オランザピンは化学療法中の吐き気を軽減しQOLを改善
2024年ASCOクオリティ・ケア・シンポジウム発表の新研究
ASCOの見解
「化学療法誘発性悪心(嘔気、吐き気)は、化学療法で非常に多くみられる辛い症状で、患者のQOLが著しく損なわれます。本研究の結果は、オランザピンを難治性の化学療法誘発性悪心に対する有望な介入薬として位置づけるものです」。
Oreofe O. Odejide医師(腫瘍内科医、公衆衛生学修士、ダナファーバーがん研究所)
試験要旨
目的 | 化学療法誘発性悪心(嘔気、吐き気)の管理 |
対象者 | 化学療法開始直前の乳がん患者1,363人 |
主な結果 | オランザピンは化学療法中患者の悪心を軽減し、全体的なQOLを改善する。 |
意義 | ・吐き気や嘔吐はがん患者への化学療法で多い副作用であり、嘔吐によって日常生活が困難になるなど、QOL(生活の質)が損なわれる可能性がある。がん治療がさらに耐え難いものになることもある。 ・化学療法中、吐き気や嘔吐は制吐薬と呼ばれる薬剤を用いて治療することが多い。しかし、制吐薬は化学療法中の嘔吐をコントロールするのに非常に有効である一方で、吐き気は依然として患者に多い問題である。 ・オランザピン(販売名:ジプレキサ)とプロクロルペラジン(販売名:ノバミン)は2種類の制吐薬である。オランザピンは吐き気を引き起こす脳内受容体を標的として作用し、プロクロルペラジンは吐き気を引き起こす体内物質を遮断することによって作用する。両薬剤ともASCOガイドラインの吐き気治療に関する推奨事項に含まれており、通常、効果を高めるために他の制吐薬と併用される。 ・化学療法中の吐き気に対して、最終的にどの薬がよく効くかは不明であった。 |
オランザピンは、化学療法を受けているがん患者の激しい吐き気を抑制し、QOLを改善する効果が高い可能性があることが、新たな研究で明らかになった。これらの知見は、2024年9月27日から28日までカリフォルニア州サンフランシスコで開催される2024年米国臨床腫瘍学会(ASCO)クオリティ・ケア・シンポジウムで発表される。
試験について
この研究では、患者は化学療法の第1サイクルでASCO推奨の吐き気止め標準治療を受けた。その後、中等度以上の吐き気を経験した患者数を調べた。中等度以上とは、7を最も激しい吐き気とする1から7の尺度で、3以上を意味している。
最初の参加者1,363人のうち、310人が化学療法の第1サイクルで中等度以上の吐き気を経験し、試験の継続に同意した。これらの患者は次の化学療法サイクルで、オランザピン、プロクロルペラジン、プラセボのいずれかと、標準的な吐き気止め治療薬とを併用する群に無作為に割り付けられた。治療を受けた後、患者は4日間自宅で日記をつけ、1日4回、吐き気の程度、嘔吐回数、服用した吐き気止め薬、救急外来を受診したかどうかを記録した。
主な知見
- オランザピンとプロクロルペラジンはプラセボと比較して、化学療法中の吐き気を有意に軽減した。
- オランザピン投与群とプロクロルペラジン投与群のいずれにおいても、投与後に吐き気スコア平均が約1ポイント低下した。
- 重度の吐き気に対しては、オランザピンはプロクロルペラジンよりも有効であった。
- オランザピン投与群では吐き気の最大スコアが2.5ポイント低下したのに対し、プロクロルペラジン投与群では2ポイント低下した。
- さらに、オランザピン投与群は、プラセボ群と比較して全体的なQOLが有意に改善したが、プロクロルペラジン投与群では改善がみられなかった。
「これらの重要な知見は、標準的な制吐療法にもかかわらず激しい吐き気に苦しむ患者に対して、オランザピンがより効果的な緩和をもたらす可能性を照らし出しています。これは医療従事者にとって、治療戦略の指針となる貴重なエビデンスです。患者にとっては、化学療法中の症状および全体的な幸福感を改善するために、より効果的な選択肢があることを意味しています。このことは、最終的には化学療法をより耐えやすく、管理しやすいものにし、全体的な転帰と患者の満足度の向上に寄与する可能性があります」と、研究筆頭著者のLuke Peppone博士(ニューヨーク州ロチェスター、ロチェスター大学医療センター)は述べた。
次のステップ
研究者らは、オランザピンとプロクロルペラジンが吐き気にどのように影響するかについて、化学療法の種類や悪心誘発性に基づいて調べる予定である。また、吐き気レベルを予測し、どの患者が重大な悪心を発症しやすいかを特定できるバイオマーカーを同定するため、患者の生体サンプルを調べている。
本研究は、米国国立がん研究所から資金提供を受けた。
- 監修 加藤恭郎(緩和医療、消化器外科、栄養管理、医療用手袋アレルギー/天理よろづ相談所病院 緩和ケア科)
- 記事担当者 山田登志子
- 原文を見る
- 原文掲載日 2024/09/23
【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。
がん緩和ケアに関連する記事
遠隔医療によるがん緩和ケアは患者のニーズに合う
2024年11月15日
がん患者による医療用大麻の使用増加に対応を迫られる腫瘍医たち
2024年11月3日
複数の研究結果によると、がん治療を受けている人の約20%から40...
ポンセグロマブはがん悪液質治療に大変革をもたらすか?
2024年11月14日
悪液質の特徴的な徴候は...
がん患者の抑うつ、疼痛、疲労の管理を改善しうる新たなアプローチ
2024年5月20日
一つの方法...