血小板に結合させた免疫療法薬が腫瘍の再増殖を抑制
この研究は、免疫療法薬を送り届けるように改変された血小板が、外科手術で残存したがん細胞を効率的に除去し、新たな腫瘍の形成を防ぐ可能性を示唆する。
本研究で、研究者らは血小板(通常はかさぶたを作り傷の治癒を助ける)に免疫チェックポイント阻害薬(抗腫瘍免疫応答のブレーキを解除する免疫療法薬の1種)を化学的に結合させた。
研究者らは、腫瘍の大部分が切除された悪性黒色腫および乳がんのマウスモデルに免疫チェックポイント阻害薬を結合させた改変血小板を投与すると、通常の血小板または免疫チェックポイント阻害薬それぞれの単独投与よりも、腫瘍の再増殖と転移が抑制され、生存期間が延長することを見出した。
こうした免疫療法は、まだマウスにおいてのみではあるが、従来の免疫療法よりも副作用を抑制できる可能性がある、と研究チームは確信している。
「私はこの手法を気に入っています。切除可能な腫瘍を有する患者にとって特別な保険となる治療法が加わるかもしれません」と、NCIがん研究センター泌尿生殖器悪性腫瘍部門長であり免疫療法グループ長のJames Gulley医学博士は述べている。同氏は本研究に関与していない。
本研究はZhen Gu博士(ノースカロライナ大学チャペルヒル校、ノースカロライナ州立大学)主導の研究で、Nature Biomedical Engineering誌電子版1月23日号で発表された。
分子標的薬担体の開発
転移のない固形腫瘍患者の多くは、腫瘍切除手術を受ける。しかし腫瘍の完全な切除は困難で、がん細胞の一部は切除後にも残存する場合がある。このような残存がん細胞は原発性腫瘍がある部位で再増殖、または転移して別の臓器に新たな腫瘍を形成する可能性がある。
Gu氏らは、術後補助療法としての免疫療法薬が、切除部位を標的にして残存がん細胞の除去を促すことができるのではないかと考え、がん細胞表面のPD-L1タンパク質を阻害する免疫チェックポイント阻害薬を選択した。本薬剤は免疫細胞によるがん細胞攻撃を可能にする。
この阻害薬を届けるために、Gu氏らは血小板を利用する事を考えた。その理由は、血小板は手術創に集積し、血流を循環する転移がん細胞と接触する可能性があること、また、血小板は創傷部位で活性化し、創傷治癒を促す局所の免疫応答を増大させる化学物質を放出するからでもある。
Gu氏らは、PD-L1阻害薬(aPD-L1)とマウスの血小板とを化学的に結合させた。実験室で改変された阻害薬結合血小板は、活性化させると予測された免疫活性化物質と共に阻害薬aPD-L1を放出することを見出した。
次に、悪性黒色腫モデルマウスで腫瘍の約99%を切除し、このマウスに阻害薬単独または阻害薬結合血小板を注射した。注射から2時間後に、蛍光標識タグによって阻害薬結合血小板の手術創への集積が確認された一方で、阻害薬単独の投与では集積は見られなかった。
また、切除手術のみを受けたマウスと比較して、切除手術後に阻害薬結合血小板の投与を受けたマウスでは、創傷部位での免疫活性化物質の濃度が上昇し、抗がん作用を有する免疫細胞数が増加した。一方、阻害薬結合血小板投与マウスの血流中では、これらの免疫活性化物質の濃度は上昇しなかった。これにより、免疫系の活性化は創傷部位のみに生じることが示された。
最も重要なこととして、通常の血小板投与マウスや阻害薬単独投与マウスと比較して、阻害薬結合血小板投与マウスでは、切除手術後における腫瘍の再増殖が最小限に抑制され、生存率が著しく上昇していた。
阻害薬結合血小板による転移性腫瘍形成の抑制能を評価するために、Gu氏らは悪性黒色腫細胞をその腫瘍が外科切除されたマウスの血流中に注入し、マウスを通常の血小板、PD-L1阻害薬、または阻害薬結合血小板を注射した。
これらのマウスを約7週間追跡調査したところ、阻害薬結合血小板投与マウスのみで、原発性腫瘍の増殖が抑制されると同時に転移性肺腫瘍数も減少していたことがわかった。また、通常の血小板投与マウスやPD-L1阻害薬投与マウスはこの40日以内に全てが死亡したが、阻害薬結合血小板投与マウスでは、約半数が40日目に生存していた。
浸潤性乳がんマウスに阻害薬結合血小板を投与した場合にも同様の結果が観察されている。
