2012/11/27号◆”科学的根拠に基づくがん検診”特別号-8「がん検診について医師に尋ねるべき質問」
NCI Cancer Bulletin2012年11月27日号(Volume 9 / Number 23)
~日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中~
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◇◆◇ がん検診について医師に尋ねるべき質問 ◇◆◇
健康政策・臨床診療ダートマス研究所のDr. Lisa Schwartz氏とDr. Steven Woloshin氏ががん検診の利益と不利益について語り、がん検診の統計学についてのよくある誤解を解説。
また、NCIキャンサーブレティン記事「数値の解読:がん検診の統計値を正しく読み取るために」にも言及する。
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Type: (MP3) | Time 6:09 | Size: 7.3 MB |
【スクリプト訳】
Lollar:医師からがん検診を勧められた場合、患者はどのような質問をすべきでしょうか?Dr.Steven Woloshin氏とDr. Lisa Schwartz氏は健康政策・臨床診療ダートマス研究所の“医学とメディア”センターの共同責任者です。 2人は一般内科医であり、ともに医療情報の伝達と理解の向上を目指した多くのプロジェクトに携わっていらっしゃいます。
Woloshin:がん検診の話をする際、しばしば’相対リスク’と’絶対リスク’という言葉を耳にするでしょう。大事なことは、これらの意味を明確に知ることです。検診を受けることで癌によって死亡する確率が20%減ると聞いたことがあるでしょう。それは非常によいことだと思って検診に行くかもしれませんが、知っておく必要があるのはその20%という数字が絶対的に何を示すかということです。何の差でしょうか?それを知るにはただ一つ、出発点を知る必要があるということです。何から20%減るのか?例えば、あなたが行った店でセールをやっていたとします。ネクタイが10ドル(800円)で販売されていたものがセールで20%オフであれば販売価格は8ドル(640円)です。
Lollar:8ドル。絶対的な差は2ドル(約160円)となります。しかし、$ 40,000(約320万円)かかる高級車で20%であれば、あなたにとってもっと大きな意味をもつでしょう。なぜならこの場合の絶対差は8000ドル(約64万円)にもなるからだとWoloshin氏は言います。どちらの例でも、相対的な差は20%です。しかし、その20%がどれほど重要かを決定づけるためには、絶対差を知る必要があります。検診が有意に死亡リスクを低下させるかどうかは、まず、死亡の絶対リスクとはどのくらいかを知る必要があるのです。それは4万ドルの車のように大きいでしょうか?または10ドルのネクタイ程度でしょうか?
Woloshin:検診が実際に受ける価値があるかを判断するため、いくつか質問をすることは本当に大事なことだと思います。最初に尋ねるべき質問は、検診を受けない場合、この癌によって自分が死亡する確率を尋ねることです。そして、検診を受けた場合、その確率がどう変わるかを尋ねてみてください。その差が絶対リスクであり、あなたが知っておく必要がある数字です。
次に、その確率の差はあなたにとって有意義だといえるかどうか判断します。検診の不利益を考慮する必要があるためです。検診はメリットだけではなく、不利益を伴うのです。偽陽性の判定の可能性もあります。つまり、検査結果が返ってきて、癌かもしれないと疑われる場合、その後、さらに侵襲的な検査を受けなければならないかもしれません。実際に癌ではなかったとわかるまでの期間は非常に不安な心境が続く可能性があります。また、増大することもなく、決して害を引き起こすことはなかったであろう癌が検診によって見つかり、引き続いて不必要な治療を受けるといった過剰診断の可能性もあります。そして、さらに難しい質問ではありますが、過剰診断がどのくらいの割合で起こるかを、検診を提供する医師に確認することが重要です。
Lollar:Woloshin氏とSchwartz氏はまた、社会的通念に反しますが、特定の検診が死亡リスクを下げるかどうかを知るうえで、5年生存率の統計は無関係である、と指摘されています。
Woloshin:検診について話される際、人々はよく検診が5年生存率などの生存に与える影響についても耳にするでしょう。そして、これはみなさんが大変混乱される点であると思いますが、5年生存率の低下および向上は、実際に個人の死亡する確率が変わるかどうかとは関係がないのです。検診の背景にある生存統計は非常に欺瞞的であり、一般の人々にとって最も安全な方法は、それらを無視することです。
Schwartz:もうひとつ推奨するのは、その検診が実際に有効であると私たちに示すゴールドスタンダードのエビデンス(根拠)はありますかと問うことです。実際に検診が有効であるというためには、検診を受けた人々では、検診を受けなかった人々に比べてその癌による死亡が減少したと、ランダム化試験で証明されなければなりません。
さらに利益が証明されている検診についても、われわれはこれまで、できるだけ人々を怖がらせる必要があるとしてそういった方法をとってきました。それでは矛盾を生むと思います。恐怖心を煽ることで、人々が自身の健康に不安になり、必要以上に脆弱だと感じ、回復力に自信を失うことを私たちは非常に懸念しています。私たちの目標は、健康の増進です。検診の利益を過剰に述べたり、癌のような不運なことが各自に起こる可能性を誇張したりしないように、細心の注意を払わなければならないと思います。
Woloshin:だから私は、彼らに検診を受けるよう説得するのとは反対に、むしろ患者に事実を知らせることが本当に重要なことだと思います。最終的には、検診の利益を得るのも、その害に苦しむのも受診者なのですから。
Schwartz:自らの癌による死亡の確率を下げるためにできることはすべてやりたいと思う人もいるでしょう。そういった人々は不利益を理解する半面、それ以上に、できることはすべてやったという気持ちが大事なのでしょう。また、今、健康だと感じていて、検診はまさにコイン投げのように思えて受けたくないという人もいます。医師として、人々が検診を受けるというよい意思決定ができるよう、もしくは受けないというよい意思決定ができるように手助けできればと願っています。
Lollar: Lisa Schwarz氏とDr. Steven Woloshin氏がNCIキャンサーブレティンのライターである Sharon Reynoldsとのインタビューにこたえ、「数値の解読:がん検診の統計値を正しく読み取るために」記事が書かれました。米国国立癌研究所(NCI)キャンサーブレティン最新号はこちら。アーカイブ検索や、無料メール配信にも登録できます。司会進行は、私、米国衛生研究所(NIH)の国立癌研究所(NCI)広報部Cindy Lollarでした。
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野中 希 訳
林 正樹 (血液・腫瘍内科/社会医療法人敬愛会中頭病院) 監修
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