予後に関する医師との対話と病気の理解

米国国立がん研究所(NCI)ブログ~がん研究の動向~

進行した治癒不可能ながん患者の多くは、自身の予後や平均余命を十分に理解していないことが新たな研究結果で示された。主治医と予後について話し合った患者は、病気の深刻な状態を理解しているようであることもわかったが、最近話し合ったと報告したのは患者の4人に1人にも満たなかった。

「われわれの知る限りでは、本研究は患者が報告した予後に関する話し合いのタイミングと、患者の病気に対する理解の向上との関係を、直接扱い、証明した最初の研究である」と、5月23日付のClinical Oncology誌に記載された文献に著者らは記している。

「この結果は、末期がん患者の多くが自分が病気の経過のどの段階にいるのか、そして治療の結果良好な予後は実現できない、といった基本的な情報を理解していないことを示唆しています」と、ニューヨークにあるWeill Cornell Medicine、 the Center for Research on End-of-Life Careを統括する、主任研究員のHolly Prigerson医師は述べた。「情報をもとに自分のケアを判断できるよう、患者には自身の病状および予想される治療の転帰を知る権利があります」Prigerson医師は続けた。

【NCIの本ビデオは、患者と医療従事者に、予後の話し合いに関するキーポイントと手がかりを提供する。】
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病気の理解を評価する

患者がどれ程自分の予後を理解しているかを評価するために、Prigerson医師のチームは進行固形がんを有する成人患者178人に対し、病気の進行を評価するために施行したスキャンの結果について主治医と話し合う前後に聞き取り調査をした。米国の9つのがんセンターから集められた患者は、NCI助成金による研究の参加者であった。患者のほとんどは肺がんまたは消化管がんのどちらかに罹患しており、主治医の診断によれば生命予後は全員6カ月以下であった。

聞き取り調査では、スキャンの前後ともに患者に4つの質問をした。病気が末期であること、病気は治癒が不可能であること、進行性の病気であること、そして平均余命が数年ではなく数カ月であること、を理解しているか否かを確認する内容である。またスキャン後の聞き取り調査の間に、最近または過去の主治医の診察で、予後や平均余命について話し合ったか否かも尋ねた。

研究者らは4つの質問に対する各々の答えが不正確か正確かを0点と1点とに割り当て、最大「疾病理解スコア」を4点として点数を足した。スキャン前後の点数の違いが、疾病理解の変化を明示した。

全体を通して研究者らは、患者がスキャン後の診察の後に病気の理解を深めていることがわかった。しかし、理解が有意に向上したのは、主治医と予後や平均余命について少なくとも最近話し合ったと報告した場合だけであった。

178人の患者のうち24人(13%)は主治医と最近も過去にも予後について話し合っており、18人(10%)は最近のみ、68人(38%)は過去にのみ話し合っていた。残る68人(38%)はそのような話し合いは持たなかったと報告した。

6月初めにシカゴで開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で発表された同様の研究のフォローアップ解析では、“伝える人次第でもある”ことが示されたとPrigerson医師は話した。主治医と画像検査の結果を話し合ったと報告した患者は、他のケアチームのメンバーと話し合った場合に対し、自分の病気が後期または末期にあることをおよそ4倍受け入れたとみられた。

コミュニケーションチャレンジの克服

「Prigerson医師のチームはこのような予後に関する話し合いがいかに重要であるかだけでなく、いかに話し合っていないかをも示しました」NCI Division of Cancer Control and Population Sciencesの公衆衛生学博士であるWen-Ying Sylvia Chou医師は語った。

Chou医師は、NCI助成金による患者と医療提供者の間のコミュニケーションおよび健康についての能力向上のプロジェクトを監視している。「研究では、これらの臨床的相互作用を掘り下げています」と彼女は述べた。「カギとなるのは、ケアの目標に対する患者の理解であるということがはっきりしました。自分の病気の診断と予後を知らずに、ケアの目標を十分に理解することはできないのです」。

末期がんの予後を患者や彼らの愛する人々に伝えるというデリケートな責務は、さまざまな原因から難しい。「話題にするのを非難されることが多いのですが、緩和ケア、ホスピス、生活の質(以下QOL)は重要な問題です。これはわたしたちが話し合うべき社会的かつ文化的な問題なのです」Chou医師は述べた。

そのうえ、悪いニュースを伝えることで患者を不安や憂うつにするのではないかと懸念する主治医がいる。しかしPrigerson医師は、自身も他の医師らもこのような話し合いの結果、患者のうつ、不安、またはQOLが悪化するのを確認したことはない。そして話し合いが医師と患者の関係を損なう様子もないと述べた。

しかし全ての参加者がそのような話し合いの準備ができているわけではない。たとえば、「文化的に死やがんについて話すことがタブーである人々がいます」とPrigerson医師は述べた。さらに、多くの敬虔で信心深い患者は自分の運命は神の手の中にあると信じており、主治医からの悪いニュースを受け入れ難いとみられる。

死についての積極的な話し合いをするにあたり、倫理的および人種の相違に関する説明を助けるため、Prigerson医師チームは、ビデオを作製している。そのビデオの中で、患者および家族は、異なる治療を選択した場合のQOLへの影響に関する情報を共有することができる。ビデオの目的は、医療従事者からの情報を受け入れようとしている患者の判断を伝えることである。

メッセージや問題の伝達法

NCIは、進行がん患者と腫瘍医がかわした予後と治療の目標についての話し合いの記録を分析するための研究など、医師と患者の関係における医師側を考察する研究を支援している。研究では、主治医はめったに患者と予後の話をしない、または予後についてはほんの短い話し合いを持つにすぎず、治療法などの他の話題に移ってしまうことが示された。加えて、主治医はしばしば、予後や治療目標について曖昧な言葉を用いて語り、患者が楽観視したり、患者に希望を持つよう強調し、結果として患者間で非現実的な期待を持ってしまうことになるという。

他のNCI支援による研究は、医師と患者のコミュニケーションを改善し検証する方法に焦点を当てている。一つの例は、緩和ケアについての話し合いを改善することを目的としたOncotalk programである。ハーバードメディカル大学のJames Tulsky医師により計画された。ロチェスター大学のRonald Epstein医師が率いた研究では、腫瘍医、進行がん患者および予後と治療法の選択に関するコミュニケーションを進める患者の支援者たちへ介入する指導法を検証している。

「本当に重要な事は、傾聴および患者との関係の確立です」Chou医師は述べた。「患者の価値観は変化し、発展することがあります。不変のものではないのです。さらに優先度が変化することもあります。定期的かつ迅速に判断できるシステムがあれば、こういった難しい話し合いなる場合にも、患者の価値観に、より寄り添うことができるでしょう」。

翻訳担当者 白鳥理枝

監修 東 光久(総合診療、腫瘍内科、緩和ケア/福島県立医科大学白河総合診療アカデミー)

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原文掲載日 

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