がん患者は疼痛管理に必要なオピオイドを入手しているか

新しい研究により、米国の腫瘍内科医およびその他の医師が、高齢の患者に処方するオピオイド薬が減少してきたことが明らかになった。2013年から2017年にメディケア受給者に対するオピオイド処方率は、米国全体で、腫瘍内科医で約21%、その他の医師で約23%減少した。

これらの減少の正確な理由を知るためにはさらに研究が必要だが、812日付のJournal of the National Cancer Institute誌に発表された調査結果によると、オピオイドのまん延(*米国では、がん以外にも処方されるため乱用が問題になった)を封じ込めようとする取り組みが一因となっている可能性があるという。

研究の著者らは、オピオイドの乱用に対し、オピオイドを入手しにくくするための措置が講じられ、一部の患者ががん性疼痛管理のオピオイドを適切に処方されていない可能性があると示唆した。

本研究では、この減少は主にヒドロコドンとアセトアミノフェンの合剤およびオキシコドン(OxyContin)などの長時間作用型オピオイドの処方が減少したことが要因だった。5年間の研究期間中、腫瘍内科医やその他の医師は、非オピオイド系の代替薬であるガバペンチンをより多く処方していた。同時に、疼痛管理の専門家である緩和ケアの医師によるオピオイドの処方件数も増加した。

「今回の調査結果は、がん以外の患者を対象としたオピオイド処方に関する法律やガイドラインが、がん患者やサバイバーに対して不適切に適用されていないか、との懸念を提起している」と、エール大学医学部のHenry Park医師らは記している。

米国ではオピオイド中毒のまん延に対処するために、10年以上にわたりオピオイド処方に関する医療団体のガイドラインや非オピオイド系鎮痛薬の普及促進など、さまざまな立法、政策手段が用いられてきた。しかしこれらの方法により、がん患者のオピオイド薬の入手方法に影響があったかどうかは不明である。

「腫瘍内科医は以前ほどオピオイドを処方していないようです。今後の研究では、がんではない患者を対象としたオピオイド処方ガイドラインが、がん患者に不適切に適用されていないかどうかに焦点を当てる必要があります」と、この研究を共同で指導したPark医師は述べた。

まん延防止対策

研究者らは、メディケアおよびメディケイドサービスセンター(Centers for Medicare and Medicaid Services)のメディケア請求データを用いて、米国の高齢患者に対する鎮痛薬処方の傾向を、腫瘍内科医とその他すべての医師の間で比較した。このデータは、21,041人の腫瘍内科医と723,861人の非腫瘍内科医(4,115人の緩和ケア提供者を含む)を対象としている。

その他の所見の中で、研究者らは5年間の研究期間(2013年から2017年まで)において、腫瘍内科医によるヒドロコドン-アセトアミノフェンの処方が30%減少したことを報告した。オキシコドンの処方は、腫瘍内科医の間で33%減少した。

この期間中、ガバペンチンの処方率は腫瘍内科医で5.9%、その他の医師で23.1%増加した。「ガバペンチノイドはオピオイドに代わる安全で効果的な代替薬としてよく知られているが、がん関連の疼痛治療への有効性に関する証拠はまだ明らかになっていない」と研究チームは記している。

緩和ケア提供者の間では、オピオイド処方率が約15%増加した。

メディケアのデータでは、処方傾向の正確な理由は明らかにされていないが、「合理的な仮定として、処方規制とオピオイドに対する考え方の劇的な変化に関連していると考えられます」と、ダナファーバーがん研究所のAndrea Enzinger医師およびAlexi Wright医師は、この研究に付随する社説で指摘している。

「がんと診断された場合には一部の規制除外が認められているとはいえ、緩和ケア提供者には多くの場合、多大な量の追加作業が必要になる」と彼らは記している。

Enzinger医師Wright医師によれば、このような追加の作業は、腫瘍医がオピオイド処方を「妨害する」ことになり、緩和ケアへの責任転嫁につながる可能性があると説明した。

州法とオピオイド処方の動向

エール大学の研究者はさらに、州別にデータを分析した。調査期間中、43の州で腫瘍内科医によるオピオイドの処方が減少していた。オクラホマ、テキサス、アイダホ、ユタ、カリフォルニアの5つの州では実際に、オピオイドの処方は他の医師よりも腫瘍内科医の方が減少している、と研究者は指摘している。

一般的に、オピオイドの処方は州の医師免許と州法によって規制されていると、研究には関与していないNCIの癌予防部門の副部長であるLori Minasian医師は説明した。例えば州によっては、数日分のオピオイド薬しか処方されない場合もあると同医師は述べた。

「今後の研究ではさらに深く掘り下げて、オピオイドの処方に関する州法の格差を調べ、その格差が腫瘍内科医や他の医師の間で見られる処方パターンの理解につながるかを調べることができるでしょう」。

Minasian医師はまた、腫瘍内科医からオピオイド薬を処方してもらえない可能性があるがん患者のニーズに対応できるだけの緩和ケアの医師が、現在米国では不足していると指摘した。

この新しい知見は、同様にメディケアのデータを用いてオピオイド処方のパターンを評価した、最近行われた別の研究結果と一致している。その研究でも、一般的な医師と腫瘍内科医によるメディケア受給者へのオピオイド処方率が、大きく低下していることが確認された。

研究者らは「オピオイド政策と擁護はメディケア受給者へのオピオイド処方の広がりを減らすのに有効であったと思われる」「一般医と腫瘍内科医の間で同様の減少が見られることから、がん疼痛管理への使用が不用意に制限されているのではないかという懸念が生じている」とJAMA Oncology誌に記している。

エール大学の研究者は、回答者の35%が主治医がオピオイドを処方してくれないと報告した、がん患者とサバイバー対象の2018年の調査を指摘した。調査対象者のほぼ半数は、医師が疼痛治療の選択肢が法律、ガイドライン、または保険の適用範囲によって制限されていると説明したと述べた。

「がん経験者のオピオイドの誤用に対する注意は確かに必要であるが、適切な疼痛管理は、彼らの生活の質を最高のものにするためにも同様に重要である」とPark医師らは記している。

Enzinger医師およびWright医師は論説の中で「がんの様々な段階にある患者が、オピオイド利用の変化によってどのような影響を受けているか、そして脆弱な患者集団(たとえば、人種/民族的少数者、農村部に住む人々)の間で利用に格差があるかをよりよく理解するためには、今後の研究が必要である」と書いている。

最終的に本研究は、腫瘍内科医によるオピオイド処方の減少が「進歩を示しているのか、それともがん性疼痛管理の悪化を表しているのか」という疑問に答えるのに役立つだろう、と付け加えた。

翻訳担当者 白鳥理枝

監修 佐藤恭子(緩和ケア内科/川崎市井田病院)

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