がん患者におけるオピオイド鎮痛剤使用の管理

MDアンダーソン OncoLog 2018年3月号(Volume 63 / Issue 3)

 Oncologとは、米国MDアンダーソンがんセンターが発行する最新の癌研究とケアについてのオンラインおよび紙媒体の月刊情報誌です。最新号URL

監視および介入による患者の安全確保

公衆衛生専門家はオピオイド鎮痛剤乱用について、毎年何千人もの米国人が処方薬の過剰摂取により死亡していることから、危機的状況と表現している。この危機的状況を踏まえ、米国疾病予防管理センター(CDC)は、慢性疼痛に対するオピオイド鎮痛剤の使用を減少させるために、2016年に疼痛治療ガイドラインを更新した。しかし、がん患者は本ガイドラインの適用範囲に特に含まれておらず、それはがんに関連する疼痛の特性や、薬物乱用はがん患者集団において高頻度にみられないという概念に基づくものである。

しかし、オピオイド鎮痛剤の過剰摂取および薬物乱用の問題は、ごく一部のがん患者においても認められており、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの臨床医らは、慢性疼痛を有するがん患者のオピオイド鎮痛剤乱用によって生じうる問題を検出して管理するシステムを確立した。

「私たちのグループや他のグループによる最近の試験から、疼痛に対してオピオイド鎮痛剤の投与を受けた一部のがん患者において、偶発的に過剰摂取の危険にさらされる経験していることが明らかになりました」と、緩和・リハビリテーション・総合医療科の助教であるJoseph Arthur医師は述べた。これらの試験の結果、MDアンダーソン支持療法センターの患者が、慢性疼痛に対して十分な治療を確実に受けられるようにすると同時に、前述のような問題の発生を防ぐことを目的としたスクリーニングおよび介入の集学的アプローチに至った。

「私たちの目標は、当センターの患者の安全を維持することで、患者ががんの治療に専念できるようにすることです」と、緩和・リハビリテーション・総合医療科の高度実践看護師であるTonya Edwards看護学修士/看護師は述べた。

患者リスクの評価

患者がオピオイド鎮痛剤を必要とする慢性疼痛のために支持療法センターに紹介されると、当センターのスタッフは、患者のオピオイド使用障害の発症リスクを評価するために、いくつかのツールを用いる。まず最初に、臨床医は、患者のカルテにアルコール乱用または薬物乱用の既往歴、あるいは家族歴が記載されているかどうか注意を払う。次に、患者に対して、薬物乱用のリスクに対して有効なスクリーニングツールであるCAGE-AID(薬物を組み込んだCAGEアルコールスクリーニング質問票)およびSOAPP-R(疼痛を有する患者に対するスクリーナーおよびオピオイド評価-改訂版)の2つの短い質問票への回答を依頼する。

患者にオピオイド使用障害のリスクがあると考えられる場合、スタッフは、患者の現在または過去のオピオイド鎮痛剤の使用歴を確認するために、患者の居住州における処方薬モニタリングプログラムを確認する。

「これらのスクリーニングツールから、患者がオピオイド使用障害を発症する可能性があるかどうかが分かります」とArthur医師は語った。高リスクを有することが判明した患者の場合でも、疼痛管理に必要なオピオイド鎮痛剤の投与を受けるが、患者を保護するために補足的な措置が導入されている。

患者の安全の確保

一般的に、オピオイド使用障害の発症リスクに関わらず患者がオピオイド鎮痛剤を必要とする場合、支持療法センターのスタッフは、最初にオピオイド鎮痛剤の有益性および予測される有害作用について説明する。また、オピオイド鎮痛剤の適切な保管および破棄に関する情報についても患者に提供する。「時々、特に薬物乱用のリスクを有する患者の場合は、オピオイド管理プランを使用します」とArthur医師は述べた。「このプランによって、疼痛治療の目標および期待されることや、ケアチームと患者の各関係者が行うべき内容が明らかになります。患者にとって期待されることとは、オピオイド鎮痛剤の処方箋を交付する医師を1人だけにし、処方する薬局を1箇所にすることです」。

一部の患者、特に高用量のオピオイド鎮痛剤が必要な患者、あるいはオピオイド鎮痛剤と致死的な相互作用を有する可能性のあるベンゾジアゼピン系などの薬剤を投与している患者に対して、過剰摂取の場合に使用するナロキソン点鼻スプレーの処方箋が交付される。Arthur医師らは、CDCガイドラインを遵守してナロキソンの処方を行っている。

