遺伝子検査の結果に関する患者教育‐COMET研究ついてCarol Weil氏へのインタビュー

COMET(腫瘍プロファイリングに関するコミュニケーションと教育)研究とは、がん患者が遺伝子検査について教育を受けた後にどの程度知識を深めたのか、腫瘍プロファイリング試験の結果を知った後にどの程度ストレスレベルが減少しているのかを調査するために2016年9月から開始されている、NCI-MATCHに対する補助研究である。NCI-MATCHとは、腫瘍に特異な遺伝子変異を有する患者と、その変異を標的とする薬剤を合わせようとする治療試験である。

このインタビューでは、NCIがん診断プログラムの倫理規制関連プログラム部長Carol Juliet Weil氏がCOMET研究について説明し、遺伝子検査結果がいかにがん患者を勇気づける手助けになるかを議論する。

 COMETで何を知りたいか

腫瘍の遺伝子プロファイリングの利益と限界を、いつ、どのように患者に伝えるのが最もふさわしいのか、という重要な疑問に答えが得られていない。COMET研究の主要な目的は、自身の腫瘍プロファイリングの結果を知る前に、セルフガイドのオンライン遺伝子教育プログラムに参加した無作為抽出による200人の患者では、通常の臨床手順で情報を得た200人の患者より、遺伝子情報の本質と潜在的な影響に関する知識がより深く、検査結果を受けたときの悩みが少ないことを検証することである。

 標準的ケアの参加者は、遺伝子スクリーニングの結果を受け取った後、希望によりオンライン教育プログラムを3カ月受けることができる。

 この試験研究でうまくいくことが立証されれば、教育介入が将来の抗腫瘍薬の臨床試験におけるモデルになる可能性がある。

 続いての研究は、腫瘍プロファイリングにより示された遺伝的に受け継いだ可能性、すなわち生殖細胞系、変異などの結果を知らされたNCI-MATCH参加者100人を対象に行われ、電話による遠隔的な遺伝子カウンセリングの実現可能性とその影響を査定するものである。

NCI-MATCH試験検体には血液や唾液などの患者の正常組織の塩基配列決定は含まれず腫瘍だけを検査している。言い換えれば、NCI-MATCH遺伝子試験では、腫瘍変異が生殖細胞系にも存在し、かつ家族に遺伝する可能性について確実に断言できないのである。もし患者が自分自身の腫瘍プロファイリングの結果で潜在的な遺伝による変異を持つ可能性を知ったら、示唆された結果を確認するための生殖細胞系試験が必要になるだろう。このような状況で、疑われた生殖細胞系をさらに確認検査するかを決定する患者にとって、遺伝子カウンセリングが適している。そのようなカウンセリングを希望する場合には、患者が結果を解釈し、理解する手助けとなる。

一般的に、遺伝子カウンセリングは本人に対して行われる。しかし遠隔地域やフルタイムの遺伝子カウンセラーがいない場所では、電話やビデオカンファレンスを経由して多くの人々に対する遠隔カウンセリングが行われている。

 NCI-MATCH参加者の約4分の3が標的療法に適合しない可能性。該当するCOMET参加者の反応

NCI-MATCHで標的療法の選択肢がないという結果を聞くことは、患者にとって厳しく、受け入れ難いニュースであるに違いない。COMETの遺伝子教育で、治療が適合しない患者に対していくらかでも自律する手段や安心感を提供したいと願っている。

COMETへの参加することで、患者らは少なくとも自分自身の遺伝子と遺伝子歴を深く理解することができる。さらに一般にバイオマーカーに基づく研究での遺伝子検査の本質と意義に関する情報も提供しており、プロファイリングの限界や家族性の遺伝性疾患を診断するための生殖細胞系の確認試験など、可能性のある選択肢の情報も含まれる。

研究は、がん患者が自身の病気に関する情報を得るとき、たとえ臨床的な治療方針が提供されなくても励まされたように感じることが多いことを示している。

COMETの参加者をNCI-MATCHから募るのはなぜか

NCI-MATCHは患者の遺伝学的知識や知り得た遺伝子情報についての考え方を研究するのに理想的である。なぜならがん患者の治療に直接関係がない、多くの遺伝子データが研究で生み出されるからである。

他の利点は、NCI-MATCH患者がNCI 腫瘍学共同プログラムを通じ、NCIが任命する主要大都市部のがんセンター、および地方や人口の少ない地域のコミュニティに根差した医療提供者らから募られていることである。われわれはすべての患者に対する最も良い提供法を調査するために、できるだけ倫理的かつゲノム的に異なる研究参加者を登録する必要がある。

COMET参加者だけではなく全てのNCI-MATCH参加者が臨床検査結果を受け取ることができるが、ゲノムプロファイル結果に対するCOMET参加者の反応をわれわれが知ることはとても役にたつ。なぜなら患者は遺伝子検査の結果、特に家族に関係するような情報に対し様々な態度や好みを示すことが研究で示されているからである。そのため、われわれがCOMETで行っている研究は、自分自身の遺伝子情報についてもっと学ぼうという患者の思いの程度をより良く理解するために大変重要である。

