2012/11/27号◆”科学的根拠に基づくがん検診”特別号-1.ゲスト報告「Dr. Otis Brawley氏による解説‐がん検診の利益と不利益」
NCI Cancer Bulletin2012年11月27日号(Volume 9 / Number 23)
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◇◆◇ ゲスト報告 ◇◆◇
Dr. Otis Brawley氏による解説‐がん検診の利益と不利益
米国では、がん検診に関する多くの情報にさらされる。ラジオでは肺癌検診の利益を過大に宣伝し、人々を病院へと誘い出そうとする。一部の癌支援団体は、前立腺癌や乳癌の検診を勧めている。そしてマスコミも検診の利益を強調する。しかし、多くの人はがん検診の複雑さを理解していない。大半の専門家機関が、検診のリスクと利益の可能性を認識するように患者に提言しているが、それも同じく知られていない。
検診では、癌リスクを有する年齢または性別(男性か女性か)だけで、何の症状も認められない人の癌を調べることになる。
検診を賢く利用すれば命を救うことができ、この20年で癌死亡率を20%減少させた重要な要因の一つである一方で、検診は複雑なものでもある。
私は、検診の専門家として、多くの人がこの問題を単純に考えすぎていることを危惧している。がん検診は、慎重に実施すべきである。標準的な検診に関する科学的根拠の評価の結果、検診にまつわる潜在的なリスクおよび利益について患者は説明を受けるようにと、大半の専門委員会が勧めている。診断検査および陽性結果に関連する治療も同様である。
患者は100%正確な検診など存在しないことを理解する必要がある。どんな検査でも、癌を見逃すことはある。例えば、高品質のマンモグラフィでも20%以上の腫瘍が見逃され、前立腺癌の検診では半分の前立腺癌が見逃される。また、検診は不安も引き起こしうる。そして、稀な例ではあるが、検診が早期死亡を引き起こすような治療や診断的介入につながることさえある。
場合によっては検診で初期癌を発見できるが、依然として不必要な治療や治療に関連するあらゆる副作用につながる可能性がある。これらの癌は過剰診断されているのだ。癌の基準をすべて満たし、顕微鏡下では癌のように見えるが、たとえ何もせずに放置しておいたとしても進行もせず、死亡することもない。いくつかの研究によれば、検診で発見された局所乳癌の3分の1、局所前立腺癌の最大70%が過剰診断とされる。他にも多くの癌で過剰診断がなされており、特に甲状腺癌および肺癌に多くみられている。
過剰診断のために、診断後の生存期間が長くなり、診断から5年後に生存している患者割合が高くなる。このことは、必ずしも検診が有益であるという根拠にはならない。過剰診断を受けていた患者もいれば、初期に診断されたものの長く生存しなかった患者もいるかもしれないからである。( 「数値の解読:がん検診の統計値を正しく読み取るために」 参照)
それでもやはり、検診は癌によって失われる命を減らすための取り組みとして重要なものである。そして、このNCIキャンサーブレティン特別号でスポットを当てているように、現在、がん検診の有効性および効率の改善に焦点を当てた膨大な数の研究が進められている。
例えば、多くの研究者が癌の宿主に対する次世代のがん検診開発にたずさわっている。これは、忍耐と根気のいる徹底した研究だが、進捗状況は有望なものである。
他にも、癌医療において最も根強く致命的な問題の一つ、すなわち私たちの医療制度全体にある「格差」を解決しようとしている研究者もいる。婦人科腫瘍専門医なら誰でも、パップ検査やHPV検査が子宮頸癌を予防できることは知っている。しかし、不十分な検診を受けていたか、一度も検診を受けないまま進行期の子宮頸癌になってから治療を行う女性(多くはアフリカ系アメリカ人または健康保険に加入していない女性)が多すぎることも周知の事実である。PROSPR(Population-Based Research Optimizing Screening through Personalized Regimens)と呼ばれる革新的なプログラムでは、特に十分な医療サービスを受けていない人々に焦点を当て、がん検診のプロセス全体を改善し、そうした傾向を逆転させることを目指している。
その他の取り組みとしては、CISNET(癌介入・調査モデルネットワーク)と呼ばれるものがある。大規模なランダム化試験などのがん検診に関する研究結果を一般人口に外挿する最適な方法を探るため、高性能コンピューターモデリングを用いる取り組みである。この試みでは、喫煙歴に基づき肺癌リスクの高い人を対象とした全米肺検診試験(NLST)の結果を深く分析している。
このNCIキャンサーブレティン特別号には、著名な検診の専門家たちががん検診の統計の解釈について、また、特に患者と医師との会話の中で検診に関してどう考えて話すのかについての議論も掲載している。
がん検診の方法を改善するために行われている研究の広がりには、大変頼もしさを感じる。その進捗は、いつも私たちが望むほどのスピードで進むとは限らないが、この分野に従事する研究者たちの専門知識や献身に目を向ければ、未来は大いに有望である。
Dr. Otis W. Brawley
米国癌協会医務部長
エモリー大学血液学・腫瘍内科学・医薬および疫学教授
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濱田 希 訳
小宮武文 (腫瘍内科/NCI Medical Oncology Branch) 監修
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