外科手術は転移癌を起因とする脊髄圧迫の軽減に役立つ

米国国立がん研究所(NCI)

Surgery Helps Relieve Spinal Cord Compression Caused by Metastatic Cancer
(Posted: 06/02/2003, Updated: 08/23/2005) 転移癌による脊髄圧迫に、放射線後の外科手術が、放射線単独に比べより効果的である。


要約
転移癌(広がった癌)を起因とする脊髄圧迫を来たした患者に対する手術後の放射線療法は、放射線治療単独と比べてより有効です。手術の追加により、多くの患者が長期にわたって歩行能力および排尿管理能力を維持できるようになります。

出典   The Lancet2005年8月20日(ジャーナル要旨参照)

背景
脊髄圧迫は、全癌患者の10~20%、具体的には肺癌、前立腺癌、および乳癌の患者に発生します。腫瘍が椎骨まで広がると脊髄が圧迫され、身体が不自由になったり、排尿管理ができなくなる患者もいます。研究者らは、腫瘍除去手術および放射線療法が癌患者に対して、圧迫の軽減および脊髄の安定による利益をもたらすかどうか考えました。

試験
本無作為化第3相試験では、癌による脊髄圧迫の緩和に関して、手術および放射線療法の併用と放射線療法単独の有効性について比較しました。本試験の主要評価項目は、治療後の歩行能力でした。「歩行」の定義は、介助なしで(杖または歩行器は使用可)各足につき2歩以上進むこととしました。副次的評価項目は、排尿管理維持能力(排尿自制)としました。

1992年9月~2002年12月の10年にわたって患者を組み入れました。参加患者101名のうち32名が歩行不能の状態で試験を開始しました。脊髄の圧迫箇所が1ヵ所である固形腫瘍患者のみ試験に参加しました。

患者50名の脊柱から可能な限り大きく腫瘍を切除し、その後放射線療法を施行しました。51名に対しては、放射線療法のみ施行しました。患者は両群のいずれかに無作為に割り付けていました。

University of Kentucky Medical CenterのRoy A. Patchell医師が主導した本試験は、手術と放射線療法の併用が圧倒的に有益であったため、早期に中止されました。本結果は、2003年米国臨床癌学会で初めて発表されました。

結果
脊髄圧迫に対して手術および放射線療法を施行された患者は、治療後有意に長期間歩行することができました。併用群の平均日数が122日間であったのに対し、放射線療法単独群は13日間でした。手術施行患者は排尿自制も有意に長期間維持できました。併用群の平均日数が156日間であったのに対し、放射線療法単独群は17日間でした。

各群から患者16名が歩行不能の状態で試験に参加しました。手術および放射線療法施行群では患者10名が歩行能力を取り戻しましたが(62%)、放射線療法単独群ではわずか3名のみでした(19%)。

手術施行群は平均126日生存したのに対し、放射線療法単独群は100日でした。また、手術施行群は疼痛の軽減にモルヒネおよびステロイドが放射線療法単独群ほど必要ではありませんでした。手術施行患者は放射線療法単独群よりも入院期間が短期間でした。

これらの所見はすべて統計的に有意でした。

コメント
「これは非常に肯定的な試験である。われわれは、手術が放射線治療前の初期治療としてもっとも効果を発揮することを示すことができる」とPatchellは述べました。

同じ号の論説の執筆者であるオランダ・ロッテルダムDaniel den Hoed Oncology Center のMartin J. van den Bent医師も同意見であり、次のように述べました。「本試験は選択された患者に対する脊髄圧迫の減圧が広く受け入れられるための道を開いたと考えられる」

制限事項
van den Bentによれば、本試験への参加は転移性脊髄硬膜外圧迫が1ヵ所の患者に限定し、生存期間も3ヵ月と予測していました。「このタイプの介入に向いた患者を選択し、治療結果の改善が外科的介入の労力および費用を上回る患者を同定することは臨床上の大きな課題である」

(Oyoyo 訳・林 正樹(血液・腫瘍科) 監修 )

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