がんの過剰診断ー重大なこの問題にフォーカスする

米国国立がん研究所(NCI)/ブログ〜がんの動向〜

原文掲載日 :2015年8月28日

3年連続で世界中の専門家が集まり、多くの種類の疾患における過剰診断のジレンマについて議論する。一般に過剰診断とは、身体に害を及ぼす可能性の低い疾患または病状を診断することと定義される。

Preventing Overdiagnosis(過剰診断を防ぐ)会議が、米国メリーランド州のベセスダ市において9月1日から3日まで開催される。米国国立がん研究所がん予防部門長であるBarry Kramer医師および当該会議運営委員会のメンバーによると、今年の会議で特に重要視されていることは、過剰診断への懸念について医師や国民にいかに上手く伝達するか、過剰診断の根本原因の特定、さらにそれによる悪影響の予防または軽減であるという。

Kramer医師は、がんの過剰診断の特定および予防を目的とした研究において重要な役割を担っている。いくつかの研究では、がんの過剰診断は広く普及したがん検診によって引き起こされている可能性が示唆されている。スクリーニング検査によってがんが早期発見される場合もあるが、Kramer医師は、過剰診断やその結果として生じる過剰治療など、検診の不利益についてさらに詳細に検討するために努力を尽くしている。

「今日における重要な問題の一つは、過剰診断が集団レベルでのみ特定されており、個人レベルでは医療従事者と患者の双方にとって本質的に『目に見えない』不利益を与えていることです」と、Kramer医師は説明した。「私たちが探求する目標は、過剰診断を個人レベルで特定し、予測される不利益が生じる前にそれを軽減することです」。

その目標に達するには、研究者はがんの「分子特性」をさらに研究する必要があり、それによって医師は、致死的となりうるがんへ進行する可能性が高い病変と、進行することもなく、身体に全く害を及ぼすことはないであろう病変とを区別することができると、同氏は指摘した。

またもう一つの重要な課題は、非常に早期の病変を説明するために使用される専門用語の問題である。おそらく最も良い例が、乳管内にがんと思われる細胞が存在するが浸潤しない状態である非浸潤性乳管がん(ductal carcinoma in situ [DCIS])である。病状名に「carcinoma(がん)」が使用されていることで、その単語が持つ懸念や不安を喚起する響きが原因となり、積極的な治療が誘発される可能性があることはすでに一部の研究者らは示唆している。

「用語を変更することができた実例の一つとして、子宮頸がんの場合があげられますが、以前は、前がん病変を上皮内がんとして分類していました」と、Kramer医師は述べた。「しかし、医師の間でその用語の使用法が変更され、医師と患者との伝達でもその変更を反映することができました。これらの子宮病変はがんとして表現されることはなく、現在では通常、子宮頸部上皮内腫瘍、扁平上皮内病変、または異形成と呼ばれています」。

Kramer医師は、その結果について「診断に付随する懸念や不安が実に小さくなった」と述べている。この例は、専門用語がいかに認識に変化をもたらし、その認識に従って医師または患者がいかに行動するかを明確に表していると、Kramer医師は語った。

Kramer医師によると、過剰診断についての伝達の仕方を変えることが今年の会議の重要な焦点であるという。しかし、一般大衆の認識を変えるのには時間が必要であると考えている。臨床試験や治療の進展に関するマスコミの報道は、病気を克服した患者の個人的な話や逸話を伴う場合が多い一方で、過剰診断が行われ、患者が不要な治療を受けたり不利益を被った場合については、その目的はそれほど容易に達成できるものではない。

しかし、Kramer医師は、過剰診断による不利益の可能性について積極的に発言をしている乳がんアドボケートについて取り上げている。この分野の活動は、ゆっくりではあるが状況に変化をもたらしていると、氏は語った。

過剰診断は、前立腺がんや乳がんなど、高頻度にみられるがんに対してのみ生じるものとして認識されている可能性があるが、それは事実ではないとKramer医師は述べている。

Kramer医師は、甲状腺がんやメラノーマなどの別の例や、その他のがんの例も同様に取り上げ、次のように指摘した。「これらのがんは過去10年以上にわたり、発症率が急速に上昇していますが、同時に死亡率が低下しない状況がみられます。それが典型的な過剰診断の例です」。

原文

翻訳担当者  栃木和美 

監修 斎藤 博(検診研究部/国立がん研究センタ-)

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