貧血および腫瘍低酸素環境とがん患者【PubMed】
USA. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2005 Sep 1;63(1):25-36.
【目的】
患者の貧血および腫瘍の低酸素環境がQOLに及ぼす影響と生存について再調査し、この症状の治療に伴う問題を見極める。
【方法】
癌患者の貧血および腫瘍の低酸素環境の関連文献を探すためMEDLINEの調査が行われた。論文は疫学、有害作用(副作用)、貧血補正のガイドライン、低酸素環境での癌細胞の増殖あるいは治療への抵抗性を評価することにより検討された。過去および現在における腫瘍の酸素化あるいは低酸素の細胞感作を介した放射線増感の臨床試験が再調査された。貧血および腫瘍の低酸素環境が腫瘍のコントロールと患者の生存に影響を与えるかどうかを示すために多変量解析を用いた全ての臨床検査が分析された。輸血、あるいはエリスロポエチンによる貧血の改善を取り上げた論文は、その改善が癌患者のQOLや生存にどの程度影響するかを明らかにするために再検討された。
【結果】
癌治療を受けている患者の約64%は貧血の症状がある。貧血の割合は、化学療法、放射線療法や前立腺癌のホルモン療法を受けているほど高くなっている。貧血は、生活の質を下げ、生存率の悪化を伴っている。腫瘍の低酸素環境は、腫瘍の増殖と治療に対する抵抗を招くとされてきた。その理由は、血管形成、遺伝子変異、アポトーシスへの抵抗や化学療法、放射線療法からくるフリーラジカルへの抵抗などを招くということからだ。貧血に関する19の臨床試験と腫瘍の低酸素環境に関する8個の臨床試験で、局所制御あるいは癌患者の生存に関するこれらの症状の影響を評価するために多変量解析が用いられた。貧血と腫瘍の低酸素環境との定義の間には違いがあるにもかかわらず、全ての臨床試験では低ヘモグロビンレベルあるいは腫瘍の低酸素と予後の悪さとの関連がかなり高いことを示していた。腫瘍の酸素化の改良あるいは低酸素化細胞の活性化による放射線増感は、高圧酸素、電子親和性の放射線増感剤やマイトマイシンの使用によるものではあまり有効でなかった。carbogen、ニコチンアミド,RSR13やtirapazamineを介しての腫瘍酸素化の向上については期待できる臨床結果が出ており、最近では第Ⅲ相試験が行われている。国立包括的癌ネットワーク委員会(NCCN)のガイドラインは、ヘモグロビン10~11g/dl1の症状のある患者には輸血もしくはエリスロポエチンを推奨している。エリスロポエチンが10g/dlより低い患者ではエリスロポエチンの使用が強く勧められる。これらの推奨は、貧血の改善により癌患者のQOLが改善されたことが明らかになった研究に基づいたものであるが、患者の生存については明らかでない。エリスロポエチンによる貧血改善の評価をしている第Ⅲ相試験のう、ある試験ではヘモグロビンレベルの改善にもかかわらず、患者の生存率が下がったりと様々な結果を示していた。JAK2/STATS/BCL-X経路によるアポトーシスの阻害の可能性を含むエリスロポエチンの広範な作用が調べられた。輸血による貧血の改善もまた、免疫抑制や炎症の経路によると思われる患者の生存率低下が報告されている。
【結論】
貧血は癌とその治療においてよく見られる症状である。適切な第Ⅲ相試験はある種の癌患者の貧血改善における最良の方法を探るのに不可欠である。今後は、腫瘍のエリスロポエチン受容体もしくは、JAK2/STATS/BCL-X経路の存在を直接的に評価することによって、エリスロポエチンの抗アポトーシス効果の可能性を評価すべきである。輸血は免疫抑制の原因となる可能性があり、その多くは炎症経路を取ることから抗炎症薬剤の長期の使用を併用した輸血の効果を解析することが最良の方法であろう。
*サイト注(2016年): エリスロポエチンについてその後の記事はこちら
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