がん検診を受ける人が増えるとどうなる?

米国国立がん研究所(NCI) がん研究ブログ

このモデリング研究を開始した理由は?

NCIが出資するCancer Intervention and Surveillance Modeling Network (CISNET)は、私たちのような研究チームが、シミュレーションモデルを使用して、がんの検診や予防方法、ならびにがんの制御方法が変わることによる影響について質問に答えられるよう支援しています。

バイデン政権は、今後25年間でがんによる死亡率を50%以上低下させるというキャンサー・ムーンショットという目標を掲げています。私たちのチームは検診の普及がこの目標にどれだけ貢献できるかを考えました。

モデリング研究でわかったことは?

2021年の検診対象となる米国居住者において、USPSTFが推奨する検診受診率が10%ポイント増加した場合について、検診対象者がUSPSTF推奨開始年齢で検診を受け、かつ検診を生涯にわたって継続すると仮定して検討しました。

この10%ポイントの増加により、肺がんによる死亡数を1,010人(2021年の検診対象者45万4,000人中)、大腸がんによる死亡数を1万1,070人(対象者391万人中)、乳がんによる死亡数を1,790人(対象者218万人中)、子宮頸がんによる死亡数を1,710人(対象者213万人中)予防できることが判明しました。

研究の前提として検診の10%ポイント増加を選んだ理由は?

検診受診率はがん種によってさまざまです。現在、肺がん検診対象者の約13%が肺がん検診を受けており、大腸がん検診対象者の69%、子宮頸がん検診対象者の73%、乳がん検診対象者の76%が、それぞれ検診を受けています。

私たちは、がん検診のベースライン時の状態にかかわらず、すべてのがん検診で増加の程度が同じになるように、検診受診率が10%ポイント増加した場合の影響を評価することにしました。

例えば、10%ポイント増加すれば、肺がん検診受診率は23%、大腸がん検診受診率は79%になります。もちろん、USPSTFが最近推奨した肺がん検診は、他の種類のがん検診よりもはるかに改善の余地があります。

これらの解析が、検診の有益性に相対するリスク/有害性の理解に及ぼす影響は?

私たちの解析では、推奨されるがん検診の受診率が10%ポイント増加すれば、検診受診者の生涯にわたり、肺のスキャンによる推定10万件の偽陽性判定、大腸内視鏡による6,000件の合併症(出血など)、マンモグラフィ検査による30万件の偽陽性判定、34万8,000件の子宮頸部生検などの不利益が発生することが示されました。

意思決定者は、個人であっても医師であっても医療制度であっても、検診の有益性がリスクを上回るかどうかを考慮しなければなりません。これは、まだ厳密な評価の対象となっていない新しい検査において特に重要です。

研究で得られた意外な知見や、特に強調したい発見は?

私たちの論文の中でも特に興味深い知見の一つは、USPSTFが推奨する検診戦略の普及率が10%ポイント増加すれば、現在の検診と治療の傾向が継続した場合の予測数と比較して、2021年に新たに検診の対象となった人の生涯における肺がん死亡は1%、大腸がん死亡は21%、乳がん死亡は4%、子宮頸がん死亡は40%減少する可能性があるということです。

大腸がんと子宮頸がんの死亡者数が大幅に減少したことは、当初は驚きでしたが、この結果は理にかなっています。肺がんや乳がんの検診とは異なり、大腸がんや子宮頸がんの検診では、これらのがんの前駆病変も発見し治療することができます。つまり、これらの推定減少率は、大腸がん検診と子宮頸がん検診の予防と早期発見能力の複合効果を表しています。

肺がん検診の受診率増加による肺がん死亡の減少がわずかであったことも、当初は意外でした。大腸がん検診、乳がん検診、子宮頸がん検診の推奨が年齢のみに基づいているのに対し、肺がん検診の対象者は一定の喫煙歴のある人だけであるからと解釈しています。

また、肺の検診と禁煙プログラムを併用することで、肺がんによる死亡をさらに予防できることも明らかになりました。もちろん、禁煙は他のタバコ関連の死因も防ぐことになります。

研究の限界に関する注意点は?

当然ながら、モデルは現実を完全に反映することはできませんが、十分に検証されたモデルは、帰結を改善する上で可能性のある手段を明らかにすることができます。私たちのモデルはそれができると考えています。

研究の限界の一つは、10%ポイント増加した受診者は、USPSTFが推奨する通りにきちんと検診を受けると仮定したことです。すなわち、推奨された年齢で検診を開始し、その後推奨された間隔で検診を反復して受け、検診で異常結果が出た場合には推奨されたすべての検査と処置を受けると仮定しました。残念ながら、現実の世界はこの理想とは異なるため、この結果は最善のシナリオと見なされるべきです。

また、推奨通りに検診を実施しなかった場合に結果がどのように変化するかを示しました。例えば、45歳から10年ごとに大腸内視鏡検査の実施するのではなく、50歳で大腸内視鏡検査を1回しか実施しなかった場合、検診受診率10%ポイント増加によって免れる大腸がん死亡数は32%減少すると推定されました。

検診率が低い理由は? その対処方法は?

検診受診率が国の目標を下回っているのには多くの理由があります。これらの理由のいくつかは、制度的な偏見、医療サービスへのアクセスの欠如、システムの複雑さなど、米国の医療システムの性質を反映しています。

さらに、すべての臨床医が現在の検診推奨事項を認識しているわけではなく、認識していても患者に検診を推奨していない臨床医もいます。検診受診率を高めるためのさらなる努力ががんによる死亡の減少につながることを、私たちの研究で証明できればよいと願っています。

この試験から得られた課題は?

推奨される検診の受診率が増加すれば、米国におけるがんの負担軽減に役立つでしょう。しかし、乳がん、子宮頸がん、大腸がんおよび肺がんの検診受診率の全体的な向上だけに焦点を当てれば、25年以内にがん死亡を50%減少させるというバイデン政権の目標は達成されない可能性が高いことが、今回の結果から示唆されました。

予防と治療の進歩とともに、がん死亡リスクの高い人々の検診受診率を高めるように的を絞った取り組みが必要でしょう。

  • 監訳 斎藤 博(がん検診/青森県立中央病院)
  • 翻訳担当者 三宅久美子
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  • 原文掲載日 2024/1/26

この記事は、米国国立がん研究所 (NCI)の了承を得て翻訳を掲載していますが、NCIが翻訳の内容を保証するものではありません。NCI はいかなる翻訳をもサポートしていません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】

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