可能性を最大限に生かす
ヒトPD-L1阻害薬であるアテゾリズマブ(Tecentriq)といくつかの他の免疫チェックポイント阻害薬はFDAにより各種進行がん治療薬として承認されている。これら免疫チェックポイント阻害薬は少数の患者において奏効が長期間持続することが知られている。
Gu氏らによるPD-L1阻害薬結合血小板の研究と同様に、臨床研究者は術後補助療法としての免疫チェックポイント阻害薬の使用も模索していると、Morteza Mahmoudi博士とOmid Farokhzad医師(Boston’s Brigham and Women’s Hospital)は付随記事で言及している。
術後補助療法としての免疫チェックポイント阻害薬を使用する最終目標は、「切除縁における微細な腫瘍由来の再発リスクおよび血流を循環する腫瘍細胞が播種する微小転移リスクの減少である」とMahmoudi氏とFarokhzad氏は記した。
特に切除手術が有効な患者の症例において、あらゆる術後補助療法は安全で、患者の生活の質を損なってはならないことが重要であるとGulley氏は解説する。「理想の術後補助療法は、転帰を改善する一方で、患者に対して重篤な症状を引き起こさないものでしょう」と同氏は述べている。
「免疫チェックポイント阻害薬は通常忍容性が高いとはいえ、まれな症例では患者の免疫系を過剰に活性化させ、正常細胞に重篤な損傷を与える可能性があります。実例として、一部の免疫チェックポイント阻害薬は、自己免疫疾患、炎症性疾患、および1型糖尿病も引き起こしています。われわれはこうした副作用の抑制を目的とした局所または標的部位への薬剤輸送法を試しているところです」と言い添えた。
本研究はPD-L1阻害薬結合血小板の有効性の検証を目的としたが、Gu氏らはPD-L1阻害薬(抗PD-L1抗体)と比較して、PD-L1阻害薬結合血小板では副作用が抑制されるのかを確認する目的の研究をさらに実施する意向である。
また、自分達の研究はまだ序章でしかないとGu氏は考えている。
「これはプラットフォーム技術です。われわれは血小板を使用してPD-L1阻害薬を送り届けました。しかし、血小板は間違いなく他の抗体、低分子医薬品、または化学療法薬などの他の治療薬を届ける媒体、すなわち担体として使用されるでしょう」。
治療薬としてのPD-L1阻害薬結合血小板の可能性について、Gulley氏はこう述べた。「PD-L1阻害薬結合血小板がどのようにして臨床で使用されるのかは不明です。しかし、腫瘍に対するさらなる分子標的治療により、現行の免疫チェックポイント阻害剤による治療戦略を改良できるという仮説が確実に浮上していると私は考えます」。「より典型的な転移がんを持つマウスモデルでもPD-L1阻害薬結合血小板ががんの拡散を抑制するかどうか、興味が持たれます」と、Gulley氏は言い添えた。
同様の手法で、NCIのGulley氏らはサイトカイン療法の後継となるべく、腫瘍標的免疫サイトカイン(抗がん作用を有する免疫細胞を呼び寄せる分子)療法の臨床的可能性を模索している。
【図のキャプション】
血小板
抗PD-L1抗体(PD-L1阻害剤、aPD-L1)
PD-L1阻害薬結合血小板(抗PD-L1結合血小板、P-aPD-L1)
血小板活性化
T細胞受容体(TCR)
PD-1
T細胞
主要組織適合遺伝子複合体(MHC)
PD-L1
腫瘍細胞
PD-L1阻害薬結合血小板(P-aPD-L1)は手術創を標的とする。手術創で阻害薬結合血小板は阻害薬(aPD-L1)を放出し、また免疫細胞(T細胞)を呼び寄せる。阻害薬(aPD-L1)とT細胞は共同で残存する腫瘍細胞を死滅させる。
Nature Biomedical Engineering誌 ©2017(マクミラン出版社)からの許可を得て転載(Wang, C. et al. In situ activation of platelets with checkpoint inhibitors for post-surgical cancer immunotherapy. Nat. Biomed. Eng. 1, 0011)。
原文掲載日
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