正確なテロメア長検査が治療法の選択に影響

ある種の疾患では、正確なテロメア長検査が治療法の決定に影響を与える。

テロメアは染色体DNAの末端を保護するキャップである。テロメアが短いという特徴を持つ疾患があるが、どの程度短いと短すぎるのか?

ジョンズホプキンス大学

ジョンズホプキンスの医師や研究者主導の研究から、テロメアと呼ばれるDNAエンドキャップの長さを変動率5%で測定できる検査が、特定のタイプの骨髄不全患者に対する治療法の選択を変える可能性があることが示された。

全米科学アカデミー紀要2月20日号に掲載された論文では、さらにテロメア長検査の結果が、短いテロメアに関連する疾患を発症するリスクの高い人を特定するのに役立つ可能性があることも指摘された。

ジョンズホプキンス大学キンメルがんセンターの腫瘍学教授で、テロメアセンターの臨床ディレクターを務めるMary Armanios医師によると、一群の遺伝性疾患である肺線維症という肺瘢痕や骨髄不全に共通する所見には、テロメアが非常に短いという特徴がある。

Armanios医師の説明では、少なくとも5000〜1万人のアメリカ人が短いテロメアに関連する障害を持つ。「これらの疾病に罹患している人の数は、ある種の白血病と同程度に上り、私たちは、その有病率が現在の推計を上回ると考えています」と同氏は言う。

「私たちの目標は、臨床での信頼性が高く、病院で使えるテロメア長測定ツールを開発すること、ならびに、正確な診断と治療法の推奨を目的に、医師と患者がツールを利用できるようにすることです」。そう、Armanios医師は語る。

テロメアは靴ひもの両端にあるプラスチックチューブのようなもので、染色体DNAの両末端を保護する役目があり、ふつうそれは老化に伴って短くなる。テロメアはDNAの反復配列からなり、通常、細胞の正常な寿命の間に起こる短縮化に耐えるだけの長さがある。テロメアが非常に短い細胞では、こうしたエンドキャップを通常よりも早く使い果たし、このために特定の疾患を発症する可能性がある。テロメアが短い人は、肺線維症、骨髄不全のほか、肺気腫、肝臓病、骨髄異形成症候群および他のがんを発症しやすい傾向がある。

「通常の臨床所見や現在の検査では、テロメアの非常に短い患者の大部分を特定することができないでしょう」。Armanios医師は続ける。「そのため、この状態を診断する分子検査が必要なのです。特に、病院にかかっているテロメアの短い患者は、通常の投薬や処置によって副作用を起こしやすいのですから」。

「フローFISH」検査(フローサイトメトリーおよび蛍光in situハイブリダイゼーション)は、患者の血液サンプル内の細胞のテロメア長を厳密に測定する。この検査は、カナダのPeter Lansdorp医学博士によって2006年に開発された。フローFISHでは、それぞれの細胞の核に非常に小さな穴を開け、そこから蛍光標識を付けたDNAを入れる。するとそれがテロメアに付着する。その後、フローサイトメトリーという方法で、血液サンプル中の細胞種を同定し、ひとつずつ細胞中の蛍光シグナルを定量する。

今回の研究でArmanios医師は、ピッツバーグ大学所属(前ジョンズホプキンス所属)のJonathan Alder博士およびジョンズホプキンスの研究者らとともに、フローFISH検査を用いて健常者192人を対象にテロメアの長さの分布を調べた。参加者は全員、ジョンズホプキンス病院から集められた。対照群であるこのグループからは、新生児から82歳までの血液サンプルが採取された。

ジョンズホプキンスの研究チームは、自分たちボルチモアのデータとカナダのバンクーバーの研究者が発表した値とを比較した。バンクーバーの研究者らもフローFISH検査を行なって444人の健康な人のテロメア長を測定している。

ボルチモアとバンクーバーの値は同程度で、互いに5%以内に収まるものであった。さらに、出生時に8000〜1万3000塩基という、正常なテロメア長の範囲についても同様であった。

