サバイバーシップ研究シンポジウムからの報告
MDアンダーソン OncoLog 2017年4月号(Volume 62 / Issue 4)
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サバイバーシップ研究シンポジウムからの報告
がんサバイバーを対象としたBKウイルス、心不全および誤嚥に関する研究
テキサス大学MDアンダーソンがんセンターに2月、米国内各地から医師や研究者が集まり、がんサバイバーシップにおける現在の傾向について議論した。MDアンダーソンで学部長兼 副学長を務めるEthan Dmitrovsky医師は、第5回サイエンスがんサバイバーシップ研究シンポジウムの開会の挨拶にて、「この分野は、サバイバーシップの科学を議論する必要のある時点まで発展してきた」と述べた。
シンポジウムで議論された研究の中には、がんサバイバーの主要な健康問題に対処するためにMDアンダーソンが取り組んできた予備研究の報告が3件あった。
BKウイルスは造血幹細胞移植後の生存率に影響
BKウイルスは同種造血幹細胞移植を受けた患者のおよそ70%に認められる。BKウイルスは、健康な人では基本的に不活性であるが、同種造血幹細胞移植を受けた患者などの免疫不全患者では活性化し、出血性膀胱炎、腎炎、尿管狭窄の原因となり得る。がん患者を対象にBKウイルスに関連する特性と造血幹細胞移植後の生存率に対するその影響を評価するため、2004〜2012年に悪性腫瘍に対して同種造血幹細胞移植を受けた新規患者2,500例の後ろ向き調査を実施した。同試験を主導した腎臓内科の助教Ala Abudayyeh医師は、「現在のところ、これらの患者を対象としたBKウイルスのスクリーニングや予防を目的としたプロトコールはない」と述べた。
患者は典型的には泌尿器症状を呈した場合のみ、BKウイルスについて検査されていたため、試験対象の2,477例中901例のみBKウイルスについて検査されていた。901例中、629例が陽性であった。
研究者らは、多変量解析を実施し、BKウイルス陽性患者の特性と転帰を陰性患者や未検査患者と比較した。
BKウイルス陰性患者や未検査患者と比較して、BKウイルス陽性患者では全生存期間が短かった。BKウイルス陽性患者のうち、高ウイルス量が全生存期間の短縮と関連していた。
研究者らはまた、症候性BKウイルスの危険因子には、固形がん、骨髄破壊的前処置、ドナーと患者との間におけるHLA(ヒト白血球抗原)不適合があることを明らかにした。Abudayyeh医師らは、これら3つの因子を用いて評価スケールを開発し、BKウイルスと関連する合併症のリスクが高い同種造血幹細胞移植患者を特定した。
研究者らは現在、もう1つの後ろ向き調査コホートにおいて同スケールを評価している。BKウイルスに対する経験的治療が現在実行可能となっていることから(Virus-Specific T Cells Treat Posttransplant Infections, OncoLog, March 2017)、Abudayyeh医師は同スケールによって、重篤な症状が発現する前にBKウイルス感染患者を診断および治療できるスクリーニング基準の確立を望んでいる。
化学療法誘導性の左室機能不全から回復後のがんサバイバーにおいて心不全治療薬の投与の中止が可能
化学療法誘導性の左室機能不全は、がん治療直後または数年後に起こり得る。心不全治療薬(β遮断薬、アンジオテンシン変換酵素[ACE]阻害薬、アンジオテンシン受容体遮断薬)は、化学療法誘導性の左室機能不全患者において左室駆出率を回復させることができるが、投与継続期間は不明である。なぜならば、これらの治療薬に関する全般的なガイドラインは、がん患者を除外した臨床試験の結果に基づいているからである。
現在実施中の1件の試験(Recovery of Left Ventricular Dysfunction in Cancer Patients[RECAP, No. 2012-0379])では、左室駆出率が回復した(すなわち、6ヵ月以上の間、左室駆出率が50%以上)化学療法誘導性の左室機能不全となったがんサバイバーで、心不全治療薬の投与を中止する予定である。心疾患を有する患者、心筋虚血、糖尿病、動悸や高血圧の既往歴を有する患者は、本試験から除外されており、最近、登録が完了した。
本試験の対象患者に対し、β遮断薬、ACE阻害薬、アンジオテンシン受容体遮断薬を慎重な管理のもと、投与量を漸減し、定期的に心エコー検査や症状に関する質問票によってモニタリングする。本試験はまだ進行中であるが、初期の結果が間もなく出る。看護部の助教かつ本試験の試験責任医師であるAnecita Fadol氏は、「心不全治療薬は一部の患者で投与を中止でき、当該患者は左室駆出率を維持している」と述べた。
呼吸筋運動によって頭頸部がんサバイバーの誤嚥が減少
頭頸部がんに対する放射線療法は、患者に嚥下障害や慢性的な誤嚥を引き起こすことがあり、その結果、肺炎のリスクが増加する。誤嚥減少を目的とした戦略(呼吸筋トレーニング[EMST])において、誤嚥する患者やパーキンソン病、脳卒中、筋萎縮性側索硬化症などの症状のために誤嚥のリスクがある患者での有益性が示されている。現在進行中の臨床試験(No. 2015-0238)では、放射線療法のために慢性的な誤嚥を伴う頭頸部がんサバイバーでもEMSTが有益であるかどうかを検討している。
EMSTは手持ちの装置を用いて実施する。患者はその装置に息を吹き込み、バネ仕掛けのバルブを開く。この筋力トレーニングは、患者の呼吸力を鍛え、患者が誤嚥した液体を咳で吐き出させ、結果として肺炎のリスクを減少させることを目的としている。過去の試験のデータでは、EMSTはまた嚥下に関連する筋力を鍛えることにより誤嚥を減少させることが示唆されている。
がんサバイバーを対象とした本試験は、頭頸部外科の准教授であるKatherine Hutcheson氏が主導している。本試験の主要評価項目は、頭頸部がんに対する放射線療法のために慢性的な誤嚥を伴う患者を対象に、誤嚥と呼吸機能との関連性を明確にすること、EMSTの臨床的有益性を評価することである。
Hutcheson氏らは本試験の開始前、頭頸部がん患者64例のパイロットデータを入手した。全例について放射線療法終了後の嚥下機能および呼吸機能が評価され、そのうち26例についてEMSTが実施されていた。患者の呼吸機能に関するそれらの試験では、誤嚥する患者では呼吸力が正常よりも弱いことが判明した。さらに、EMSTプロトコールを完了した患者では(3例は運動プログラムを完了せず)、最大呼気圧の平均値がベースラインと比較して57%改善した。また。これらの患者の30%では、バリウム嚥下検査で評価した誤嚥の重症度が低減した。
Hutcheson氏は、「EMSTの忍容性は良好であり、遵守率も優れている。生活の質に関する質問票に対するスコアも改善した」と述べた。
【画像キャプション訳】
Ala Abudayyeh医師が、第5回サイエンスがんサバイバーシップ研究シンポジウムにて、幹細胞移植患者を対象としたBKウイルス感染に関する研究を解説。
For more information, physicians can contact MD Anderson’s Office of Cancer Survivorship at survivorship@mdanderson.org.
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