がん性疼痛へのオピオイド利用に人種格差

終末期が近い黒人およびヒスパニック系がん患者は、痛みをコントロールするために必要なオピオイド薬を入手する確率が白人患者よりも低いことが、新しい研究結果で明らかになった。

2007年から2019年までに処方されたオピオイドを調べた研究では、黒人とヒスパニック系の患者に処方されたオピオイドは、白人の患者よりも投与量が少なく、低用量であった。この格差は、特に黒人男性で顕著だった。また、黒人患者は白人患者に比べ、薬物スクリーニングのための尿検査を受ける確率が高いことがわかった。

この研究では、上記のような違いの原因を特定することはできなかった。しかしこの差は、患者の所得水準や住んでいる地域などの要因を考慮した場合でも見られた。

この結果は、1月10日付のJournal of Clinical Oncology誌に掲載された。

「30年以上にわたり蓄積された証拠により、黒人やヒスパニック系の患者は、痛みに対してオピオイドを投与される可能性が低いことが証明されています」と、ペンシルバニア大学看護学部の緩和ケアの専門家であり健康公平性の研究者であるSalimah Meghani博士/正看護師(本研究には参加していない)は述べている。

この新しい知見は、疼痛に対するオピオイド入手における格差について、われわれがすでに持っているイメージと非常に一致していると同博士は述べている。がん患者は終末期に強い痛みを示すことが多く、呼吸困難などの症状もオピオイドで管理されるため、この研究結果は特に重要であるという。

「人生の終わりに痛みを感じ、その痛みが和らぐことがない状態は、誰もが一番恐れていることだと思います。そして、現在のあらゆるガイドラインでは、オピオイドは特に終末期のがんやがん治療による中等度から重度の痛みに対し選択すべき治療法であると示されています」と、本研究を主導したダナファーバー癌研究所のAndrea Enzinger医師は述べた。

医師の偏見、オピオイド医薬品入手を阻む障害、オピオイド誤用防止目的の方針など、考えられる多くの原因のうちどれが格差の主な要因なのかを明らかにするために、さらに研究が必要であると同医師は述べている。

「例えば、コミュニケーションや患者と医師の関係を改善する戦略を明らかにすることは、終末期を含むがんサバイバーシップを通じて、がんの痛みの治療や管理の方法の不公平是正にもつながるでしょう」とNCI行動研究プログラムのAmanda Acevedo博士(本研究には参加していない)は述べた。


オピオイド規制の意図せぬ対象

2007年から2017年にかけ、終末期近くにオピオイドを処方されたがん患者の割合が減少したことが、Enzinger医師らにより報告されている。

この期間は、米国でオピオイド蔓延が認識され、処方に関する規制が強化され、オピオイドに対する国民や医療従事者の意識が変化してからの数年間にあたる。

新しい法律や規制による意図しない結果として、がん患者が鎮痛薬を入手することが非常に困難になっている。

2012年のMeghani博士による分析を含め、20年にわたる研究成果をまとめた先行研究では、疼痛に対するオピオイドやその他の薬物治療において、人種・民族間の格差が長きにわたり存在することが明らかとなった。そこでEnzinger医師のチームは、終末期のがん患者にもこのような不公平があるのかを調べようと考えた。

「また、規制が大きく変化し、オピオイドの誤用リスクへの関心が高まってから数年間のオピオイドへ入手における格差の状況を知りたかったのです」と、Enzinger医師は述べた。

そのために、彼女のチームは、予後不良のがん患者で2007年から2019年の間に死亡した65歳以上の黒人、ヒスパニック、白人のメディケア受給者の中から無作為に抽出した人々のデータを分析した。318,549人のうち、約9%が黒人、5%がヒスパニック、残りが非ヒスパニック系白人であった。

研究者らは、各グループにおいて、死亡から30日以内、あるいはホスピスに登録する以前にオピオイドを処方された数を調査した。さらに、その処方がオキシコドンやモルヒネなどの短時間作用型オピオイドであったか、フェンタニル・パッチやオキシコンチンなどの長時間作用型オピオイドであったかを調べた。

また、黒人、ヒスパニック、白人の各患者へのオピオイドの投与量も調査した。最後に、研究期間中に尿による薬物スクリーニングを受けた患者数を調べた。

オピオイド入手や薬物検査における格差は、わずかではあるが意味がある

この12年間で、予後不良がん患者のうち、少なくとも1回は何らかのオピオイドの処方を受けた患者の割合は、全体の約42%から33%に減少した。また、長時間作用型オピオイドを少なくとも1回処方された人の割合と、1人あたりのオピオイドの総処方量も減少した。