「この再現性と精度は、臨床現場で使うテロメア長検査ツールとして理想的だと考えています」とArmanios医師は語る。

その後、テロメラーゼとそれに関連する酵素の遺伝子に変異があるとわかっている60家系、100人を対象に、テロメア長を検査した。そのうち、73人は短いテロメアに関連する疾患の症状があり、27人はまったく症状がなかった。73人のうち骨髄不全の21人は、肺線維症か肺気腫に罹患している41人よりも平均して30歳若かった。
このグループの患者の中で、テロメアが特に短い人たちは、比較的軽度なテロメア異常の人たちよりも、より若年(小児期および10代)で疾患症状が出る傾向があった。

さらに、2012年から2014年の間にジョンズホプキンス病院で診察された小児および成人の原因不明の骨髄不全患者38人のうち、10人でテロメアが非常に短いことを、Armanios医師のチームはフローFISHによって明らかにした。これらの患者のうち9人は、医師の判断により、化学療法の用量を減らした骨髄移植や、免疫抑制薬の使用の削減、テロメア関連遺伝子の異常を補うための移植ドナーのスクリーニングなど、治療法を穏やかなものに変更した。

「テロメア検査は正確かつ再現可能なものである必要がありますが、さらに重要なのは、この情報が治療法決定の指針としてどのように使用できるのか、とうことです」。そう、ジョンズホプキンスの分子生物学および遺伝学部門のDaniel Nathans ProfessorおよびディレクターのCarol Greider博士は言う。Greider博士は1984年にテロメア伸長を制御する酵素テロメラーゼを発見し、この功績でElizabeth Blackburn氏とJack W. Szostak氏と共同で2009年にノーベル生理学・医学賞を受賞している。

Armanios医師の考えでは、ある種の原因不明な低血球数の患者には、最良の治療法を決定する上でフローFISH検査を行なうべきだという。

最近、テロメアの長さから生物学的な「年齢」を推定できるという着想のもと、今回のものとは異なるテロメア長の検査を大衆向けに提供している企業が何社か存在する。

これら店頭販売されるテロメア長の検査は、定量ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)と呼ばれる手法を使用している。この方法は、患者の血液サンプル中の細胞を集め、それらのDNAを抽出して増幅したのち、その中に見出される反復配列の量を測定する。

Armanios医師および他のグループの研究により、テロメア長を調べるqPCR検査には、実施日や実施施設によって最大20%の変動率があることが実証された。

Armanios医師の考えでは、こうした店頭販売のテロメア検査では正確で実用に耐える情報は得られないという。「通常のテロメア長の範囲内では、人の正確な生物学的年齢を決定することはできませんし、『若さ』の指標としても適していません」。Armanios医師は続ける。「さらに、テロメアが長ければ長いほど、健康に良いというのも定かではありません。そこまで長いテロメアはがんのリスクを高めるおそれがあると示唆する証拠もあります」。

1つの血液サンプルを調べるのにかかるコストは、qPCR検査で約100ドル、フローFISHで400ドルである。

Armanios医師によれば、ジョンズホプキンスはフローFISHによるテロメア長検査を提供する米国で唯一の病院であるという。

本研究には以下の研究者も参画している。ジョンズホプキンス所属のVidya Sagar Hanumanthu氏、Amy E. DeZern氏、 Susan E. Stanley氏、 Clifford M. Takemoto氏、Ludmila Danilova氏、Carolyn D. Applegate氏、Stephen G. Bolton氏、David W. Mohr氏、Robert A. Brodsky氏、James F. Casella氏。アイオワ大学所属(前ジョンズホプキンス所属)のJ. Brooks Jackson氏。

本研究は以下より援助および寄付金の提供を受けている。the National Institutes of Health (K99-R00 HL113105、K23 HL123601、R37 AG009383、RO1 CA160433、RO1 HL119476、T32 GM007309)、the Maryland Stem Cell Research Fund、the Commonwealth Foundation、the Johns Hopkins inHealth initiative、the Flight Attendants Medical Research Institute、the Gary Williams Foundation、Sachiko Kuno医師。

キャプション
染色体DNAの両末端で白く輝いている部分がテロメア。

翻訳担当者 筧 貴行

監修 高山 吉永(分子生物学/北里大学医学部分子遺伝学)

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原文掲載日 

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