オピオイド鎮痛剤の投与を受けている患者のうち、オピオイド使用障害の発症リスクが低いまたは中等度の患者に対しては、通常、支持療法センターにおいて月1回のフォローアップ来院を実施する。高リスクの患者では来院回数が増える場合がある。フォローアップ来院中、スタッフは、薬剤による疼痛管理の程度や、薬剤による患者の機能への影響または他の有害作用の発症状況について評価する。

稀ではあるが、スタッフは、予定より早めの処方箋の再発行の要求が繰り返されるなど、オピオイド使用障害を示唆する徴候に気付く場合がある。Edwards氏らは、看護師がそのような警告徴候を特定し、医師へ通知するためのシステムを開発した。このシステムによって、患者の健康な状態を確保するために、適切な措置を講じることができる。

オピオイド使用障害は多様化しており、医師単独では患者のすべてのニーズに対処するための専門知識が十分ではない場合がある。オピオイド使用障害の徴候がみられる患者に対する適切なケアを確保するために、支持療法センターは、コンパッショネート・ハイアラート・チーム(CHAT)を設立した。CHATは集学的グループであり、そのメンバーは患者のニーズに応じて異なる。通常、CHATは、医師と看護師の他に、患者が不安や抑うつなどの問題を抱えている場合に必要とされる心理学者またはカウンセラー、患者がさまざまな個人的問題や家族問題に対処するための資源にアクセスできるように手助けをするソーシャルワーカー、患者の薬剤に関する質問に回答できる薬剤師、患者が自己の権利を理解し躊躇することのないように確認する患者擁護者、といった職種を含む1人以上の担当者によって構成されている。

CHATは早急に会議を開催して症例について議論した後、チーム全体で患者との話し合いの場を設けて適切な対処の選択肢について意見を交わす。「私たちは非対立的な姿勢で選択肢を提供します」とEdwards氏は述べた。

「チームアプローチによって快適な雰囲気が作り出され、その中で医療提供者と患者が前向きにプランに合意することができます」と、Edwards氏とともにCHATプログラムを最初に設立した、緩和・リハビリテーション・総合医療科の教授であるSuresh Reddy医師は語った。Reddy医師は、快適な雰囲気は患者を安心させるだけではなく、スタッフに対するバーンアウト問題の発生防止にも役立つと補足した。

Reddy医師率いるグループは、CHATプログラムの実施後、患者コホートにおける改善点について文書にまとめている。これらの知見は、The Oncologist.誌上で2017年に公表されている。

習得した教訓の共有

「私たちのオピオイド管理への取り組みは功を奏し、私たちが習得した教訓をMDアンダーソンの他の診療科や他の施設と共有しています」とEdwards氏は語った。MDアンダーソンは、2018年4月27日、地域の医療提供者に対してがんに関連する疼痛管理におけるオピオイドの危機的状況の影響についてのセミナーを開催するとEdwards氏は補足した(下記の『オピオイドの危機的状態についての学際的セミナー』を参照)。

「オピオイド鎮痛剤の処方に関する状況が変化しているため、医師はそれに関する知識を得る必要があります」とArthur医師は述べた。「オピオイド鎮痛剤の処方についての州および連邦規制当局による監視が強化されています。医師は、がん患者を含め、患者にオピオイド鎮痛剤を処方する際には慎重に行うことがこれまで以上に重要です」。

キャプション】

疼痛に対してオピオイド鎮痛剤の投与を受けている患者との話し合いの前に、コンパッショネート・ハイアラート・チームはお互いに情報交換を行う。がん疼痛に対してオピオイド鎮痛剤の投与を受け、オピオイド使用障害を発症する可能性のある患者の安全を確保するために、チームアプローチが実施されている。左から、Suresh Reddy医師、Manju Joy氏(准管理看護師)、EdenMae Rodriguez氏(薬剤師)、Tonya Edwards氏(高度実践看護師)、Joseph Arthur医師

For more information, contact Dr. Joseph Arthur at 713-794-1649 or jaarthur@mdanderson.org, Ms. Tonya Edwards at 713-792-6977 or tedwards@mdanderson.org, or Dr. Suresh Reddy at 713-794-5362 or sreddy@mdanderson.org.

FURTHER READING

Arthur J, Edwards T, Lu Z, et al. Frequency, predictors, and outcomes of urine drug testing among patients with advanced cancer on chronic opioid therapy at an outpatient supportive care clinic. Cancer, 2016;122:3732–3739.

Arthur J, Edwards T, Reddy S, et al. Outcomes of a specialized interdisciplinary approach for patients with cancer with aberrant opioid-related behavior. Oncologist. 2017. doi: 10.1634/theoncologist.2017-0248. [Epub ahead of print]

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翻訳担当者 栃木 和美

監修 小杉 和博(緩和医療科/国立研究開発法人 国立がん研究センター東病院)

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