NIHの研究者が生細胞で癌の染色体異常形成を可視化
米国国立がん研究所(NCI)プレスリリース
原文掲載日 :2013年8月8日掲載
NIHの研究者が初めて、癌細胞でよく見られる染色体異常形成を引き起こす事象を直接観察した。転座と呼ばれるこの異常は、染色体の一部が切断されて他の染色体に付着することにより生じる。米国国立衛生研究所(NIH)の一機関である米国国立癌研究所(NCI)の研究者が実施した本研究の結果は、2013年8月9日にScience誌上で発表された。
染色体とは、遺伝子および遺伝的機能を伝搬する細胞内の糸状構造物である。人の染色体にはそれぞれ単一のDNA断片が含まれており、遺伝子がその長さに応じて線状に配列されている。
生細胞での染色体転座(動画)
(動画キャプション)研究者は、癌細胞でよく見られる染色体異常形成を引き起こす事象を初めて直接観察した。NCI所属の統括著者Tom Mistelli博士と筆頭著者のVassilis Roukos博士、その同僚らが行った本研究の結果は、2013年8月9日にScience誌上で発表された。
染色体の転座はほとんどの癌細胞で見られ、転座が癌の増殖に関与していることが長く知られてきた。しかし、長年の研究にもかかわらず、細胞内で転座が実際にどう形成されるのかは謎に包まれていた。研究者は、この転座プロセスをより理解するために、生細胞の別々の染色体DNAを精密に切断する実験システムを考案した。高性能画像技術を活用した結果、染色体の切断端が適切あるいは不適切に細胞内で再付着するのが確認された。
転座は非常に稀な事象であるが、NCIが最近導入した何千もの細胞の変化を長期間にわたり観察できる技術により、リアルタイムに転座の発生を可視化できるようになった。NCI癌研究センター受容体生物学・遺伝子発現研究所(Lab of Receptor Biology and Gene Expression in the Center for Cancer Research)の同研究の統括著者Tom Misteli博士は、「このような画期的な画像技術を利用できたからこそ癌形成のこの基本的プロセスを確認できた。」と述べている。
本研究に関わった研究者は、転座はDNAの切断後数時間以内に生じており、細胞分裂周期に起こるDNAの切断とは無関係であると立証することができた。細胞には、大部分のDNA切断を修復できるメカニズムが組み込まれているが、転座が起こってしまう場合もある。
同研究者らは、転座形成におけるDNA修復機構を検討するために、細胞内にあるDNA損傷応答機構の主要分子を阻害しDNA切断修復と転座形成におよぼす影響を観察した。その結果、DNA損傷応答機構の1分子であるDNAPKキナーゼと呼ばれるタンパク質を阻害することで転座が10倍に増え、また核内であらかじめ近接している遺伝子間では転座が形成されやすいことも明らかになった。
本研究チームのリーダーであるNCIのVassilis Roukos博士は、「これらの観察により染色体の転座形成メカニズムを解明するための時間的・空間的枠組を策定できた」と話している。
Misteli博士は、「癌細胞形成におけるこれらの基本的特徴をようやく実際に探ることができるようになった」とも述べた。
本研究は、NCI癌研究センターのIntramural Research Programから支援を受けた。
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参照文献 :Roukos V, Voss TC, Schmidt CK, Lee S, Wangsa D, Misteli T. Spatial dynamics of chromosome translocations in living cells. Science. August 9, 2013. DOI: 10.1126/science.1237150.
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