テーラード心理療法が進行がん患者のうつ症状を軽減

進行がんの診断を受けた患者は、医療保険制度の利用から、人間関係途絶の対処や残された時をどのように費やすかを考えることまで、多くの困難やストレスに直面する可能性があり、うつに冒されやすい。しかしがんセンターやクリニックは、すべての進行がん患者に、対処に役立つ心理的サポートを日常的に提供しているわけではない。

新しい臨床試験では、「がんを管理して有意義に生きる(CALM)」テーラード心理療法を3~6回行うだけで、最近進行がんの診断を受けた患者のうつの症状を減らすのに役立つことが認められた。さらにこの治療法が進行がん患者のうつの発症を予防できる可能性があることも示された。

「私たちは進行がんの患者が多くの苦痛を抱えていることを知っています。以前から、うつの治療をせずにその症状が悪化するのをみてきました」と本研究の筆頭研究員で、カナダのトロントにあるプリンセス・マーガレットがんセンター支持療法部門長であるGary Rodin医師は述べた。

「CALMの考え方は、患者が苦痛、不安、うつ、困惑といった状況に陥るのをただ待つのではなく、先を見越して介入するというものです」と彼は述べた。

わずか3回のCALMセッションの後、患者の間で持続的な改善が認められたことは素晴らしいと、正看護師および公衆衛生学修士でNICがん予防部門の緩和ケア研究所所長Ann O’Mara博士は述べた。彼女は研究に関与していない。

「CALM療法は現在提供されている緩和ケアサービスを越えた多くの問題に取り組んでいます」「もし緩和ケア現場に組み込められれば、この介入は進行がん患者に非常に役立ちます」とO’Mara博士は述べた。

ランダム化臨床試験の結果は6月29日付Journal of Clinical Oncology誌に掲載された。

ストレスの軽減と有意義な生活の道しるべの提供

Rodin医師と同僚である Sarah Hales医学博士およびChris Lo博士は以下の4つの主要な分野で患者を支援するためにCALMを開発した。症状管理と医療従事者 とのコミュニケーション、自己および親密な人間関係の変化、精神的な幸福や生きる意味と目的、死亡率や将来に対する懸念などである。

「私たちは、患者が自分の置かれている状況を考慮し、有意義に生きるためには様々な方法があることを理解する手助けをしようとしています」とRodin医師は述べた。

CALM療法は、3~6カ月間に3~6回の45~60分のセッションで構成されている。患者および医師両者が認めた場合は、患者の家族や友人が、1回以上のセッションに招かれる。

本アプローチはセラピスト自身の個人的なスタイルや文化および、患者個々のニーズや関心を基に作り変えることができる一般的枠組みや“道しるべ”となるとRodin医師は説明した。

看護師、医師、心理学者、ソーシャルワーカーなど広範ながんケアおよび緩和ケア従事者が、必要なトレーニングを受けた後にCAML療法を提供することができる。トレーニングは2日間の集中ワークショップと少なくとも3例の継続中のスーパービジョン からなる。これらの医療従事者は一般的に進行がん患者との会話に携わった経験を持つが、正式な心理療法のトレーニングを受けたことがない可能性がある。

「CALMは進行がんの診断後可能な限り早く開始され、患者ができるだけ良い生活を送るよう手助けをすることを目的としています」とRodin医師は述べた。「時に患者はがんケアシステムに飲み込まれ絶望してしまいます。まだ身体的には比較的良好なのに人生を諦めてしまうのです。それこそが私たちが防ごうとしていることです」。

うつ症状の軽減と予防

うつ症状に対するCALMの効果を判断するために、Rodin医師のチームは最近進行がんあるいは転移がんと診断され、予測される生存期間が12~18カ月の患者305人を登録した。患者を通常のケアを受ける群(154人)または通常のケアとCALMを受ける群(151人)にランダムに割り付けた。通常のケアには専門的な心理社会的腫瘍学サービスが含まれている可能性があるが、Rodin医師のチームが行った以前の研究では、臨床試験が行われたがんセンターでいずれかの形の構造化心理療法を受けている進行がん患者は10%に満たなかった。

CALMに参加した患者は、がん治療を積極的に受けており、ほとんどの治療はクリニックの外来で行われた。

チームはPHQ-9として知られる標準的な9項目の質問票を用い、患者が最初に試験に参加した時点(ベースライン)、および3ヵ月、6ヵ月時点でうつの症状を判定した。PHQ-9のスコアが、最大27点中5~9点は軽度のうつ、10~14点は中等度のうつと判断される。 

研究者らは、患者が試験への参加時および参加後3ヵ月、6ヵ月時点に記入した基本的な質問票により、死に対する悩みなど試験の主な目的ではない他の結果も評価した。

3ヵ月および6ヵ月時点でCALM群は通常ケア群よりも平均してうつ症状の重症度が低かった。PHQ-9スコア低下の平均はそれぞれ1.29、1.09であり、CALM療法の効果は、3ヵ月よりも6ヵ月時点に大きく現れた。

3ヵ月および6ヵ月時点での両群間のうつ症状の全体的な差は小さかったが、CALMによる、測定可能な形で改善を提示できる能力は注目に値するものであるとO’Mara医師は述べた。とはいえ、試験に参加した患者のような進行がん患者すべてがうつを経験するわけではないようである。

これらの知見の臨床的意義を明らかにするために、チームは特定のサブグループのデータを追加解析した。ベースラインで少なくともPHQ-9スコアの8を有して研究に参加した患者が、うつの臨床上重要なPHQ-9スコア減少である5点以上の減少を達成するためには、CAMLが通常のケアよりもふさわしいことが明らかになった。

これらの分析は、CALMは一部の患者のうつを軽減するだけでなく、ベースラインの時点でうつではなかった患者のうつの発症も予防できることを示唆しているとRodin医師は述べた。

さらに著者らは、「本研究の結果は、最期や死について中等度の悩みを持つ患者がCAML療法から最も効果を得ることが示唆される」と記している。

CALM療法の普遍性の評価

CALM療法の最適な時期とその成果を評価するための最適で有効な方法については、さらに調査が必要であると著者らは話した。

初期のパイロット試験では、進行がん患者がCAML療法の多数の利点を述べている。たとえば、患者はCALMが自分の気持ちを話す安全な場所を提供し、恐れに直面し、人生の最期を受け入れることや有意義に生きることを手助けしているとRodin医師は述べた。

そして彼のチームは患者との面談で得た質的データはCALMのようなプログラムの潜在的な効果を判定する場合にも非常に重要であると考えている。そのようなデータはCALM療法の経験やその作用が及ぶメカニズムなどの貴重な情報を提供してくれると彼は続けた。

筆者らは、新しい試験の重要な限界の1つに、主に英語を話す白人の高学歴の患者を中心とした単一都市のがんセンターで行われていることを挙げている。 

Rodin医師のチームは様々な民族性や文化を持つ人々に一般化できるかを調べることを目的に、CALMを20カ国で普及させるための世界的な取り組みを始めた。

さらに同チームはドイツの同僚らと共にCALMのオンライン版を開発している。これは郊外に住む人々など、がん治療や緩和ケアサービスへのアクセスが制限されている人々が利用するようにできるという。

翻訳担当者 白鳥理枝

監修 太田真弓(精神科・児童精神科/クリニックおおた 院長)

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