血液検査で早期がんの発見は可能か

血液検査と画像診断を用いて、がんの既往歴も症状もない女性に、がん(一部は早期がん)が検出された。この種としては初めての研究である。

血液検査では、それぞれの検診が推奨される乳がん、肺がん、大腸がんが検出された。しかし、検診方法が存在しない他の7種類のがんも検出された。

ジョンズ・ホプキンズ大学医学部のNickolas Papadopoulos博士を研究代表者とする研究者グループが、症状が発現する前に血液検査を用いてがんを検出することが可能かどうかを検討する研究を計画した。また、検査の過程で参加者の不安や苦痛が生じたり、不要な診断手順につながらないことを確認したいと考えた。

この研究は、検査によってがんを検出し、発見されたがんを治療することで、参加者のがんによる死亡数が減少するかどうかをみるために計画されたのではない。

研究結果は米国がん学会(AACR)年次総会で発表され、Science 誌4月28日号にも掲載された。

直観に反するとはいえ、がんを早期に発見しても、がんによる死亡率が必ずしも減るわけではない、とUNCラインバーガー総合がんセンターのDavid Ransohoff医師は説明する。同氏はこの研究には参加していなかった。Ransohoff医師によれば、実際のところ、検診のなかには有益というより有害なものもある。

有害な可能性がある例として、患者の生存期間中に影響を与えることはないだろうと考えらえる非常に早期のがんの発見(過剰診断と呼ばれる事象)が挙げられるが、これは必要のない侵襲的な処置または治療(過剰治療として知られる)につながる可能性もある。

本研究において、標準的な画像診断に加えて血液検査を使用することによって、参加者約10,000人のうち26人のがんが検出された。この検査には偽陽性の結果もあった。つまり、一部の女性には誤ってがんがあったという結果が示されたが、精密検査でがんがないことが明らかになった。

しかし、偽陽性の検査結果を受けて初回の画像診断後に追加の精密検査を受けたのは38人にとどまり、そのほとんどが非侵襲的または低侵襲的な検査を受けた。

米国国立がん研究所(NCI)がん予防部門のSudhir Srivastava博士(公衆衛生学修士)は、がん検診の日常的な方法としてこの検査を採用できるかどうかを検討する前に、このような検査によってがんによる死亡数が減少するかどうかを検討する大規模な研究が必要であると説明した。

「とはいえ、これはその発想、計画および応用という点で画期的な研究です。これによって、将来的な[がん]検診のあり方が示される可能性が高い」と同氏は述べた。

腫瘍との双方向の相互作用

腫瘍はどんなに小さくても必ず、必要な栄養素を取り込むために血流とのつながりを維持している。この相互作用は双方向で行われ、腫瘍からは血液循環にタンパク質や遺伝物質が流出する。

研究者らはリキッドバイオプシーと呼ばれる方法を開発し、腫瘍から血流に流出した物質に利用してきた。このような検査では、血液(または他の体液)を用いて非侵襲的にがんを検出したり、治療を受けている人のがんの状態を追跡したりすることができる。

また、「(このような検査の)恩恵を受けやすいという点では、検診が何よりも第一に挙げられますが、同時に、最も難しい課題でもあります」、とAACR年次総会で講演したブリティッシュコロンビア大学バンクーバー校のDavid Huntsman医師は話す。「検診には高感度およびほぼ完璧な特異度が必要です」。つまり検診用の検査の場合、がんが存在するならば、その検出力がきわめて優れていなければならない。そして、がんでない人をがん患者としてはならない。

Papadopoulos博士らが、10年以上かけてCancerSEEKと呼ばれる検査を開発してきた。この研究で用いられた開発版検査では、血流中を循環する腫瘍DNAの断片から、がんに関連する遺伝子の16個の変異を検出する。また、いくつかのがん種によって過剰に生成される9個のタンパク質の血中濃度を測定する。2018年には、別の開発版の検査を用いて、ほとんどの子宮内膜がん患者および卵巣がんの患者の3分の1を正確に検出した研究結果を発表した。

しかし、その研究に参加していた女性にがんがあることは事前にわかっていた。Papadopoulos博士の説明では、このようながんは未診断の早期がんよりも大きくて進行しており、血液検査で検出しやすい可能性が高い。

偽陽性を減らす

これまで検出できなかった小さながんをCancerSEEKによって検出できるかどうかをみるために、研究者らはDETECT-Aと呼ばれる研究において、がんがあるかどうわからない65歳から75歳までの女性10,006人を登録した。承認された検診方法が存在しない、進行期になってはじめて発見されることが多い卵巣がんを検出する確率を高めるために、女性のみを対象とした。

この研究中に、女性参加者がストレスを感じる機会や不要な診断検査を受ける確率を減らすため、いくつかの対策が講じられた。

たとえば、この研究に登録する際に、最初の検査結果に関係なく、2回目の血液検査のために無作為に連絡が来るかもしれないことがあらかじめ伝えられた。これにより、1回目の検査で陽性の結果が出たことを伝える電話を受けることへの恐怖心を軽減した。参加者は研究のあらゆる段階で遺伝カウンセラーに相談することが可能であり、追跡期間中は推奨にしたがって標準的な検診を受けることが強く奨励された。

