2010/07/13号◆スポットライト「合成生物学、癌治療への応用の可能性」

同号原文
NCI Cancer Bulletin2010年7月13日号(Volume 7 / Number 14)


日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中〜

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◇◆◇ スポットライト ◇◆◇
合成生物学、癌治療への応用の可能性

要約:合成生物学とは、生物学的要素を人工的に創り出す分野で、自然界に存在しない生命システムを作り出したり、すでに存在する生命システムを再デザインすることである。

NCIと国立総合医科学研究所が4月に開催したワークショップでは、この分野の癌研究への応用の可能性と倫理問題について議論された。

【You Tube訳】

Dr. ギャラハン
合成生物学とは、実際に生物を構成している成分の設計と再設計をするための取り組みであり、化学、生物工学、生物学のさまざまな有効な技術を統合し、オルガネラ(細胞小器官)や細胞などの構築に関する知見を得ようとするものです。

このような生物学的要素を新たに再設計する人工合成技術は、癌などの疾病の解明と治療へと応用されます。

Dr. リー
癌研究に関しては、多くの興味深いプロジェクトが現在進行中です。

例えば、ある研究者たちは細菌細胞を操作することにより、腫瘍細胞をターゲットとして浸入するバクテリアを創りだしました。

がん細胞に入るとすぐに、この新たに創られたバクテリアは宿主であるがん細胞を殺すための毒性酵素を放出するのです。

すごいですね。

他にもあります。

細胞内での新種のシグナル経路やネットワークを構築する新たな分子スイッチをデザインする研究者がいます。

この新たな細胞内ネットワークは、異常な細胞内シグナル伝達現象を検出し、これに応答します。

その他の例では、薬剤開発があります。

合成生物学の手法を用いて開発され、FDAが初めて承認した薬剤は抗マラリア製剤であるアルテミシンです。

これは新薬開発の新規な方法に貢献する合成生物学の可能性を示すものでしょう。

Dr. リー
この分野が開発された当初から倫理的な懸念はありました。

この新技術が誤った人によって利用されたらという悪用に対する保安上の懸念と、

たとえ正しく用いられたとしても、環境や人の健康に対して意図しない結果をもたらすかもしれないという安全性の懸念です。

それでも、この分野は始まったばかりですし、これから進歩していくでしょう。

新たな問題や新たな懸念が生じることは免れないとしても、この分野のリーダー達が生命倫理問題についてのあらゆる議論や研究を活発に交わらせることを非常に嬉しく思っています。

Dr. リー
将来的には…

確実にこの科学技術は向上します。

塩基配列解析技術やDNA合成技術、タンパク質合成技術が向上し続けていることはご存知の通りです。
なにより、生物学の他分野から得られた新たな知見が合成生物学にもたらされ、融合されることにより、合成生物学者はより洗練されたデザインの構築とこれまでよりも臨床応用に近い体系での生命システムの合成が可能となるでしょう。

Dr. ギャラハン
合成生物学の分野において、われわれは大きな変革期にあると思います。

こんなに多くのワークショップが開かれるのはそのためです。NCIはこの分野の推進に非常に熱心です。

それは、われわれが現在、最も多くの細胞のパーツリストを知り得ており、かつ化学反応法は日進月歩していて優れた合成法があるからです。

われわれはすでに、より方向性の定まったやり方で合成生物学の応用を始めるための、その臨界点に達しています。

Dr. リー
われわれはこの数年、特にDNA塩基配列決定技術やDNA合成法の分野において、すべての科学技術の革新や革命とも言えるものを目の当たりにしています。

この分野は、今、まさに開花しようとしています。

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野中 希 訳
高山吉永(分子生物学/北里大学医学部分子遺伝学・助教)監修 
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