医師と予後を話し合うことは進行がん患者に有益

米国国立がん研究所(NCI)/ブログ〜がんの動向〜

原文掲載日 :2015年10月30日

新たな研究によると、担当医と予後について話し合った進行がん患者は、話し合いをしなかった患者よりも、平均余命について現実的な予測をしていた。さらに、このような話し合いは患者の幸福感を損なうことや、医師との関係を損なうこともなかった。

本研究では、担当医と予後について話し合った患者は、話し合わなかった患者よりも、終末期ケアを計画し、終末期には積極的治療よりも緩和ケアを望む傾向にあったことも示された。

これらの知見は、Journal of Clinical Oncology誌10月5日号で発表された。

これまでの研究から、がんが治癒可能かといった予後情報を大多数の進行がん患者が求めていることが示唆されてきた。しかし、進行がん患者が具体的な余命に関する情報を常に求めているのか、またこのような詳細を知ることが患者にどれほどの影響を与えるかについての研究はほとんどない。

これらの疑問を調査するため、Weill Cornell 医科大学のHolly Prigerson医学博士らは、緩和的化学療法を少なくとも1回受けた転移性がん患者590人を対象とした研究を行った。

患者は、研究開始前にインタビューを受けた後、死亡(または研究終了時)まで追跡調査された。予後についての話し合い、および余命に関する情報への興味について報告することに加え、患者は自身の平均余命を推定した。また、担当医との関係、苦痛の程度、事前指示書を作成済みであるか、終末期ケアについての希望についての質問にも回答した。

結果を解析すると、研究に参加した患者が予後について知りたかった内容と、実際に告げられたことを思い出した内容には大きな乖離があることが明らかとなった。患者の71%は平均余命についての情報を求めていたが、医師から予後の推測を告げられた患者は18%にも満たなかった。

「末期がん患者の大多数が予後を知りたがっているという事実は驚くほど勇敢であると思われる。また、担当医から余命を知らされたと報告した患者が18%にも満たないことは残念である」とPrigerson氏は述べた。

本研究に参加した患者の多くは、これまでの研究で報告されてきたのと同様に、余命について「実に楽観的」であった。医師と患者が予後について話し合うことで、患者に悲しみや不安を与えずにこれらの誤解を正すことができるかもしれないということをこの新たな結果が示唆している。

「予後について医師と患者で話し合うことで感情面の悪影響はなかった」とPrigerson氏は述べたが、「誰もがそうであるように、医療提供者は厳しい話題を話し合いたがらないことが多い」と加えた。

正確に余命を推定することが難しいことや、患者がその見積もりを知りたがっているかどうかが不確かであることも含め、医師が末期患者と予後について話し合うことを避けるのには、他の理由があるかもしれないと本研究の著者は述べた。

こういった話し合いを持つことは困難ではあるが、特に将来の計画を立てる手段として、予後についてもっと頻繁に最新の情報を得ることで恩恵を受ける患者は多いかもしれないということを新しい知見は示唆している。「担当医から予後の情報を開示してもらったと報告した患者は、DNR(蘇生処置拒否)指示をし、緩和ケアを望む傾向にあったことは心強い」とPrigerson氏は述べた。

本研究にはいくつかの限界がある。例えば、患者からの自己申告の回答には思い出しバイアスが生じている可能性があり、本研究で示された関連性は因果関係を示していないと筆者は述べた。

Prigerson氏は、予後の情報がすべての患者にとって有益であるわけではないということも警告した。

「悪い知らせを聞いたり、処理したりする準備ができていない患者もいるかもしれない。自分の将来は医師の手中ではなく神の手中にあると考え、重要でないとして拒否する患者が、実際に情報を提供されることがあるかもしれない」と説明した。

こうした場合、「その状況になることで、益となるより害になる。しかし以前の研究では、予後についての情報を得ることは90%以上の患者にとって有益であり、宗教的、心理的または社会的な理由で有益ではないという患者は少数派であるということがわかっている」とPrigerson氏は続けた。

原文

翻訳担当者 上田梨佳 

監修 野長瀬祥兼(腫瘍内科/近畿大学医学部附属病院)

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