プロトコル例外適用で標的治療試験に参加した患者の転帰は適格参加者と同様

臨床試験の適格基準拡大がもたらす利点に注目した研究

 大規模ながんバスケット試験アンブレラ試験において、適格基準(参加要件)免除および検査免除により試験に参加した、治療抵抗性を有するがん患者は、免除なしで試験に参加した患者と同様の臨床的有益性および有害事象の発生率を示したとの結果が、米国癌学会(AACR)の学術誌Clinical Cancer Researchに発表された。

臨床試験の適格基準は、併存疾患があるために試験中の治療によって重篤な危害を被る可能性のある患者を守る上で有用である。さらに、注意深く管理された集団を対象として解析が行なわれることを保証して、データを歪める可能性のある異常値を最小限に抑えることができる。

しかし、最終的に治療を受けることになる患者は一様ではない。市場に出回る新しい治療薬は、必ずしも多様な背景や病歴を持つ患者で治験が行われてきたわけではない。2015年の研究では、臨床で腎細胞がんの治療を受けた患者の39%は、投与された薬剤の承認につながる試験への参加適格性はなかったとみられることがわかった。非小細胞肺がんに対してオシメルチニブ(販売名:タグリッソ)を投与された一般集団患者のうち、62%は第3相試験に不適格であったと考えられる。

「『理想的 』集団における結果が、必ずしも現実の集団にそのまま当てはまるとは限らないことはよく知られています」と、本試験の上席著者であるHans Gelderblom医師(オランダ、ライデン大学医療センター腫瘍内科部長)は言う。「適格基準は厳しすぎることが多く、経験豊富な研究者らによる学識に基づいた免除を適用すれば、特に最後の砦となる試験では、個々の患者を助けることができます」。

このような免除は、通常であれば不適格とされる患者を臨床試験に参加させるもので、検査項目が適格範囲からわずかに外れていたり、必要な画像検査を受けたのが推奨期間外であったり、安全上の理由から生検できない腫瘍であったりする、とGelderblom医師は説明した。こうした免除、ひいては臨床試験適格基準の拡大が、患者の転帰不良につながるかどうかは、包括的に研究されていないとGelderblom医師は述べた。

同医師らは、治療抵抗性を有する患者を対象として、腫瘍の遺伝子プロファイルに基づいて適応外の標的治療薬とマッチングさせる汎がんバスケット/アンブレラ試験であるDrug Rediscovery Protocol(DRUP)試験において、プロトコル免除が患者の転帰に及ぼす影響を調べた。2016年9月から2021年9月までに、プロトコル免除を受けた患者82人を含む1,019人の患者がDRUP試験に登録された。

免除の理由は、適格性基準の例外、枠外検査、治療の例外、検査の例外の4つに分類された。最も多く認められた免除は、適格性基準の例外であり、多くの場合、検査項目が範囲外であったことによる。2番目に多い免除は検査の例外で、多くは生検の免除であった。

治療後16週目の臨床的有益率は、プロトコル免除を受けた患者では40%であったのに対し、免除を受けなかった患者では33%であった。同様に、プロトコル免除患者と免除対象外患者の全生存期間中央値は、それぞれ11カ月、8カ月であった。

また、免除患者は、免除対象外患者と比較して重篤な有害事象(SAE)がみられる可能性も同程度であり、SAEがみられた割合は、免除患者群では39%、免除対象外患者群では41%であった。Gelderblom医師らはまた、プロトコル免除患者においてプロトコル免除が原因でSAEが生じた可能性を評価した。Gelderblom医師らは、免除とSAEの関係を86%の患者で「可能性は低い」、14%の患者で「可能性がある」とみなした。初回治療サイクルにおける毒性または疾患進行による治療中止の割合は、免除を受けた患者と受けなかった患者で同程度であった。

Gelderblom医師は、本試験で検討されたプロトコル例外は軽微なものであったが、臨床試験の適格基準のデザインにとってより広範な意味をもつ可能性があると強調した。「今回の知見は、新規の臨床試験を立ち上げる際に、より広範で包括的な試験デザインにすることを提唱するものであり、進行した、あるいは難治性のがん患者において、がん治療をより効果的に個々の患者に合わせて適用する道を開くものです」と話す。

本研究の限界としては、評価対象となった患者のがん種、治療法、プロトコル免除の理由が多様であったため、研究結果の一般化可能性は改善されたものの、特定のサブグループ解析を行うことができなかったことが挙げられる。さらに、臨床的有益性の可能性は医師が免除を許可する決定において不可欠な要素であったため、免除を受けた患者は一般的な研究集団と比較して、臨床的有益性のために積極的に選ばれた可能性がある。

本試験は以下より資金提供を受けた。Stelvio for Life Foundation、Dutch Cancer Society、Amgen、AstraZeneca、Bayer、Boehringer Ingelheim、Bristol Myers Squibb、pharma&、Eisai Co.Ltd.、Ipsen、Merck Sharp & Dohme、Novartis、Pfizer、Roche。
Gelderblom医師は、利益相反はないと宣言している。

  • 監訳 東 光久(総合診療、腫瘍内科、緩和ケア/奈良県総合医療センター)
  • 記事担当者 山田登志子
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  • 原文掲載日 2024/06/27

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