2012/11/27号◆”科学的根拠に基づくがん検診”特別号-2.対談「米国予防医療作業部会(USPSTF)議長Dr. Virginia Moyer氏に聴く」
NCI Cancer Bulletin2012年11月27日号(Volume 9 / Number 23)
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◇◆◇ 対談 ◇◆◇
米国予防医療作業部会(USPSTF)議長Dr. Virginia Moyer氏に聴く
米国予防医療作業部会(USPSTF:U.S. Preventive Services Task Force)は、がん検診を含む予防医療に関して、エビデンスに基づく推奨ガイドラインを作成する組織であり、そのメンバーは米国議会で定められているように予防医療およびプライマリーケア領域の16人の専門家で構成されている。ここでは、USPSTF の議長で、ベイラー医科大学小児科学教授であるDr. Virginia Moyer氏が、作業部会の義務と問題点、そして教訓について、NCIキャンサーブレティンに語った。
1984年、USPSTFはなぜ発足したのですか?
プライマリーケア(※開業医など一次治療)に携わる医師らは予防にあまり関心を持たないとの認識が一般的で、それに対応するために、USPSTFは作られました。したがって、当初の目的は病気の予防に何が有効かを検討し、プライマリーケア医らにそれらを実践してもらうことでした。
予防と考えて行うことすべてが実際に効果があるわけではないため、当初の目標は有効な予防法を診療に取り入れることでした。
作業部会は、どのような経緯で推奨ガイドラインを作成することになったのですか?
特定の癌の検診といったことに取り組む場合、論理モデルを考案する必要があります。たとえば、検診によってどのような害が生じるのか、そしてどのような利益を得られる可能性があるのか、また、検診は、その後の癌発見と治療につながるため、治療によってどのような利益を得られ、どのような害を被ることになるのかのモデルの検討が必要です。
われわれは、現在あるすべての研究を慎重に調査します。その後、エビデンスの質を評価する明確なシステムを用いて、ネット・ベネフィット(純便益)が確実にあるのか、またあるとすればどの程度のネット・ベネフィットが期待できるかを決定します。そうしたモデルを用いるなかで、われわれは推奨グレードを考案しました。
そのプロセスは、明確で系統だったものです。どなたでもそのプロセスをご覧になれます。
作業部会のメンバーの見解は個人的なものでしょうか、それとも、それぞれの施設やその他の組織を代表した見解でしょうか?
われわれはみな有志の集まりで、それぞれの所属団体を代表するものではありません。みんな日中は仕事を持っていますが、たとえば私は作業部会の検討会に参加して「私は、ベイラー医科大学を代表してきました」とは言いません。自分自身の専門領域を代表して参加しています。
つまり、個人として独立評価メンバーを務めています。また、作業部会は国の支援を受けていますが、われわれ自身は、国に雇用されているわけではありません。USPSTFは国に義務付けられており、米国医療研究品質局(Agency for Healthcare Research and Quality:AHRQ)の支援を受けています。
検診が有益であるのはどのような場合でしょうか?
検診が唯一有効であるのは、人々が、特定の癌であるかどうか判別できる検査があり、かつその癌に有効な治療がある場合です。しかし、すべてがそんなにうまくはいかないのです。
治療が劇的に効くのであれば、検診は必要ありません。精巣腫瘍はその一例ですが、診断時のステージにかかわらず、非常に高い割合で治療可能で、検診での早期発見が予後に影響を及ぼすことはありません。
逆に、有効な治療が全くないのであれば、その場合もまた検診は無駄ということになります。例えば、膵臓癌であれば、効果のある治療といってすぐには思いつかないでしょう。その場合も検診を実施する理由はありません。
ちょうどその中間にある癌に対して、検診が有益となる可能性があります。治療の効果が期待できるけれど、早期発見すればさらに治療効果が上がると予測される場合です。
治療が有効であればあるほど、検診の必要性はなくなります。例えば、乳癌に関して近年起こっている事象について言えば、治療が今ほど有効でない時代にはマンモグラフィはもっと有益でした。マンモグラフィ検診は減少しつつあります。それは、治療が向上しているからです。
つまり、がん検診は、極端に治療が有効な癌と、極端に治療がない癌の間にちょうど適合するスポットがあるということです。それこそ、われわれが研究するべき領域であり、治療が進歩するにしたがい、今後も研究を重ねていかなければならない領域なのです。
作業部会は推奨グレードを作成する際、コストを考慮しますか?
われわれは正式な費用対効果の解析は行っていませんが、医療資源への配慮はしています。いかなる医療上の決定においても医療費を考慮することは大事ですから。例えば、われわれの抑うつ検診の推奨では、治療が可能な場合は検診を行うべきとしています。治療の提供が不可能ならば検診の意味はありません。
ただ、コストを抑える方法を模索することについては、明らかにわれわれの使命とは異なりますので行いません。
がん検診の推奨を変更する際、作業部会にとって最も高い障壁は何ですか?
最も大きな障壁は、癌が連続的に変化する病気ではないことを一般の人々が理解していないことです。癌は1つの癌細胞から発生して、途中で食止めない限り、例外なくどんどん大きくなって死に至るというわけではないのです。癌はそれほど単純ではありません。もし、それが正しければ過剰診断など起こらないでしょう。見つけた癌がすべて増殖する癌であると決まっているなら、そして、癌の早期に治療すればよりよい効果があるのであれば、常に検診は有効ということになります。
しかし、癌はそのようなものではありません。同じ癌種であっても非常に多様性のある疾患です。例えば乳癌において、顕微鏡下で癌に見える細胞であっても、決して大きくならず、おそらくは退縮すると考えられる癌もあります。他方、顕微鏡下で全く同じに見える細胞でも急速に進行し、手の施しようがない制御不能の癌であることもあります。
したがって、それほど多様性に富んだ疾患であるのだから、検診が完璧であろうはずがないということが容易にご理解いただけるでしょう。われわれが答えを出そうとしているのは、検診がどれだけ有益なのかということです。検診は、その不利益を上回る利益があるのか。なぜなら、検診は常に不利益を伴うからです。実際、身体に害を与えうるのです。
最も困難な出来事だったのが2009年マンモグラフィ検診の推奨変更です。科学的に困難だったわけではありません。一般の人々に理解してもらうことが難しかったのです。
その経験からどのようなことを学んだのでしょうか?
乳癌検診の推奨変更の際に学んだことは、われわれが何者か、そしてどのようにしてその決定に至ったかを、まず人々に理解してもらわなければならないということでした。そのとき以来、われわれは検討のプロセスを事細かに公表してパブリックコメントを求めました。それは非常に役立ちました。
そのような経緯があり、今ではわれわれの研究計画についてパブリックコメントを募集することにしています。関心があると思われる人たちや患者支援団体すべてに呼びかけます。その他、連邦政府機関、医師のグループや医療関係者団体などすべての協力団体や組織に呼びかけるのです。われわれの追求しようとする問いかけが正しいものであることを確認したいのです。
投票で決定した推奨グレードの草案作成段階においても同様に、草案に対するパブリックコメントを求めます。この時点で、それまでわからなかった情報が明らかになる可能性はきわめて低いですが、それまでのコミュニケーションが上手くできていなかったことをすぐに把握でき、その改善に取り組むことができます。
マンモグラフィ論争のような痛手を経験したことは、評価プロセスの公開性という点で、結果的にわれわれを何年分も進歩させてくれたと思います。
— インタビュー: Sharon Reynolds
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野中 希 訳
後藤 悌 (呼吸器内科/東京大学大学院医学系研究科) 監修
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