正常幹細胞の発達を刺激する薬剤標的

NCIニュースノート

正常細胞、癌細胞どちらの表面にも存在するタンパク質CD47の欠損したマウスの研究で、研究者らは有効な幹細胞治療の開発を阻む主要な障壁を克服した。

米国国立癌研究所(NCI)の研究者らは、CD47遺伝子を持つ普通のマウスからではなく、CD47欠損マウスの肺から採取した細胞が、培養皿の中で増殖し、自発的に幹細胞に変換することを発見した。これらの幹細胞は、特定の増殖因子を加えることによって、その後あらゆる組織型の細胞に分化誘導することができた。さらなる動物実験が必要ではあるが、もしうまくいけば、ヒトにCD47を阻害する薬剤を注入することによって、患者自身の幹細胞をもっと多く作り出すよう刺激することができるかもしれない。そしてこのことは損傷した組織や器官の再生を可能にしうる。この方法はまた、治療へのドナー幹細胞の使用と関連した拒絶反応の回避にもつながるだろう。Scientific Reports誌オンライン版2013年4月17日号に掲載されたこの研究は、米国国立癌研究所(NCI)癌研究センターの生化学病理学課の課長であるDavid D. Roberts博士が率いた。

幹細胞への変換を刺激する目的で、Yamanaka factors(山中因子)と呼ばれる4つの特定の遺伝子を正常細胞内へ導入するために、遺伝子操作されたウイルスを用いることは、新しい治療法開発の有望なアプローチである。しかし、これらの幹細胞は拒絶反応や、また最も重要なことには癌化を引き起こす傾向があるため、実用化が制限されてきた。Roberts博士と共同研究者らは、単にCD47の発現を減少させるだけで、正常細胞内で山中因子の発現を刺激することが可能であることを突き止めた。この結果生じた幹細胞は培養で増殖したが、マウスに注射されても腫瘍は形成しなかった。研究者らはこの研究の一環で、山中因子の一つであり多くの癌において突然変異する遺伝子c-Mycが、癌細胞内ではなく正常細胞内でCD47によって調節されることも発見した。CD47を標的とする薬剤が腫瘍の縮小効果を高めながら、放射線治療の有害副作用から正常な組織を選択的に保護できるのは、これが一つの理由かも知れない。この研究発表において示されたc-MycとCD47との関係に対する考察は、癌患者のための治療改善に向けて、研究者らをさらに一歩前進させてくれる可能性がある。

翻訳担当者 木下さとこ 

監修 峯野知子(分子薬化学/高崎健康福祉大学)

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