2007/01/30号◆特集記事「p53遺伝子の修復は抗腫瘍作用を助ける可能性」

同号原文

 米国国立がん研究所(NCI) キャンサーブレティン2007年01月30日号(Volume 4 / Number 5)
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特集記事

p53遺伝子の修復は抗腫瘍作用を助ける可能性

癌において最も頻繁に変異がみられる遺伝子の1つであるp53が、癌治療において望ましい標的となりうるかを、医薬品開発者は長い間注目してきた。新たに行われたマウスの3試験がその可能性を示唆している。

この遺伝子は通常、腫瘍を抑制するよう働き、多くの癌患者ではその疾患の比較的早い段階において、p53遺伝子に変異が生じていると考えられている。これらの変異が、腫瘍が発生した後でも癌に対して寄与しているかどうかはこれまで知られていない。

マウスを用いたこれらの研究は、p53遺伝子が腫瘍発生後も寄与することを示唆している。研究者らは、p53遺伝子の発現を入れたり切ったりできるマウスを作成し、この仮説を検証した。彼らはこの遺伝子を発現させる前にマウスを発癌させた。p53を活性化させた時、その結果は劇的であった。

癌細胞の死滅や増殖の抑制が起こり、ある時は数時間以内に腫瘍が消滅した。1つの試験では、抗癌反応があまりに強かったために大きな腫瘍を有する複数のマウスが死亡した。p53を短時間活性化させただけでも腫瘍は消失した。

「p53を活性化すると、その腫瘍は消失しました」と、ニューヨークのCold Spring Harbor 研究所のScott Lowe博士は語る。彼のグループは肝癌を形成したマウスを研究しており、その研究結果は1月24日のNatureオンライン版に掲載された。

各グループは、異なる腫瘍を研究するために違う方法を用いた。しかし少なくとも一部の腫瘍では、その生存はp53ならびに、その遺伝子が関与するプログラムや経路を妨げることに依存していると、すべてのグループが結論付けている。

「形成された腫瘍が生き残るためには、p53経路を抑制し続けることが不可欠である」と、Natureに掲載されたもう1つの研究を指導したマサチューセッツ工科大学のTyler Jacks博士は語る。「この経路は、進行した腫瘍においてさえも変わらず重要であるようだ」。

もしも同様のことがヒトの癌において言えるとするなら、損傷を受けたp53遺伝子を再活性化させることが、可能性のある治療法として考えられる。この新たな研究結果から、このシナリオが有望であるように思われる。

「重要なのは、形成された癌細胞のp53を修復した場合に、その遺伝子がその経路に関わっていることです」と、3番目の研究を指導したサンフランシスコ州、カリフォルニア大学のGerard Evan博士は語る。彼らが得た知見は2006年12月29日のCellに掲載された。

「p53経路の損傷を修復することで、生体が本来備えている腫瘍の増大を止めたり阻んだりする機能を回復させることができるという、信じられないほどの朗報です」とEvan博士は語る。

p53を活性化させて抗腫瘍反応に導くシグナルは癌細胞に特異的である。これはすなわちp53の修復が正常組織に影響する可能性は殆どないことを意味しており、マウスの実験のほとんどでそうであった。

「p53経路は治療ターゲットとして有望であることが、これらの研究によってはっきりと示されました」と、Lowe博士は語る。細胞の遺伝子の損傷を修復する方法を開発することは、簡単ではないでしょう、と彼は付け加えたが、多くの取り組みが途上にある。

癌が縮小するメカニズムは腫瘍によってさまざまである。Jacks博士のチームは、リンパ腫の細胞が死滅した一方で、肉腫細胞は増殖を止めたことを確認した。Lowe博士の研究では、肝臓の腫瘍を縮小させるために、免疫機構が1つの役割を担っていた。

Evans博士のグループは、彼らが縮小を確認したリンパ腫は結局再発した、と注意している。しかし研究者らはなぜそれが起こったかを研究中であり、彼らは依然として楽観的である。

ヒトの癌のp53を修復することが、p53異常のある細胞に特異的な、すばらしい治療効果をあげることにつながると信じています」とEvan博士は語る。

— Edward R. Winstead

翻訳担当者 Okura 、、

監修 島村 義樹(薬学)

原文掲載日 

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