最初の血液検査でがんを示唆する遺伝子またはタンパク質のいずれかが高値で検出された場合は、 2回目の検査を案内した。2回目の検査で陽性が出た場合、また検査結果が他の健康状態によって説明できない場合は、全身PET-CT検査を紹介され受診した。PET-CT画像上でがんの疑いが認められた参加者のみが、精密な診断検査のためにがん専門医に紹介された。

このようなステップのすべてが「過剰診断を最小限に抑えるという点で重要でした」とSrivastava博士は述べた。

代替ではなく、補完として

この研究に登録した10,006人の女性のうち、最初に血液検査で見つかった26人が最終的にがんと診断された。

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研究登録者数 10,006人

最初の血液検査でがんが疑われた参加者490人

2回目の検査結果に基づいてPET‒CT画像診断を受けた参加者127人

画像診断後に精密な診断検査の紹介を受けた参加者64人

追加の非侵襲的な検査後にがんがないことがわかった参加者16人

追加の低侵襲的な検査後にがんがないことがわかった参加者19人

前がん病変の手術を行った参加者3人

血液検査で最初にがんが検出された参加者26人

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この26人のがんのうち、14人が卵巣、腎臓、リンパ系などの臓器に発症したものであり、承認された検診方法が存在しない。さらにそのうち9人は、発症部位からまだ広がっていないがんであった。

Papadopoulos博士によれば、このようながんは、すでに大きく広がったがんと比較して「治療が成功する可能性が高い」。

この研究では、血液検査では検出されなかった24人のがんが標準的な検診方法で検出され、乳がんが20人、肺がんが3人、大腸がんが1人であった。24人のがんのうち、22人は早期のがんであった。

さらに、この研究では、参加者のうち46人で、血液検査でも標準的な検診方法でも検出されなかったがんが発見された。この46人のほとんどが症状を訴えた後に診断された。

「では、検査結果が多くの無駄で侵襲的な追加検査の実施につながらないように、これらの[血液] 検査を安全に実施できるだろうか。できます」とPapadopoulos博士は言う。

AACRの同じセッションでの別の発表では、現在開発段階にあるリキッドバイオプシーを追加して実施することによって、がんの疑いで既に検査を受けている人のがんの検出に成功したことを取り上げた。

Huntsman博士によれば、「どちらの研究も正しい方向に進んでいることを示しています。しかし、まだ目的の達成には至っていません」。「これらの検査を採用できる段階まで持っていく」ためには、検査を受ければがんによって死亡する確率が減ることを示す必要がある。

CancerSEEKチームは、米国食品医薬品局(FDA)の承認申請を目標に、今より大規模な研究を計画している、とPapadopoulos博士は話した。その研究はDETECT-Aと似たような計画だが、年齢層を広げて男性も対象とする。また、CancerSEEK検査の最新版を使用する。

ただFDAの承認は、そのような検査のための最初のステップに過ぎないだろう、とRansohoff博士が警告した。「米国予防医学専門委員会(USPSTF)や米国政府機関のメディケア&メディケイド・サービスセンターのような支払者によって高いハードルが設定されることになるでしょう。さらにそのあと、医師や患者によってもハードルが設定されます」。一般的な規則として、検診による有益性が有害性よりも高いことが示されるまでは、そこまでの支持が得られない、と同氏は付け加えた。

また、「高いハードルが設定されるのは、検診が健康な人たちの生活に干渉するからです。つまり、本当に有益であるという確信がない限り、検診は行われません」とRansohoff博士は続けた。「そして、広く受け入れられている有益性の定義は、がんによる死亡率の低下です。[今のところ]、このような血液検査の対象とされているがん種に、死亡率の低下が認められるかどうかはわかりません」。

Srivastava博士は、血液検査を用いて複数のがんの検診を行うことについて、相当量の研究が進行中であると指摘した。「症状のない人に検査を実施することには課題がいくつか残っていますが、AACRで発表された2つの研究は画期的であり、現在推奨されている検診方法がないがんの早期発見が期待されます」と同氏は述べた。

Papadopoulos博士によれば、そのような血液検査に対する期待は、最終的に検査によって卵巣がんや肝がんなど多くはないが発見が遅れると致命的ながんによる死亡者数を減らすことにある。しかし、血液検査が現在診療所などで使用されているがんの検診方法に取って代わるとは考えにくい、と付け加えた。

「標準的な検診が有効であるため、どのような血液検査も、標準的な検診(乳がん、大腸がん、肺がんの検診)の補完として追加するべきです」。

翻訳担当者 ギボンズ京子

監修 石井一夫(計算機統計学/久留米大学バイオ統計センター)

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*このプレスリリースには、アブストラクトには含まれていない最新データが含まれています。ASCOの見解(引用)「都心部に住むマイノリティ集団におけるがん検査の格差が知られ...