終末期医療の希望を伝えているがん患者は非常に少ない

米国国立がん研究所(NCI)/ブログ~がん研究の動向~

原文掲載日 : 2015年8月10日

終末期医療の希望を伝えているがん患者は非常に少ない

多くのがん患者は、終末期医療に対する希望を大切な人に書面で伝えたり、話し合ったりしていないということが新たな研究で示唆された。この研究では、終末期にがん治療を受けている患者の数が大きく増加していることもわかった。

7月9日号の電子版JAMA Oncology誌に掲載された結果は、患者の病状が進行し終末期医療に対する希望を共有できなくなる前に、それを共有する必要性を強調している、と研究著者らは述べた。

死期が近づくと、多くの進行がん患者は、彼らの価値観や目標、治療への希望が診療に確実に反映されるために、生前遺言や永続的委任状などの法的文書に加えて『大切な人』(*注:家族や友人)を頼りにする。

新たな研究は、アドバンス・ケア・プランニング(*事前に終末期医療について話し合うこと)の実施状況の傾向を示している。ジョン・ホンプキンス大学医学校のAmol K. Narang医師らの研究チームは、アドバンス・ケア・プランニングの実施と終末期医療についての話し合いについて、2000年から2012年の間にがんで亡くなった前向き研究Health and Retirement Studyの参加者2000人近くの調査データを分析した。

Health and Retirement Studyでは50歳以上のアメリカ人の代表サンプルに隔年で面接を行った。参加者の死亡から2年以内に、研究責任医師が説明責任能力のある代理人(多くは参加者の最近親者)と、参加者の終末期医療について面接を行った。

研究期間中、調査対象母集団において、生前遺言の使用と終末期医療についての話し合いに有意な変化はなかった、と研究者らは述べている。

対照的に、2000年から2012年の間、『大切な人』に永続的委任状の特権を与えるがん患者の割合は52%から74%に増加した。しかしながら調査回答者の40%近くは『大切な人』と終末期医療に対する希望について話し合ったことはなかったと回答した。また、終末期に「可能な限りすべての治療」を受けた患者の割合は、この研究期間で7%から58%に上昇した。

永続的委任状を託す人を指名することは、患者がホスピスや自宅よりも病院で死亡する確率が少ないことに関連していた。また、生前遺言を残し、終末期医療について話し合っていた患者は、そうでない患者と比べて、終末期に受けた治療が限られている傾向が強かった。

調査結果では、「患者や介護人と終末期医療に対する希望について話し合うよう、臨床医を促す方法を見つける」必要性が強調された、とNarang医師はプレスリリースで述べた。

患者の治療に対する希望が書面上でも口頭でも明確に伝えられていなかった場合、代理人は「過剰な延命治療になりうる行為を制限するのではなく、提供可能なあらゆる医療を提供することを選択してしまうかもしれない」と、研究者らは説明した。

研究には、調査質問が主観的であることや、回答者に記憶違いが生じている可能性などいくつか制約があった、と研究著者らは言及した。

米国のがん治療は「集中的で、最期1カ月になってからの入院率、集中治療室での治療率、救急科への来院率が増加している。依然として末期の入院率、ホスピスへの紹介の遅延、瀕死状態での身体的負担の大きいホスピスへの移動などが遷延している状態」が続いている、と著者らは記した。

調査対象母集団では、末期がん患者の20%から25%が病院で死亡したが、それは以前の報告と一致していた。

患者と家族にとって、終末期医療に対する価値観や要望を明確にし、はっきりと伝えることは、「難しく、感情的な問題で、時には法律的な要素を含む苦悩もあり、避けられることが多い。多くの人にとって、この課題は手ごわく、そしてその結果も不明瞭なようです」と、AIM Specialty HealthのMichael J. Fisch医師は社説中で述べた。

改善への道は「事前の、体制の整った臨床医チームによるより良いコミュニケーション」に端を発するとFisch医師は記した。「事前指示書には固有の限界があり、ときには必要だとみなされますが、患者個人の終末期に向けた最適ながん治療にとって十分だ、ということは滅多にありません」。

Fisch医師は「医療者の主眼は、予後の認識を育み、特定の治療ではなく医療ケアの目的に焦点を置き、そして感情に応えることであるべきです」と続けた。

Institute of Medicine は、この分野の進歩につながるであろう、臨床医と患者のコミュニケーションと、アドバンス・ケア・プランニングについての科学的根拠に基づいた発展を提唱している、と言及した。

============
(写真キャプション)新たな研究によると、多くのがん患者はいまだに終末期医療に対する希望について大切な人や医師と話し合っていない。
画像:iStock
============
 

原文

翻訳担当者 宮本満里 

監修 吉松由貴(呼吸器内科/淀川キリスト教病院) 

原文を見る

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

がん緩和ケアに関連する記事

オランザピンは化学療法中の吐き気を軽減しQOLを改善の画像

オランザピンは化学療法中の吐き気を軽減しQOLを改善

2024年ASCOクオリティ・ケア・シンポジウム発表の新研究ASCOの見解「化学療法誘発性悪心(嘔気、吐き気)は、化学療法で非常に多くみられる辛い症状で、患者のQOLが...
がん患者の抑うつ、疼痛、疲労の管理を改善しうる新たなアプローチの画像

がん患者の抑うつ、疼痛、疲労の管理を改善しうる新たなアプローチ

がん治療中の人の多くは、うつ、痛み、疲労の症状を経験する。しかし、研究者たちは依然として、がん患者においてこれらの症状をどのように管理するのが最善であるか研究のさなかにある。

一つの方法...
慢性疼痛を持続的に軽減するスクランブラー療法の画像

慢性疼痛を持続的に軽減するスクランブラー療法

ジョンズホプキンス大学ジョンズホプキンス大学の疼痛専門家2名が共著した新たなレビュー論文で、非侵襲的疼痛治療法であるスクランブラー療法が、慢性疼痛のある患者の約80%から90%で有意に...
がん性疼痛へのオピオイド利用に人種格差の画像

がん性疼痛へのオピオイド利用に人種格差

終末期が近い黒人およびヒスパニック系がん患者は、痛みをコントロールするために必要なオピオイド薬を入手する確率が白人患者よりも低いことが、新しい研究結果で明らかになった。

2007年から2019年...