進行がんの疼痛治療にメサドン塩酸塩またはブプレノルフィン・ナロキソンが望ましい

オピオイド使用障害および進行がん患者の疼痛治療については、専門家委員会は一般的にメサドン塩酸塩またはブプレノルフィン・ナロキソン配合剤による治療の継続を推奨する。

このような薬剤を服用しても疼痛の軽減がみられない患者に対して、専門家委員会は、予後が数週間から数カ月の場合には完全オピオイド作動薬の追加投与を推奨しているとの報告が、JAMA Network Open誌に発表された。同委員会は、さらに予後が長い患者(数カ月から数年)に対する完全オピオイド作動薬の追加投与の妥当性は確認されていないとみなした。

また、同委員会は、メサドン塩酸塩およびブプレノルフィン・ナロキソン配合剤を1日1回ではなく、2~3回に分けて服用することを提案している。

「終末期の患者や予後が長い患者を含む進行がん患者には、薬物中毒治療が引き続き重要です」と筆頭著者であるJessica・ Merlin医師(ピッツバーグ大学医学部・ピッツバーグ大学医療センター)はロイター ヘルスに電話で述べている。「その治療にはさまざまな方法があり、この論文ではそのことについて論じています」。

Merlin医師は、内科学准教授であると同時に、ピッツバーグ大学医療センター(UPMC)の疼痛予防・管理開発(Challenges in Managing and Prevention Pain:CHAMPP)臨床研究センター、Tailored Retention and Engagement in Equitable Treatment of Opioid Use Disorder and Pain(TREETOP)および Palliative Recovery Engagement Program (P-REP)の共同ディレクターを務めている。

オピオイド使用障害患者の疼痛治療の選択肢を検討するために、Merlin医師らは、進行がん患者の疼痛およびオピオイド使用障害の薬理学的管理に対する異なるアプローチの妥当性に関して、緩和ケアおよび依存症の臨床医の見解を求める修正デルファイ法パネルディスカッションをオンラインで2回実施した。このような患者の疼痛治療はオピオイドを中心に実施されることが多い。

パネルディスカッションでは2つのシナリオが検討された。進行がんで予後数週間から数カ月のオピオイド使用障害患者(50歳)と、進行がんで予後数カ月から数年である同様のオピオイド使用障害患者である。

ブプレノルフィン・ナロキソン配合剤を服用しているオピオイド使用障害患者については、1日3回同薬の服用を継続するのが適切であると、同委員会は結論づけている。予後が数週間から数カ月の患者については、完全オピオイド作動薬の追加投与が適切であるが、予後数カ月から数年の患者への完全オピオイド作動薬の追加投与の妥当性は確認されていないとみなした。

同委員会は、メサドンクリニックで調剤されたメサドン塩酸塩を服用しているオピオイド使用障害患者については、臨床医が処方を引継ぎ、1日に2~3回に分けて服用させるのが適切であると考える。また、このような患者で予後が数週間から数カ月の場合には完全オピオイド作動薬の追加投与は適切であるが、予後が数カ月から数年の患者への追加投与の妥当性は確認されていないとみなされた。

「前置きが長くなりましたが、臨床判断に代わるものはありません」とMerlin医師は述べている。「この論文は、臨床医がある臨床的な選択をしなければならないときに役立つと思います」。

「理想の世界では、臨床決定は臨床試験の結果に基づいて行われるでしょう」と、Otis Brawley医師(ジョンズホプキンス大学-メリーランド州ボルチモア-腫瘍学・疫学ブルームバーグ特別教授)はロイター ヘルスに電話で述べている。

「何のエビデンスも示されていない場合、次善の策として専門家の意見を聞くことになります。医療が多数決主義に変わりつつあるのではないかという嫌な予感がするものの、臨床試験を除けば、これがわれわれができる最善のことです」。

Brawley 医師によれば、『がん治療を行う医療者は、がんの痛みを治療することを非常に嫌がる』ということを人々は理解する必要があり、オピオイド蔓延によって、がんの専門家は疼痛治療をさらに嫌がるようになっているとのことである。

ブプレノルフィン・ナロキソン配合剤は、麻薬使用歴が長くない人の軽度から中等度の疼痛によく効くとBrawley医師は述べている。しかし、ほとんどのオピオイド使用障害患者においては、同薬では十分に対処することができず、メサドン塩酸塩へ直接移行するのが理にかなっているとのことである。

「メサドン塩酸塩は重要な鎮痛剤です」とBrawley医師は述べている。「実際、オキシコドンを始めとする新薬が問題になる前は、メサドン塩酸塩が主流でしたが、またそうなっている傾向があります」。

原典:https://bit.ly/31bifvZ 、https://bit.ly/3sMt7vU  JAMA Network Open誌、オンライン版2021年12月28日

(*監修 者注:オピオイド使用障害とは、オピオイド依存とオピオイド乱用のことであり、アメリカでは大変な社会問題となっており、その治療にはメサドン塩酸塩やブプレノルフィン・ナロキソン配合剤が用いられている。一方で、オピオイド使用障害を有する終末期がん患者ががん性疼痛でオピオイドを使用しなければならない時に、どの薬剤を選択すべきかは議論となっている。)

翻訳担当者 渡邉純子

監修 佐藤恭子(緩和ケア内科/川崎市井田病院)

原文掲載日 

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