内因性オピオイドはモルヒネとは大きく異なる影響を脳細胞に及ぼす

合成オピオイド薬の中毒性の解明につながる可能性のある研究

運動によって生じる「ナチュラルハイ」状態の原因と言われるエンドルフィンなどは体内で作られるオピオイド物質である。脳細胞すなわち神経細胞のそれらに対する反応は、モルヒネやヘロイン、および純粋に合成されたオピオイド薬であるフェンタニルなどに対する反応と異なることがUCサンフランシスコ校の研究者を筆頭とする新しい研究で示された。この研究結果は、合成オピオイドの使用が中毒につながる理由の解明に役立つかもしれないと述べている。

合成オピオイドおよび、脳で産生される天然の「内因性」オピオイドのいずれも、神経細胞表面のオピオイド受容体に結合してそれを活性化させるので、研究者らは長い間、両タイプの分子は同じ細胞系を標的にしていると仮定してきた。しかしながら、新しい研究によって、これらの分子が細胞内部のオピオイド受容体をも活性化させ、かつこれらの活性化される細胞内受容体の位置が、天然オピオイドと合成オピオイドとでは異なることが明らかになった。

Neuron誌の5月10日号に掲載された新しい研究で、研究者らは、この違いは合成オピオイド薬による効果の方が内因性オピオイドによる効果より報酬性が高い理由の説明に役立つ可能性があると報告する。

「オピオイド薬が、天然オピオイドによる作用以外に何らかの作用をもつという根拠は今まで何もありませんでした。そのため、薬の使用者が話した経験―すなわち、オピオイド薬は、彼らがこれまでに得たどんな自然の報酬よりも、強烈な快感が得られたという経験―に整合性を持たせることはこれまで困難でした」と、UCSFの精神医学教授であり、今回の論文の上席著者であるMark von Zastrow医学博士は述べた。「これらのオピオイド薬に、天然オピオイドでは得られなかった効果を引き起こす可能性があることは大変興味深いです。なぜなら、このことは使用者が言及するこの極めて報酬性のある効果と似ているように思われるからです」。

von Zastrow研究室の研究者らは、薬化学助教であるAashish Manglik医学博士と協力して、オピオイド薬または天然オピオイドと共にオピオイド受容体に結合する「バイオセンサー」を作り出した。このツールによって、研究者らは細胞内で何が起こっているのかを知ることができ、以前に比べてオピオイドの効果をより詳細に調べることができるようになった。「これは、オピオイドが作用する特定の種類の神経細胞において、これらの受容体が活性化する場所を探り出す方法です」と、von Zastrow氏は説明した。彼は、UCサンフランシスコ校 Weill Institute for Neurosciencesに所属している。

すべての天然または合成のオピオイド分子は、細胞表面の受容体からだけシグナルを伝達する、と一般に考えられてきた。オピオイド結合受容体は、それから、細胞内でエンドソームと呼ばれるコンパートメントに取り込まれるが、受容体はここからはシグナルを伝達しないと考えられていた。長い間支持されてきたこの見解を覆して、研究チームは、受容体が実際にエンドソーム内で活性を維持し、細胞内でシグナルを保持するためにエンドソームを使用することを発見した。

しかしながら、最も興味深いことに、研究チームは、モルヒネおよび合成オピオイドが、ゴルジ体と呼ばれる別の細胞内の場所にある受容体を活性化し、そこでは内因性オピオイドはいかなる活性化も起こさないことを発見した。

「ゴルジ体内に内因性オピオイドが接近することができない薬物が活性化する別の場所があったことは、本当に驚きでした」と、von Zastrow研究室の博士研究員である筆頭著者のMiran Stoeber博士は言った。「われわれが一般的に内在性オピオイドの模倣体であると考えていた薬物は、実際には、天然分子が接近できない場所で受容体を活性化させることによって異なる効果を生み出しています」。

さらに、モルヒネと合成オピオイドは、受容体に結合したり、エンドソームに入ったりすることなく、細胞膜を通過した。それらは直接ゴルジ体まで進み、内因性オピオイドがエンドソームに入るのに1分以上かかるのに対して、かなり速くわずか20秒でゴルジ体に到達した。この時間差は中毒の進行において重要である可能性がある。なぜなら、通常、薬物の効果発現が速ければ速いほど、中毒になる可能性が高くなるからであると研究者らは述べた。

研究者らは彼らの研究結果が、中毒リスクがより低い新しいタイプのオピオイド系鎮痛薬の創製に応用されることを望んでいる。彼らはまた他の既存薬について、それらが天然オピオイドまたは合成オピオイドのように作用するかどうかの検証を計画している。

「脳の中に入る能力を有するが、個々の神経細胞の内部においては異なる活動をする、より良い、より選択的な薬剤を開発するために、これらの原理を活用する可能性に非常に興奮しています」とvon Zastrow氏は述べた。「これは薬剤開発では研究されていない分野です。なぜなら、人々は今までこのことについて考えなかったからですが、そこには将来性があります」。

この研究における他の著者は、UCSFのDamien Jullies氏とBraden Lobingier氏、ブリュッセル自由大学(ベルギー、ブリュッセル)のToon Laeremans氏とJan Steyaert氏、およびClinical Research Institute(カナダ、モントリオール)のPeter Schiller氏であった。

この研究は、国立薬物乱用研究所(National Institute of Drug Abuse 、DA10711, DA012864, DA004443, and DP5 OD 02304801)、カナダ保健研究機構(Canadian Institutes of Health Research、MOP-89716)、およびスイス国立科学財団(Swiss National Science Foundation、P2EZP3_152173 and P300PA_164712)からの資金提供を受けている。

(画像)
UCSFの研究者らは、いつどこでオピオイドが適合受容体に結合するかを知らせる「バイオセンサー」を開発した。モルヒネを神経細胞膜(左側のパネルで紫色に見える部分)に適用すると、薬物は急速に膜を通過して、20秒以内にゴルジ体と呼ばれる細胞内構造(右側のパネルで明るい黄色と白色の部分)の受容体に結合した。
画像提供:Von Zastrow lab / UCSF

翻訳担当者 畔柳祐子

監修 佐藤恭子(緩和ケア内科/川崎市井田病院)

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