医療大麻に関するがん専門医と患者の話し合い

調査によれば、医療大麻についてがん患者から話を切り出すが、医師間の知識格差が依然としてある

ASCOの見解

ASCOの患者ケア専門家であるAndrew S. Epstein医師

「本研究から、患者および家族は、がん関連の症状を治療するための医療大麻についてもっと知りたがっており、しばしばがん専門医に相談をもちかけていることが明らかになっています。私たちはこうした相談に備えておく必要があり、それは私たちの推奨の裏付けとなる研究が必要であることを意味します。確かな情報に基づき、患者のあらゆるニーズを満たす指針と治療を提供するためには、がん治療における医療大麻の使用に関する研究がさらに必要であることを本研究は強調しています」。

新たな調査で得られたデータによれば、80%もの多くのがん専門医が患者と医療大麻の使用について話し合ったことがある。著者らによると、これは、州ごとの医療大麻合法化以降、この問題に関するがん専門医の診療および信念を調べる初めての全国的調査である。本研究は、Journal of Clinical Oncology誌電子版で本日発表された。

「本研究から、医療大麻が今日のがん治療で際だったトピックであり、特定の患者に有用な可能性があるとがん専門医の大半が考えていることが分かります」と、Ilana Braun医師は述べた。本研究著者である同医師は、マサチューセッツ州のボストンにあるダナファーバーがん研究所Adult Psychosocial Oncology(成人心理社会的腫瘍学)部門長である。「このトピックはよく取り上げられるものの、医療大麻の使用についてのデータはそれほど多くありません。この知識格差を埋め、がん専門医が医療大麻の使用に関する意思決定で参考にできる偏りのない情報を得られるようにする必要があります」。

カリフォルニア州が1996年に米国で初の医療大麻法を制定し、今日では30州以上で医療大麻の使用が合法化されており、うちほぼすべての州でがんは適応症とされている。しかし、それから22年間、がん患者の疼痛、不眠症、悪心、嘔吐などの症状の軽減を目的とした蕾全体を含む医療大麻の有用性を研究するランダム化臨床試験は皆無であった。

製剤カンナビノイドの使用を調査する試験研究は多数あった。製剤カンナビノイドは、1つまたは2つの有効成分を含み、高度に精製され、品質管理された製品で、薬局で入手可能である。しかし、非製剤医療大麻はしばしば蕾全体を含む医療大麻で、何百もの有効成分が含まれているため、製剤カンナビノイドと容易に比較できない。

最新の米国臨床腫瘍学会(ASCO)臨床治療ガイドラインは、腫瘍学での医療大麻の使用についての知識格差を認識している。同ガイドラインでは、がんサバイバーにおける慢性疼痛の初期治療に医療大麻を推奨するにはエビデンスが不十分であると指摘している。しかし、医療大麻は補助鎮痛薬としての使用や治療が困難な疼痛の抑制効果について検討の価値があると示唆するエビデンスもある(脚注1)。化学療法または放射線療法を受けているがん患者の悪心および嘔吐の予防を目的として医療大麻を推奨するエビデンスも依然として不十分である(脚注2)。

本研究について

研究者らは、米国の全国的データベースに登録されている有資格腫瘍内科医から、米国で診療に携わるがん専門医400人をランダムに選び、調査のメールを送付した。回答したがん専門医237人のうち半数以上(55%)が、医療大麻が合法化されている州で診療を行っている。

本調査ではがん専門医に対して、患者との話し合い、患者への推奨および医療大麻についての彼らの知識について質問した。疼痛、悪心や嘔吐、うつ病、不安、食欲不振、睡眠不足などのがん関連の症状に対する医療大麻の有効性、通常の対処、他の治療とのリスクの比較に対する見解についても質問した。

主要な知見

研究者らは、調査したがん専門医のほとんどが医療大麻についての質問を受けたことがあり、多くはがん患者に提供する治療についてさらに情報提供するための研究や教育が必要であると述べた。

具体的内容:

医師との話し合い:回答者の80%が医療大麻について患者と話し合っており、78%は医薬大麻について患者や家族の方から話が持ち出されるのがほとんどであったと報告した。

教育:医療大麻について推奨するのに十分な知識を持っていると感じていたのは30%未満であった。

推奨:半数近く(46%)が過去1年以内に、患者に医療大麻を推奨した。

潜在的有用性についての考え:3分の2(67%)以上が標準治療とともに用いる場合、医療大麻は疼痛緩和に有用な治療であると考えており、オピオイドよりリスクが低いと考える回答者が過半数で、過剰投与による死亡リスクについては75%、中毒については52%が低リスクと答えた。3分の2近く(65%)はまた、食欲不振や極端な体重減少に対し、標準治療と同等かそれより有効性が高いとみていた。
しかし、他の症状に対する有効性の評価では、悪心や嘔吐(29%)、睡眠不足(45%)について「わからない」と回答したがん専門医が多かった。

本研究は、医療大麻についてがん専門医の診療における顕著な差の原因となる以下の要因を示した。

地理的な位置:米国西部で診療するがん専門医は、医療大麻について話し合ったことがある(95%)または推奨したことがある(84%)割合が高く、南部で診療するがん専門医ではいずれも最も低い傾向にあった(それぞれ69%、35%)。

診療のタイプ:病院外で診療する回答者の方が、病院勤務のがん専門医よりも医療大麻を推奨する傾向が高かった(54%対35%)。

診療の規模:毎週多くの患者を診察するがん専門医は、診察する患者が少ないがん専門医よりも医療大麻について話し合っている傾向が高かった(89%対70%)。

次の段階

本論文の中で、研究者らは医療大麻に関するこうした知識格差を取り上げる臨床試験を提唱している。「医療大麻の役割を明確にするための有効性比較試験の実施が必要と考えます」とBraun医師は述べた。「また、他の専門医やがん患者に対しても調査を拡大する必要があります」。

本研究はHans and Mavis Lopater Foundationからの助成を受けた。

Paice JA, et al. Management of Chronic Pain in Survivors of Adult Cancers: American Society of Clinical Oncology Clinical Practice Guideline. Journal of Clinical Oncology 2016 34:27, 3325-3345 
​2 Hesketh PJ, et al. Antiemetics: American Society of Clinical Oncology Clinical Practice Guideline Update. Journal of Clinical Oncology 2017 35:28, 3240-3261

翻訳担当者 太田奈津美

監修 関屋 昇(薬学博士)

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原文掲載日 

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