OncoLog 2014年7月号◆House Call「事前指示書によって患者の意思を表明する」

MDアンダーソン OncoLog 2014年7月号(Volume 59 / Number 7)

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事前指示書によって患者の意思を表明する

健康に過ごしているほとんどの人は、もし自分たちが意思疎通ができなくなった時に自分の治療に関する意思決定がどのように行われるかについて考えることはない。しかし、そういった時のために準備をしておくことは大きな利益をもたらす。

患者は、意思伝達が不可能になった時にどのような医療を施してほしいかを考え、自分の意思を記載した法律文書を作成することで、家族や医療提供者に非常に重要な情報を提供できる。

自分の治療に関する意思決定をすることは決して簡単ではないが、病気が重症になるまで事前指示書の準備を延ばすと、手のつけようもない大仕事になることがある。健康な時に準備を始めることで、医療判断の選択肢を考える時間ができ、自分の治療に関する希望を大切な人たちと話し合うことができるのだ。

事前指示書の種類

事前指示書は、人が意思疎通を図れなくなった時に、希望するまたは希望しない治療に関して述べた文書である。事前指示書に関する法律は州によって異なるが、もっとも一般的な種類の事前指示書は、リビング・ウィル(living will)、蘇生処置禁止(DNR)指示、医療判断代理委任状である。

リビング・ウィル

リビング・ウィル(医師や家族または代理人への指示ともいう)は、終末期の患者が、希望するまたは希望しない治療の種類、特に生命維持治療に関して記載する法律文書である。リビング・ウィルは、患者が意思伝達が不可能になった場合のみ効力を生じる。

リビング・ウィルに記載される内容で共通する論点は、医療提供者に透析装置や人工呼吸器などの生命維持装置を希望するか否か、および人工的水分補給や人工栄養(経管栄養)を希望するか否か、である。

蘇生処置禁止指示

蘇生処置禁止(DNR)指示とは、患者と主治医が署名した文書で、そこには患者が心停止した際の心肺蘇生を拒否している旨が記載されている。DNR指示には2種類ある。院外DNR指示は、入院していない患者が診療所や救命救急センターで心肺蘇生を希望しないことを述べた文書である。院外DNR指示に署名している患者の中には、救急隊員にその意思を表明するためにブレスレットを着けている人もいる。院内DNR指示は、入院時に検討し、診療記録に記載するものである。

DNR指示がない場合は、患者が心停止した際、医療提供者は心肺蘇生を試みるために医学的に可能なことはすべて行う義務がある。

DNR指示はリビング・ウィルにも記載されている場合もあるが、患者が意思伝達不可能になった場合に効力を生じるリビング・ウィルと異なり、DNR指示は患者と医師の署名後、速やかに効力を生じる。

医療判断代理委任状

医療判断代理委任状は、患者が意思疎通を図れない場合、または患者自身で希望する治療に関する意思決定ができない場合に、患者が他者を指名し、その他者に患者の受ける治療を決定してもらうようにする事前指示書である。この文書は医療委任状、医療に関する永続的委任状、医療保険代理人の任命とも呼ばれる。

通常、患者の代理人として選ばれるのは、妻、親、子供などの近親者である。しかし、成人で、患者がよく知る信頼できる人物を代理人として選ぶ場合もある。代理人は患者と同様に、希望する治療や生命維持に同意または拒否する決定権がある。

患者は、使用してほしい薬剤や受けたい治療、治療を担当してほしい医師、入院を希望する病院などの自分の意思を明確に文書に記載することで、代理人の決定権を制限できる。代理人はこれらの指針に従う義務がある。一方、患者が意思疎通可能である場合、患者自身が治療に関する決定権を持ち、口頭または書類で、いつでも代理人の権限を剥奪することが可能である。

医療判断代理状は特定の一人に決定権を与えるが、考えられるあらゆる状況でその人物が何をするかまでは指示できない。同様に、リビング・ウィルによって患者の希望は患者の主治医や患者の大切な人たちに伝わるが、あらゆる状況で患者の希望にどう対処すべきかまでは示されていない。多くの場合、医療判断代理状とリビング・ウィルの両方を準備することが良い選択肢の一つである。両方の文書を準備することで、代理人はリビング・ウィルの記載内容に基づいて医療判断できるようになるからだ。

事前指示書の作成

18歳以上であれば、誰でも事前指示書を作成できる。医師、病院または保健省から専用の書類を入手する、または自分の希望を紙に書き留めるのみでも良い。指示の内容が複雑であったり、弁護士が作成したものである必要はないが、患者の住む州の法律には従わなければならない。

必ず自分の希望を家族や医療提供者と話し合い、事前指示書の写しを渡しておくこと。話し合いが大変であると思う場合は、家族会議に社会福祉指導員か所属する宗教の仲間を呼んで、話し合いがうまく行くように手伝ってもらうのも良い。

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翻訳担当者 並木 恵

監修 東 光久(総合内科、血液癌、腫瘍内科領域/天理よろづ相談所病院)

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