がんと心的外傷後ストレス障害

MDアンダーソン OncoLog 2018年8月号(Volume 63 / Issue 8)

 Oncologとは、米国MDアンダーソンがんセンターが発行する最新の癌研究とケアについてのオンラインおよび紙媒体の月刊情報誌です。最新号URL


がん患者のPTSDに対しても治療が可能

心的外傷後ストレス障害(PTSD)といえば、戦争から帰還した退役軍人や暴力犯罪の被害者を連想する人が多いが、がんなど命にかかわるほどの経験をした人なら誰でもPTSDを発症する可能性はある。PTSDは、重傷を負ったり、誰かが亡くなるのを目撃したりするなどの重度のトラウマが原因の精神疾患である。PTSDにより、トラウマを経験後も長期にわたり、日常生活にも影響を及ぼすほど思考や感情が否定的になる。

がん患者の約5%はPTSDを発症しており、若い患者、進行がんと診断された患者、また手術といった侵襲的な治療を受けた患者では、がんに関連したPTSDをより発症しやすい。また、十分な社会的支援を受けられていない患者や、過去にPTSDやほかの精神疾患の罹患歴がある患者も発症しやすい。幸い、PTSDを発症しても治療を受けることができる。

「がんを乗り越えることは容易なことではなく、治療を受けることも容易ではありません。そして、PTSDやストレス、うつなどに対処することも本当に容易なことではありません」とテキサス大学MDアンダーソンがんセンター統合医療プログラムの臨床心理士であるCatherine Powers-James医学博士は語った。「しかし、一人で抱え込む必要はありません」。

PTSDの診断

PTSD患者には以下の症状が現れることがある。
・持続する不快な記憶、悪夢、トラウマのフラッシュバック
・トラウマに関連する状況を避けようとする
・思考や気分が否定的になる
・易刺激性または攻撃性、過覚醒、驚きやすい、危険なまたは破壊的な行動、集中困難、不眠

PTSDではこうした症状が1カ月以上続き、苦痛が生じたり日常生活に支障をきたしたりする。また、こうした症状はトラウマ以外の原因によるものではない。PTSDの診断は、精神科医または臨床心理士などの精神疾患を扱う医療従事者のみによって確定される。

PTSDの症状がある人は、米国国立PTSDセンターが診断への足がかりとなるサイト(http://bit.ly/2JbU6GQ)を提供している。またPTSDのスクリーニングツールを米国不安・抑うつ協会のサイト(http://bit.ly/2ucDsBg)にて利用できる。MDアンダーソンでは、統合医療プログラムの臨床心理士がPTSDを診断する。

PTSDの治療

幸いなことに、治療によりPTSDの症状を軽減することができる。PTSDの治療法で最も効果が高いのは、長時間曝露療法および認知処理療法である。長時間曝露療法は、トラウマの原因となるものに徐々にかつ安全に患者を曝露する方法で、想像の中で行うものと実際に体験するものがある。認知処理療法は、患者が自らのトラウマ体験について語り、トラウマにつながる問題となる考え方を特定する。問題となる考え方には、信頼、権力と支配、尊重、親密さといった安全に関する懸念や問題がしばしば含まれる。

「PTSDにおける大きな問題の一つは、トラウマを思い出させるものを避けようとすることです。しかし、トラウマが一般化し始めると、突然、患者は生活の中の多くのものを避けようとします」とPowers-James氏は述べた。「認知処理療法や暴露療法によりこの避ける行為を止めることができます」。

別のPTSDの治療法としては、筆記表現法とよばれるものがあり、患者は治療セッションの間、トラウマ体験について書き記す。また、一部のPTSD患者には抗うつ薬が効果的である。

PTSD治療の専門家を見つける際のアドバイスを米国国立PTSDセンターのサイト(http://bit.ly/2KKBQ8U)にて閲覧できる。

がんの後のメンタルヘルスの改善

多くのがんサバイバーは、人間関係が良好になった、より情熱的になった、人生を肯定的に捉えられるようになったなど、精神的に前向きの変化を報告している。こうした転帰は心的外傷後成長とよばれ、メンタルヘルスの問題に対する治療を受けたがん患者にとっての目標である。心的外傷後成長は、トラウマ体験についてよく考え、安心感の回復を認め、日誌に書き記し、トラウマの後の人生を想像することで促進される。また、否定的な事象を受け入れ、それがどのようにして成長に繋がったのかを理解することでも促される。この成長は、人とつながることや自らの体験を共有することでも促される。

「心的外傷後成長への過程は緩やかなものです」とPowers-James氏は述べた。「現在、PTSDなどの精神的な問題を抱えているとしても解決方法はあります。以前よりも良好で健全な人生を歩んでいると感じてもらえるように支援できればと考えています」。

For more information, ask your physician, contact the Integrative Medicine Program at 713-794-4700, or visit www.mdanderson.org.

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翻訳担当者 成宮 眞由美

監修 太田 真弓(精神科・児童精神科/クリニックおおた 院長)

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