精神腫瘍科医 Phyllis Butow, BA(Hons)Dip Ed, 公衆衛生修士のMClinPsych博士らとともにConquer Fear 介入を考案した。「参加者の大多数は若年乳がんの女性でしたが、私たちはこの介入が再発に対して中程度から高度の恐れを持つ他の患者にも適応するものであることを期待しています」。

介入について

Conquer Fear 心理介入は、筆者により考案された新しい理論構造に基づいている(本介入は研究のために考案され、臨床現場ではまだ使用されていない)。

訓練された試験セラピストは、10週間にわたり個別に6090分の対面セッションを5回実施した。Conquer Fearが重点的に取り組んでいることは以下である。

・がんが再発するかもしれないという特有の不確実性を受け入れる

・不安をコントロールする戦略を指導する

・どこに注意を向けるかはサバイバーにコントロールさせる

・患者が自身の人生から除外したいことを明らかにする手助けをする

・ふさわしいレベルのがんスクリーニングを選択し確実に実行する

試験について

研究者らは再発に対し強い恐れを報告した13期の乳がん、大腸がん、メラノーマのサバイバー222人をConquer Fear 介入群またはリラクゼーショントレーニング群(対照群)にランダムに割り付けた。すべてのサバイバーが本試験への登録の2カ月~5年前に治療を終えており、その時点で再発はみられなかった。

対照群のサバイバーには、60分間の個別の対面リラクゼーションセッションを5回実施した。セッションは訓練された試験セラピストが10週にわたり実施し、筋肉のリラクゼーション、瞑想的なリラクゼーション、視覚化および迅速なリラクゼーション技術を組み合わせたものであった。両群に在宅練習を指導した。

再発の恐れの変化を評価するために、研究者らはFear of Cancer Recurrence Inventory またはFCRIと呼ばれる妥当性のある42項目のアンケートの合計スコアを用いた。スコアの範囲は0から168におよび、スコアが高いほど再発に対する恐れが強いことを示している。サバイバーは登録時、介入直後、介入の3カ月および6カ月後にアンケートに回答した。

主な知見

ベースライン時の平均FCRI スコアは介入群で82.7、対照群で85.7であった。本研究の主要評価項目であるがん再発に対する恐れの合計スコアは、介入直後では、対照群(平均7.6ポイント)よりも介入群(平均18.1ポイント)でより有意に減少した。これは臨床的に重要と考えられる範囲内で、0.44という標準化された効果量を表している。

FCRI スコアは時間経過とともに減少し続け、6カ月時点では有意な群間差が認められ、介入群で平均27.2ポイント、対照群で平均17.8ポイント減少した。

研究者らはがん特有の悩み(がんについて考えることにどれほど悩まされているか)、一般的な悩み(不安、抑うつ、ストレス)、QOL(自立生活支援、身体的苦痛、精神衛生、幸福、コーピング、人間関係、自尊心)などの他の患者評価項目も調査した。心理介入は、リラクゼーショントレーニングよりもこれらの評価項目に対しより良い影響をもたらしていた。

次のステップ

筆者はConquer Fearが時間および資源集約的な介入である対面形式では効果的であることがわかった。インターネットを介した伝達、グループ内での伝達、あるいは電話による伝達などの他の方法でも可能かもしれない。面談介入を受けても深刻な再発への恐れを有する患者に限り段階的なケアアプローチも考慮される。

「この試験では、介入は経験を積んだ精神腫瘍科医によって行われました。適切な訓練や監督があれば、地域の精神科医や、認知療法の基本的訓練を受けたその他の専門家が介入を行うことができるでしょう」とBeith博士は述べた。

本研究はCancer Australia, beyondblue および National Breast Cancer Foundation.の資金提供を受けた。

全要約はこちら:full abstract

翻訳担当者 白鳥理枝

監修 小杉和博(緩和ケア内科/川崎市井田病院)

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