同じ期間中に、黒人やヒスパニックの患者は、白人の患者よりも、あらゆるオピオイドや長時間作用型オピオイドの処方を受ける確率が低かった。

一見すると、グループ間のオピオイド使用の格差は控えめに見えるかもしれないが、特に2019年までは、末期がん患者全体の33%しかオピオイドの処方が受けられず、長時間作用型オピオイドの処方は10%以下であったことを考えると、その差には意味があるとEnzinger医師は述べた。

長時間作用型薬剤は、薬物を持続的に放出するため、「(次の内服のために)患者や介護者が時計を見たり、夜中に起きて痛みをコントロールする必要がない」と同医師は説明した。しかし、長時間作用型オピオイドには処方上の制約が多く、保険会社がその費用を負担する可能性は低くなる。

また、長時間作用型オピオイド入手しやすさがヒスパニック系と白人患者で同程度であった2019年を除き、研究期間を通じて黒人およびヒスパニック系患者は、白人患者と比べてオピオイドの総投与量および1日平均投与量が少なかった。

「黒人患者の場合、1日平均投与量の差は、人生の最後の1カ月間、1日当たり5ミリグラムのオキシコドン錠を約1錠減らすことに相当し、これは非常に意味があることです」と同医師は述べた。

オピオイド入手しやすさに格差があるのはどこかを調べたところ、黒人男性が不釣り合いに影響を受けており、黒人男性と白人男性の間で最も大きな差があることがわかった。

また研究チームは、末期がん患者の尿中薬物スクリーニングが2007年から2019年にかけて10倍に増加し、黒人患者は白人やヒスパニック系の患者よりも頻繁に検査を受けていることを明らかにした。

しかし、がん性疼痛のためにオピオイドを投与されている患者が、いつ、どれくらいの頻度で尿中薬物スクリーニングを受けるべきかというガイドラインはない。「これは、医療者ががん医療に尿中薬物スクリーニングを取り入れるようになった要因に疑問を投げかけています」とAcevedo博士は述べた。

臨床医のバイアスやその他の要因の役割を判断する

この研究の限界は、小児、青年、若年成人の進行がん患者など、十分な治療を受けていないグループや研究されていないグループにおける格差が検討されていないことであると、Acevedo博士は述べた。また、終末期の痛みやその治療に関する患者の考え方も調査していないと指摘した。

さらに、この研究では、患者が受けとったオピオイド処方薬の数についての情報は含まれておらず、処方箋の情報のみであった。「これでは、処方箋があっても調剤しない人がいることが考慮されていません」とMeghani博士は述べている。
オピオイドの処方に関するデータは、末期がん患者の疼痛治療における医師のバイアスの影響をよりよく示していると同博士は述べた。

博士自身の長年の研究から、「オピオイドの処方に差が生じる主な要因のひとつは臨床医のバイアスであり、これは患者が健康保険に加入し、痛みを治療する薬を入手できるにもかかわらず発生する可能性があります」と続けた。また、医師が仕事や規則に追われ、患者一人一人に十分な時間がとれないと感じると、無意識のバイアスが働きやすくなると指摘している。

さらに、黒人患者は痛みに弱いという誤った認識など、ある種の偏見や思い込みが、医師や医学生による痛みの評価や治療の方法の格差と関連していることを先行研究が示唆していると、Enzinger医師らは記している。

医師の偏見以外にも、オピオイドの処方には多くの要因が影響すると、同医師は述べる。例えば、非白人が多く住む地域の薬局ではオピオイドの在庫が少ない傾向があり、また、保険適用で問題がある場合には支援を受ける際に不公平が生じる可能性もある。

さらに、「オピオイドに対する恐怖や偏見による思い込みがあまりに強いため、(一部の)患者はなんとかして服用を最小限に抑えようとします。処方された方法でオピオイドを服用しないと危険です」とMeghani博士は述べた。

がん性疼痛の追跡と管理のためのより良い方法が必要

「すでに知られているとおり、がん性疼痛の管理における格差は、公共政策、医療制度、患者と医療者の相互作用など、多くの要因が絡み合って生じると思われます。そのため、これらの複数のレベルの影響に対処する解決支援が必要です」と、Acevedo博士は述べている。

今回の研究は、がん性疼痛を公平に管理するために重要な意味を持つとMeghani博士は述べた。医療システムには、患者の痛みと身体的・精神的な機能を追跡するためのよりよいアプローチが必要である。また、患者が非オピオイド治療、該当する場合にはオピオイドを使用できるようにする、よりよいシステムも必要であると同博士は述べた。

「特に終末期に痛みがあることは、生活の質、死の迎え方の質を高めるうえで大きな障害になります。末期がん患者がオピオイドに公平に入手できることが最も重要なのです」とEnzinger博士は述べた。

  • 監訳 佐藤恭子(緩和ケア内科/川崎市井田病院)
  • 翻訳担当者 白鳥理枝
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  • 原文掲載日 2023/02/14

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