がん悪性度を予測する新たなバイオマーカーを発見

新たな技術で発見、腫瘍の再発予測に役立つ可能性

フレッド・ハッチンソンがんセンターとテキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らは、新しい技術と計算法を用いて、髄膜腫と乳がんの転帰を正確に予測できるバイオマーカーを発見した。

本日Science誌に発表されたこの研究で、研究者らは、ヒストン遺伝子上に見られる特定の酵素、RNAポリメラーゼⅡ(RNAPⅡ)の量が、腫瘍の悪性度や再発と関連していることを発見した。ヒストン遺伝子上のRNAPⅡの過剰上昇のレベルは、がんの過剰増殖を示し、染色体変化の一因となる可能性がある。これらの知見は、がん診断および予後予測ツールとしての新しいゲノム技術の利用を促すものであり、がん領域の精密医療へのアプローチを向上させる可能性がある。

「ヒストン遺伝子が、腫瘍細胞の過剰増殖の強力な指標として細胞複製の律速因子となり得ることは、これまでずっと見過ごされてきました」と共同筆頭著者でMDアンダーソンの生命情報学・計算生物学助教であるYe Zheng博士は述べた。「なぜなら、現在のRNAシーケンス法では、そのユニークな構造のためヒストンRNAを検出できないからです。RNAシーケンス法のライブラリーは、ヒストンRNAの存在を非常に過小評価してきたということになります。新しい実験技術と計算パイプラインを組み合わせた我々の新しいアプローチは、腫瘍の診断と予後を向上させるために、複数のがん種の生検サンプルを活用できる包括的なエコシステムを確立します」。

数十年保管されたサンプルから、より質の高いデータを作り出す新技術

この研究結果は、共同筆頭著者でありフレッド・ハッチンソンがんセンターの基礎科学部門教授であるSteven Henikoff 博士の研究室で開発された新しい分析技術によって可能となった。この技術により、研究者らはホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)サンプルを用いて遺伝子発現をより詳しく研究することができる。

組織生検は一般的にFFPEサンプルとして長期間保存されるが、RNAのサンプルは、時間の経過とともに劣化により次第に不安定となり、遺伝子発現データの質を低下させる可能性がある。

この新技術、Cleavage Under Targeted Accessible Chromatin(CUTAC)は、RNAPⅡの結合が制御する遺伝子と同じ染色体上に位置する、小さく断片化されたDNA非コード配列に焦点を当て、DNAから遺伝子の転写活性を研究者が直接測定することを可能にする。

さまざまながん種に関してCUTAC技術を用いて臨床サンプルを調べたところ、ヒストン遺伝子の発現は、正常組織サンプルと比較して、腫瘍サンプルで一貫して有意に高いことがわかった。

ヒストンタンパク質は、染色体中のDNAを構造的に支える重要な役割を担っており、DNA鎖を巻き付ける巻き軸の役割を果たしている。これらのタンパク質はよく研究されてきたが、遺伝子発現を研究する現在のツールのほとんどはRNAシーケンス(次世代シーケンサーを用いてRNAの配列情報を解析する手法)に依存している。ヒストンRNAは、その構造上、現在の方法では検出できないという点でユニークである。

このように、ヒストン遺伝子の発現は腫瘍サンプルにおいて、有意に過小評価されている可能性がある。研究者らは、がん細胞の増殖が亢進すると、細胞の複製と分裂の追加的な要求を満たすために、ヒストンの過剰転写、すなわち発現が非常に亢進するという仮説を立てた。

RNAPⅡの発現はがんの悪性度と相関し、がんの悪性度を予測する

仮説を検証するため、研究者らはCUTACプロファイリングを用いて、DNAをメッセンジャーRNAの前駆物質に転写するRNAPⅡを調べ、配列を解明した。研究者らは、よくみられる良性脳腫瘍である髄膜腫の患者から採取した36のFFPEサンプルを検討し、新しい計算アプローチを用いて、そのデータを約1,300の一般に公開されている臨床データサンプルおよび対応する臨床転帰と統合した。

腫瘍サンプルでは、ヒストン遺伝子上に見られるRNAPⅡ酵素シグナルは、がんと正常サンプルを確実に区別することができた。

ヒストン遺伝子上のRNAPⅡシグナルは髄膜腫の臨床的悪性度とも相関し、急速な再発や全腕染色体喪失の傾向を正確に予測した。浸潤性乳がん患者13人の乳房腫瘍FFPEサンプルにこの技術を用いると、がんの悪性度も予測できた。

「保存された腫瘍サンプルを調べるために我々が開発した技術により、これまで見過ごされていたがん悪性度のメカニズムが明らかになりました」とハワード・ヒューズ医学研究所の研究員でもあるHenikoff氏は述べた。「このメカニズムを明らかにすることは、がんを診断し、治療するための新しい検査法になりうることを示唆しています」。

Zheng氏らは、さらなる検証のため、この技術を複数のがん腫のFFPEサンプルに使用する予定である。

本研究は、ハワード・ヒューズ医学研究所、米国国立衛生研究所(HG012797)、米国国立がん研究所(T32CA009515)の支援を受けている。共同研究著者の全リストおよび開示情報はこちらを参照のこと。

監修 石井一夫(計算機統計学/公立諏訪東京理科大学工学部情報応用工学科)
記事担当者 山口みどり
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原文掲載日 2025/02/13

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