血中の腫瘍DNAが免疫療法のバイオマーカーとなる可能性

米国国立がん研究所(NCI)ブログ~がん研究の動向~

NCI研究者によるパイロット研究の結果、がん患者の血中を循環している腫瘍DNAは、治療開始後すぐに、ある種の免疫療法に患者が反応するかどうかを判定するバイオマーカーとなる可能性が示唆された。

さらにその結果から、循環腫瘍DNAに関する情報は、その治療が奏効している(または奏効していない)患者群を迅速に同定するのに利用できることが示唆されたと、8月1日号のClinical Cancer Research誌で報告された。この情報に応じて、今度は、医師が治療方針を調整することができるようになるかもしれない。

この発見は、養子免疫療法(免疫細胞を体外で培養・活性化し、再び体に戻す療法)とも呼ばれるT細胞移入免疫療法の治療を受けた患者の血液検体の後ろ向き解析から得られた。患者の検体と治療アウトカムの情報を用い、研究者らは完全奏効、部分奏効、反応なしなどの薬剤奏効と関連する腫瘍DNAの血中レベル変化のパターンを見つけた。

「血中の循環腫瘍DNAをみることにより、治療が有効であるかどうかを開始2週間以内に決定することができました」と、本研究の共著者であるNCIのがん研究センター(CCR)外科部門長であるSteven Rosenberg医師・博士は言った。

がん細胞が体から除去される際、それらの細胞から放出されたDNAは血中に流入し体内を循環する可能性がある、とRosenberg医師は説明した。免疫療法の標的であるがん細胞から放出されたDNAの血中レベルの上昇は、治療がその標的を攻撃していることを示しているかもしれない。

このアプローチにより、標的としている遺伝子をもつ腫瘍細胞に対して、傷害作用をもつ特異的な治療法となっているかどうかの徴候を非常に迅速に得ることができます」と、Rosenberg医師は言及した。この結果は予備研究によるものであり、大規模研究で確認される必要があることを彼は付け加えた。

バイオマーカーの必要性

本研究では、2000年代にNCIの臨床試験でT細胞移入免疫療法を受けた進行性メラノーマの患者39例の血液検体を解析した。

この特別な治療はいくつかの段階を経た。まず、患者の腫瘍に浸潤した免疫細胞が採集された。これらの腫瘍浸潤リンパ球はその後研究室で活性化され増殖した。そして、これらの増殖キラーT細胞を患者に注入した。

この治療を受けた転移性メラノーマ患者の約20%が完全奏効となったが、この治療法に反応するであろう患者群を同定する方法はまだない。

「患者の治療反応性を早い段階で決定するのに循環腫瘍DNAを使用できれば、有用でしょう」と、共著者でCCR外科部門のRichard M. Sherr医師は言った。「治療が効かないなら、その患者を救うための方針を変えることができるのですから」。

循環腫瘍DNAにおけるパターン

本研究では、循環マーカーとしてBRAF遺伝子の変異型が使用された。この遺伝子における変異はすべての悪性メラノーマうち約半分に認められる原因遺伝子とされており、今回の39例では患者すべてに存在した。

Rosenberg医師のチームは、治療前と開始直後を含めた治療コースの過程でこれらの患者から血液検体を採集、保存した。39例の患者のうち、10例は完全奏効、14例は部分奏効、そして15例は無効であった。

「われわれは治療開始後の早い時点に着目し、治療に反応した患者と反応しなかった患者の循環腫瘍DNAレベルにおけるパターンをみつけました」と、共著者でCCR病理学研究室のMark Raffeld医師は言った。

たとえば、完全奏効した10例のうち9例の患者では、変異BRAF遺伝子の血液レベルが治療開始後2週間で急上昇し、その後0に低下した。

「大部分の腫瘍細胞の傷害は、循環腫瘍DNAのピーク値として判断され、治療開始の5~9日以内に起こります。その後、完全奏効患者では循環腫瘍DNAの血液レベルは0に低下します」と、Raffeld医師は血中レベル変化のパターンを説明した。

対照的に、1例を除いて、循環腫瘍DNAの早期急増がみられなかった患者では客観的に奏効に達しなかったことを研究者らは特に言及した。「このパイロット研究の結果では、こうした『ピーク』がない患者は治療に反応しない可能性があり、別の治療が必要かもしれないことが示唆されました」と、Raffeld医師は言った。

血液検体の連続検査

T細胞移入免疫療法の臨床徴候は治療開始2カ月以内にみられることが多い。Sherry医師は「このアプローチで、われわれは治療に対する腫瘍の反応性をDNAのレベルで解析しようと試みています」と言った。

循環マーカーはすでに種々のタイプのがん患者で再発のモニタリングとして使用されている。今回の発見で、このアプローチはこの種の免疫療法についても検討できることが示唆されたと、研究者らは述べた。たとえば、ある再発患者では、標準的な臨床検査により再発と判断される前に採取された血液検体で、変異BRAF遺伝子が高レベルであったと彼らは報告した。

「これは非常に興味深い研究です」と、医学士・外科学士でテキサス州立大学MDアンダーソンがんセンター病理学教授であり、がん患者での「リキッドバイオプシー」と呼ばれる検査の使用を研究しているAnirban Maitra医師はコメントした。リキッドバイオプシーとは、ほぼ外科的に摘出される腫瘍片の分析でしか入手できなかったがん細胞の遺伝学的・分子的情報が、血液検査で得られる方法である。

標的治療または免疫療法を受けた患者の血液検体の長期的または連続的な検査は、治療の有効性または抵抗性の発現を評価する新たな方法の発展に重要であることを、NCI研究には関与していないMaitra医師は言った。「この研究は本アプローチに重要な支持的エビデンスを示すものです」。

治療反応性と関連がある変異BRAF遺伝子の急増は1回の採血では明らかには示されないことに彼は言及した。さらに、リキッドバイオプシーを短い間隔で繰り返し実施することは「組織ベースの連続検体採取では想像もつかないことです」とも話した。

将来の方向性

免疫療法への反応性を測定することは困難だがやりがいのあることだと、腫瘍の「偽増悪」 (“pseudo-progression” )の例を引き合いに出しながら、Maitra医師は言及した。これは免疫療法を受けた患者では免疫細胞が浸潤した腫瘍が標準的なイメージング機器を用いて評価された場合、増悪しているように見えることをいう。

「リキッドバイオプシーに基づく本アプローチは、このアーティファクトを回避できる可能性があり、より客観的な治療反応性の評価が可能です」と、彼は言った。

循環腫瘍DNAは腫瘍に関する付加的な情報源となることにRaffeld医師は言及した。「このアプローチはどの程度の腫瘍が患者の体内に存在するか知ることができる窓を提供することになり、その情報は放射線検査画像から得た情報を補完できることでしょう」、彼は言った。

NCIでは、Rosenberg医師が大腸がんで免疫療法を受けている患者の循環腫瘍DNAの検査を開始している。「これは非常に重要な検査方法であり、われわれは患者における免疫療法の有効性を評価するために、この方法を使い始めたばかりです」と、彼は述べた。

翻訳担当者 大澤 朋子

監修 大野 智

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