免疫療法:免疫系を利用してがんを治療する
NCIファクトシート 原文更新日: 10/17/2014
異常細胞を見つけて排除する免疫系。その免疫系が本来もつ能力は多くのがんの発生を抑制する可能性がある。しかし、一部のがんは、免疫系による検知と排除から逃れることができる。こうしたがんは、免疫系が有する腫瘍細胞を検知し排除する能力を低下させるシグナルを産生することがある。あるいは、こうしたがんに、免疫系が腫瘍細胞を認識し標的とするのが困難になる変化が生じることがある。
免疫療法は、免疫系が有するがんに対抗する能力を回復または高める治療法である。このわずか数年でがん免疫学分野の急速な発展により、抗腫瘍免疫反応を増強する新たながん治療が数種もたらされた。こうした治療法は免疫系における特定の成分の活性化を促したり、免疫反応を抑制するがん細胞が産生するシグナルを無効にしたりする。
Science誌は「がんの免疫療法」を2013年の最も重要な研究成果に指定し、この領域でなされた進展を評価した。こうした進展は、免疫系に関する長期にわたる基礎的学術研究の成果である。
以下のさらなる研究が進行している。
・免疫療法は一部のがん患者で作用するが、同じがんでも作用しない理由の解明を進める
・免疫療法の使用をより多くのがん種に拡大する
・分子標的療法、ならびに、化学療法や放射線治療などの他の標準治療と併用する免疫療法の使用法をより深く解明する。
免疫療法とは何でしょうか?
免疫チェックポイント阻害剤
免疫療法の1つに、免疫反応を抑制する特定のタンパク質活性を阻害する方法がある。こうしたタンパク質は、通常、異常細胞だけでなく正常細胞をも損傷してしまうほどの過剰で強力な免疫反応を抑制する働きをする。がん細胞では、こうした免疫「チェックポイント」タンパク質が異常になり、腫瘍が免疫反応から逃れるのを許してしまうと考えられる。
こうした免疫チェックポイントタンパク質の1つを阻害すると、免疫系の抑制が解除され、免疫系ががん細胞への攻撃を開始する可能性がある。米国食品医薬品局(FDA)により承認された最初の免疫チェックポイント阻害剤は、イピリムマブ(ヤーボイ)と言われる。こうした免疫療法薬であるモノクローナル抗体は、CTLA4と言われる免疫チェックポイントタンパク質の活性を阻害する。また、進行黒色腫の治療薬として承認されている。
免疫細胞療法
研究途上の免疫療法は、養子細胞移植(adoptive cell transfer,ACT)である。ある種の養子細胞移植では、腫瘍浸潤リンパ球(tumor-infiltrating lymphocyte,TIL)と言われる、患者の腫瘍を浸潤している細胞傷害性T細胞が採取される。抗腫瘍活性が最も高い細胞が選択され、そして、こうした細胞の一大集団は実験室内で培養されて、サイトカインで活性化される。次に、こうした細胞が患者に再移植される。
こうした着想は、TILはすでに腫瘍細胞を標的とすることはできるが、抗腫瘍作用を及ぼすには量が少ない可能性があることに由来する。TILの活性が腫瘍細胞により抑制されている場合、腫瘍を大量の活性化TILに曝露させることで、こうした抑制を克服することができる可能性がある。
CAR療法と言われることが多いもう1つの養子細胞移植では、患者のT細胞は末梢血から採取され、キメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor、CAR)と言われるハイブリッドタンパク質を発現するよう遺伝子操作を受ける。次に、こうしたT細胞は培養されて、患者に移入される。CARにより、そのT細胞はがん細胞の表面に存在する特定のタンパク質(T細胞を活性化し、がん細胞を攻撃する)に結合することができる。
がん治療ワクチン
がん治療ワクチンの使用は、もう1つの免疫療法の手法である。こうしたワクチンは通常、患者自身の腫瘍細胞や腫瘍細胞由来の物質からつくられる。こうしたワクチンは、がんに対する人体の自然免疫を活性化することで、すでに発生したがんを治療するよう設計される。がん治療ワクチンは、次のいずれかの機序により作用する。
•がん細胞の増殖を遅延または停止させる
•腫瘍退縮を引き起こす
•がん再発を予防する
•他の治療法では排除されないがん細胞を排除する
有効ながん治療ワクチンの開発には、免疫系の細胞とがん細胞が相互作用する機序を詳しく理解する必要がある。がん治療ワクチンがその効果を示すためには、正確な標的に対する特定の免疫反応を促す必要がある。また、がん細胞がB細胞や細胞傷害性T細胞による攻撃からがん細胞自身を守るために用いている障壁を克服するに足るだけの十分な活性化が必要となる。
がん細胞が免疫系による認識や攻撃を逃れる機序の解明における最近の進展は、現在研究者らに、こうした2つの目標を達成することができるがん治療ワクチンの設計に必要な知識を提供している。
2010年、FDA は最初のがん治療ワクチンシプロイセルT(プロベンジ)を一部の転移性前立腺がん患者の治療薬として承認した。
免疫調節剤
さらに、もう1つの免疫療法ではサイトカイン、抗体、および成長因子などの免疫調節剤を使用して、がんに対する人体の免疫反応を促す。サイトカインは白血球が産生するシグナル伝達タンパク質で、免疫反応の調節を促す。2種類のサイトカインであるインターフェロンとインターロイキンは、がん患者の治療薬として使用されている。
免疫調節剤はさまざまな機序を介して作用する。具体的には、一部のインターフェロンはナチュラルキラー細胞や樹状細胞などの一部の白血球を活性化することで、がんに対する患者の免疫反応を促す。サイトカインが免疫細胞を活性化する機序の理解における最近の進展により、さらに効果が高い免疫療法やこうした薬剤の併用療法が開発される可能性がある。
Steven A. Rosenberg医師(米国国立がん研究所(NCI)外科部門長)は進行がん患者の治療法として、最初の有効な免疫療法と遺伝子療法を開発した。
NCIにおける研究
NCIにおける免疫療法の研究はNCIを越えて実施され、基礎的な学術的発見から臨床研究での研究用途まで及ぶ。
免疫学研究センター(The Center of Excellence in Immunology、CEI)はNCIや他の米国国立衛生研究所(NIH)所属の研究機関出身の研究者らをまとめ上げ、がんやがん関連ウイルス性疾患を予防・治療する免疫療法に関する手法の発見・開発・普及を促す。
参考文献
•Biological Therapies for Cancer(がんに対する生物学的療法)
•A Transfer of Power: Harnessing Patients’ Immune Cells to Treat Their Cancer
(パワー移入:患者の免疫細胞をがん治療に利用する)
•CAR T-Cell Therapy: Engineering Patients’ Immune Cells to Treat Their Cancers
(CAR T細胞療法:患者の免疫細胞をがん治療用に設計する)
•Cancer immunotherapy in children: How does it differ from approaches in adults?
(小児の癌免疫療法:成人に対する手法とどう異なるのか?)
•Adopting Bodily Defenses to Cure Cancer
(がんを治癒する自然免疫の導入)
•Twitter Chat on Immunotherapy – June 18, 2014
(免疫学に関するツイッターでのチャット、2014年6月18日)
====画像解説
健常人ドナーの免疫系由来ヒトTリンパ球(T細胞とも言われる)の走査型電子顕微鏡写真。
出典:米国国立アレルギー・感染症研究所(National Institute of Allergy and Infectious Diseases,NIAID)。
原文ページへ
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渡邊 岳 訳
大野 智(腫瘍免疫学、免疫療法、補完代替医療/帝京大学、東京女子医科大学)監修
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原文掲載日
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