2007/06/26号◆NCIディレクター報告「癌予防における挑戦」

同号原文

NCI Cancer Bulletin2007年6月26日号(Volume 4 / Number 20)
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◇◆◇NCIディレクター報告◇◆◇

癌予防における挑戦

長年にわたる研究や早期診断/早期治療の進歩にも関わらず、大半の癌について正確な原因は依然として不明である。われわれが治療を施す癌の多くには、多様な遺伝子の変異および環境上のさまざまな影響の可能性が存在するため、単純な予防戦略の開発が困難となっている。

結果として、一次的な癌予防法(食生活やライフスタイルへの介入に関する科学的根拠のある推奨など)に対し、不満を感じている人々が多い。近年、人々を落胆させたものとして、標的経口予防剤の開発および研究が挙げられる。なぜならば、これらの薬剤には、他の疾患への移行を引き起こしたり、日々の生活の質を低下させたりする顕著なリスクがしばしば認められたためである。われわれのもとを訪れる患者は、癌の危険性に直面しているときでさえ、健康な生活を犠牲にしてそのようなリスクを負うのは気が進まないと明確に訴えている。

NCIキャンサーブレティンの特別号にて詳細に述べられているように、われわれは、予防研究に対するアプローチを異なる観点から検討し始めた。また、NCIが望んでいるのは、このアプローチがさらに劇的な進歩をもたらすことである。本アプローチとは、最先端のツールと技術(ゲノム学、プロテオミクス、代謝学で用いられているものなど)を使用して、癌の発生機序および早期兆候に関連する分子レベルでの出来事を研究することである。

癌予防は複雑であり、生殖細胞の異常に関する理解が必要となる。生殖細胞の異常は、一生の間に、タンパク質の発現パターンや細胞機能の違いによって起こる体細胞の突然変異によってさらに悪化する。これらを理解することは、薬理ゲノム学、環境上の曝露、およびライフスタイル因子を解明する必要性によって、さらなる影響を受ける。これらすべての要素が、有効かつ毒性のない予防薬の開発を困難なものとさせている。

解決策としては、リスクに関するバイオマーカーの特定(例:癌リスクと関連する過剰メチル化などの遺伝子制御に関する変異を特定する現在進行中の試み)、ならびに最近の研究などのゲノム全体に関する研究がある。このような研究に含まれるNCIのCGEMSプログラム主導の研究では、乳癌前立腺癌のリスクと有意に関連する遺伝子変異が新たに特定された。

予防とは、疾患を早期に発見することでもある。NCIの早期発見研究ネットワーク(Early Detection Research Network)は、この分野で重要な研究を行っている研究者らを支援している。研究内容としては、膵臓癌を対象とした早期発見法に関する将来有望な予備研究などがある。

NCIの癌予防研究プログラムでは、いくつかの顕著な業績を成功裏に収めている。例えば、過去20年に渡る喫煙率の劇的な減少、乳癌予防薬としてFDAが初めてかつ唯一承認したタモキシフェンなどが挙げられる。

分子的予防への関心は高まるが、われわれは癌リスクに影響を与えるライフスタイルや環境因子についての研究も支援し続ける。その内容としては、少数を対象とする抗肥満プログラムTransdisciplinary Research on Energetics in Cancerプログラム主催)、triterpenoidという新規クラスの化学予防剤を含む新化学予防剤の開発(ダートマス大学のDr. Michael Sporn氏らが主導)がある。

ここで記したことは、癌予防に対する新しい対応策を明確に表している。また、考え得る安全性へのリスクを最小限にしながらも、大幅なリスク低減を確実に達成することは、すなわち、常にわれわれの規範とするべきことである。

予防は、癌による苦しみを軽減させる上で重要な部分であり続けるであろう。また、予防こそが、NCIが深く傾倒していることなのである。

NCI総ディレクター
Dr. John E. Niederhuber

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斉藤 芳子 訳
島村 義樹(薬学)監修 

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