症状自己報告Webシステムの使用が生存期間延長に効果

がん領域における患者報告アウトカム(PRO)利用の増加を裏付ける研究

米国臨床腫瘍学会(ASCO)の見解

ASCO専門委員Harold J. Burstein医師は言う。「オンライン・テクノロジーは私たちの生活のまさにあらゆる場面でコミュニケーションのあり方を変えました。今、そうした技術のおかげで患者が自分の治療において積極的な役割を担い、主治医など医療従事者とすぐに連絡がとれるようになっている状況も見られます。今回のような簡単な手段で生活の質が向上するだけでなく、さらに患者の生存期間の延長にも寄与することは画期的です。近いうちにこのシステムを取り入れるがんセンターや医療現場が増えるでしょう」。

766 人の患者が参加したランダム化比較試験で、「患者が症状をリアルタイムで報告できるWebツールを利用し、医療者に知らせる」という簡単な介入が、生存期間の延長などの顕著な利益をもたらすという結果が示された。転移がん患者で、化学療法期間中に症状を定期的に報告するツールを使っている患者は、使っていない患者に比べて生存期間が中央値で5カ月長かった。

この知見はASCOのプレナリーセッションで発表される予定である。このセッションでは、2017年ASCO年次総会で取り上げられる5,000を超える演題のうち、患者ケアに最も大きく影響すると思われる4演題が発表される。

「化学療法中の患者は、重い症状を発症する場合が多いが、医師や看護師がこうした症状に気づかない例がほぼ半数に上ります」と、本研究筆頭著者Ethan M. Basch医師は述べた。Basch医師はノースカロライナ大学Lineberger総合がんセンター医学部教授であり、この研究が行なわれた当時、ニューヨークのスローンケタリング記念がんセンターで診療に携わっていた 。「Webによる症状報告システムを利用して、患者の訴えをケアチームに知らせることが、苦痛を緩和し、患者の転帰を改善する措置につながることを示しました」とも述べた。

本研究の前報では、このシステムの使用と、生活の質の向上ならびに救急搬送や入院回数の低下との関連性が示された。通常の治療を受けた患者と比べ、Web上で症状を報告するシステムを使用した患者は抗がん剤治療を長期に受けることもできた。

「ここで示された生存期間の改善の程度は小さいが、転移がんに対する多くの標的治療よりも、良い結果が得られました」とBasch医師は述べた。

研究について

この研究には、外来で抗がん剤治療中の進行性固形がん(泌尿生殖器がん、婦人科がん、乳がん、肺がん)患者766人が登録された。患者は、タブレットを使用し症状を報告する群(介入群)、または医師が患者の体調を診察し記録する群(通常治療群)のいずれかにランダムに割り付けられた。通常治療群の患者は、体調について来院時にがん専門医と話をし、次回来院までの間に何か不安な症状があれば電話で相談するよう指示された。

介入群の患者は、化学療法中によくみられる食欲減退、呼吸困難、疲労、ほてり、悪心、疼痛などの12の症状について、1週間単位で5段階評価で報告した。STAR(Symptom Tracking and Reporting:症状の追跡と報告)と呼ばれるWebシステムは研究目的で開発され、市販はされていない。患者は、自宅または化学療法で訪れた診察室から、タブレットや公共端末を使って、遠隔的に症状を報告することができた。医師は来院時に症状の報告を受け、患者が重度の症状や症状の悪化を報告した場合には看護師にメールで警告が届いた。

重要な知見

介入群の患者の中にはインターネットの使用経験がほとんどない者もいたが、全患者が抗がん剤投与中に起こった症状をみずから進んで定期的にWeb上で報告できた。患者が重篤な症状または症状の悪化を報告した事例のうち4分の3以上の事例で、看護師が迅速に医療的処置を行った。通常治療を受けた患者と比べ、症状を自ら報告するWebシステムを使用した患者の方が全生存期間の中央値が長かった(31.2カ月対26カ月)。

次のステップ

これらの結果は大規模な臨床試験で検証されており、同試験では、より使いやすくなった最新オンラインツールを個人のパソコンやモバイルデバイスで使用している。この研究は、全米の実際の診療現場で行なわれている。

Basch医師は「症状管理は、がん医療チームが行う医療の中心です」と述べた。また、通常診療でオンラインツールの使用が広がれば、患者から医療チームへのリアルタイムな症状伝達が可能となることを本研究は支持していると述べた。

本研究は米国臨床腫瘍学会(ASCO)のConquer Cancer Foundationより、資金提供を受けた。

翻訳担当者 医療翻訳講座ステップアップコース

監修 小杉 和博(緩和ケア内科/川崎市井田病院)

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