不確実な結果や、家族に影響する結果を知った患者はどうだろうか

繰り返すが、これは患者間で起こりうる反応の範囲の1つである。国際ヒトゲノム研究協会のBarbara Biesecker医師らは不安を持つ患者の安心度を研究した。遺伝性の乳がんや卵巣がんの結果に対する反応の研究では、遺伝子結果を受け取る患者よりも、結果を伝える医師や腫瘍遺伝子学者たちの満足度が低いことが分かった。

多くの患者は、導き出された遺伝子情報またはその意義、特に将来家族に有益な情報かどうかが明らかでない情報であっても拒むことはしない。これに対し、医師はそのような情報を伝えることに不安を感じることが多い。

COMETや同様の研究は、不確かな遺伝子情報に関して、いつ、そしてなぜ患者が最も安心し、ストレスが少ない状態になるかを理解するのに役立つであろう。さらにこれらの研究は、医師が患者に遺伝子結果をもっと容易に効果的に伝えるのにも役立つ。

遺伝子検査結果についてのカウンセリングをしても、残念ながら必ずしも積極的な生活行動の変化に繋がるわけではない。がんのリスクを理解することと生活行動を変えることは、別である。しかし遺伝子や健康に関するデータへのアクセスは、多くの人々にとって重要で建設的な経験である傾向がある。

NCI-MATCHにおいてCOMETは治療が適合しない人々にどのように利益をもたらすか

治療が適合しない患者は、自分自身の遺伝子情報を将来の治療選択に、また家族は遺伝子疾患に直面したときにその情報を利用することができる。恐らく生殖細胞系の情報は子供にとって有益であろう。情報を人々に戻し、愛する人と情報を共有し励ますことは、予測できないまたは潜在的な予後不良の疾患に直面している人々にかすかな希望を提供する。

加えて遺伝子カウンセラーと話すことは、たとえ自分自身の救いを得られなくても、NCI-MATCH参加者にとって非常に意義深いことである。人々は非常に個人的に遺伝子情報との結びつきを感じる傾向があり、自身に特有の遺伝子データを知る機会を歓迎している。直接利用できる遺伝子テストに人気があるのはその証拠である。

COMET研究結果はいかに速く、どのように医師と患者の遺伝子試験結果についての情報交換法を変化させているか

初めに言及したいのは、NCI-MATCHを受ける患者に有益になるために、COMETの結果が早晩発表されることはないようであるということである。COMETから得られた結果が患者治療に影響を及ぼすまでに時間がかかる。

がん患者の治療をする多くの医師らが遺伝子検査の伝え方についてのガイダンスを必要としていることは理解できる。がん治療やがん研究で臨床ゲノミクスを使用することは、まだ比較的新しい。COMETのような研究の使命の1つは、主に治療している内科医とゲノム医療に携わる腫瘍医の満足度を上昇させることにある。特にがん治療で遺伝子配列決定技術を使用するには不確定なことが多いのである。

医師の教育には習得過程があり、普段の習慣や行動を変えるよう働きかけるが、容易ではない。最も主要な治療をする内科医と腫瘍医は遺伝学、特に遺伝的変異の分野の背景知識が浅く、患者、すなわち生殖細胞系変異が疑われることについて十分なカウンセリングを希望する患者に対し、潜在的生殖細胞系結果を明示するアイデアを持つほどの背景知識を得るのにしばらく時間がかかる。

米国臨床腫瘍学会(ASCO)は、2015年Exit Disclaimerで発がん感受性に対する遺伝子テスト及びゲノムテストにおける声明を発表した。「がん患者に治療を提供する者は、この新しい技術を最も効果的に、友好的な方法で使用するため、必要な教育を受けることを保証します」。専門家社会の助けにより良くトレーニングされた医師らを組織し、患者を助けるために遺伝子検査の結果を導き出し、別の財源を提供することができると考えている。複雑な臨床上のまたは研究の結果を十分に理解する必要がある。

COMETはELSE(倫理的、法律的、社会的、医学研究の影響)研究である。このタイプの研究はどのように広げることができるか多くの調査研究が示すように、患者はすぐに使用可能な調査結果を得ることを望んでおり、さらにプライバシー保護のために非特定化したデータよりも、すぐに使用可能な情報を入手することに関心がある。

しかし、がん研究の被験者と同様に臨床研究の実施計画書や同意説明文書を作成することはわれわれの義務であり、それは、偶然や二次的に示された結果を明らかにする。われわれは研究においてもたらされる可能性のある範囲の情報を説明しなければならない。遺伝傾向や家族に影響する情報などがあり、その様な情報を得たくない患者に離脱の選択権を提供することになる。われわれは最大限可能な限り患者のデータを守る努力をしなければならないが、一方ではプライバシーを保証することは不可能であると認めざるを得ない。

 ELSI研究は、研究実施計画書における透明性を促進するために計画された。同意の過程、患者の約束事項、データ共有のモデル、偶然の結果や二次的研究結果などいくつかの特異な分野に焦点を置き、個別化医療の出現と共に特に重要な問題になっている。

【図のキャプション】

COMET研究では、自身の腫瘍のプロファイリング結果についてカウンセリングを受ける患者への影響を調査する。

翻訳担当者 白鳥 理枝

監修 原文堅(乳がん/四国がんセンター)

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原文掲載日 

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