診断されたばかりの方に―男性の妊よう性温存
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翻訳更新:2014年4月20日
男性の妊孕性(にんようせい)温存
男性の中には、がん治療の影響によって子供を作ることができなくなる人がいます。男性不妊になるリスクを特定することによって、治療を始める前に、妊孕性(にんようせい:子供をつくる能力)を保存することができます。治療を既に終えた男性は、下の「家族をつくる選択肢」を参照して下さい。がんあるいは、がん治療によって不妊となっているサバイバーにも、いくつかの選択肢があります。
男性不妊とは、健全な精子を産生することができないか、あるいは射精できないことを意味します。精子を造る能力は、多くの男性においてがん治療後に復活しますが、治療を開始する前に医療提供者と、男性不妊のリスクについてよく話し合っておくべきです。精子は、将来使用するために凍結保存しておくことが可能です。しかし、もう既に治療を初めているならば、化学療法や放射線が精子細胞に遺伝子損傷を与えている可能性もあります。医療チームと話し合いの場を設けてもらい、心配なことについて話し合いましょう。不妊クリニックや不妊専門医への紹介も頼んでみましょう。
不妊専門医に尋ねてみましょう:
- 精子バンクについて
- 精巣細胞の凍結について
- 精子ドナーについて
- 養子縁組について
不妊についてい知るのは苦しいかもしれません。パートナーとの関係を懸念したり、自分に対する自信の喪失を感じることもあるでしょう。男性不妊の問題が、自分の心の健康に問題を起こしているように感じているなら、医療従事者に相談してみて下さい。サポートグループやカウンセリングが役に立つかもしれません。
男性不妊を引き起こす可能性のあるがん
がんの中には、一時的に男性の妊孕性を低下させるものがあります。男性不妊がいちばん起こりやすいのは、治療開始前と、治療終了直後です。最初の精液分析では不妊の結果が出ても、1カ月後や、あるいは数年後になってからその結果は変化することがあります。
精子の産生能力が復活する男性は、精液分析の結果が治療終了後から通常、1~3年で回復します。しかし、もっと年月がかかる男性もあります。男性は不妊の可能性がある時期でも、効果的な避妊を行わなければなりません。
精巣がん:
精巣がんが発見される以前の2年間は、妊孕性が低いことがあります。精巣がんの男性のうち、両方の精巣にがんが発生する男性は全体のわずか1~3%ですが、それでも、がんのない方の精巣も完全に正常ではない可能性があります。その一方で、精巣がんの治療を受けた男性が、数年以内に精液の品質が改善されることがしばしばあります。
初発と診断されたホジキンズ病、リンパ腫および白血病:
最近手術を受けたり、発熱あるいは身体的ストレスがあったサバイバーは、精液の品質に影響を受けることがあります。
男性不妊を招きやすい治療
癌そのものではなく、がん治療が男性の妊孕性を損なうことがしばしばあります。以下は妊孕性に影響を与えやすい治療およびその影響です。
・放射線治療は、精巣が放射線治療における照射範囲内かその近くにあった場合、精子細胞の産生が遅くなるかあるいは止まることがあります。鉛の遮蔽体をつけることによって、精巣を守ることができますが、放射線は体内で「飛び散る」ので、完全に防ぐことは不可能です。骨髄移植手術の中には、放射線の全身照射を行うものがあり、この場合はしばしば永続的に妊孕性が失われます。精巣が低線量の放射線照射を受けると、男性の妊孕性は低下しますが、その場合は1~4年の間に回復することが可能です。精巣への高線量の放射線照射を受けた場合、精子の産生能力が永久に失われることがあります。急性白血病の治療を受けた男児は、場合によっては精巣に直接放射線を照射する必要があります。この場合は、精子産生能力だけではなく、ホルモンの産生も永続的に障害を受ける可能性があります。脳の、ホルモン生成をつかさどる部分への放射線照射が、精巣へ精子産生情報を伝えるホルモンに影響することがあります。
・アルキル化剤の化学療法はもっとも妊孕性にダメージを与えます。これらの薬剤は、シクロホスファミド(シトキサン)、クロラムブシル(Leukeran)、ブスルファン(Myleran)、プロカルバジン(Natulan、Matulane)、ニトロソウレア(Carmustine、Lomustine)、ナイトロジェン・マスタード (Mustargen)、およびL-フェニルアラニン・マスタード (Alkeran)などがあります。薬剤の大量使用においては、白金使用の化学療法(シスプラチン、オキサリプラチン) やブレオマイシン(Blenoxane、Bleomycin)といった、しばしば精巣癌の治療に使用される薬剤が妊孕性を障害します。
・手術:前立腺あるいは膀胱癌の根治手術の場合は、前立腺および精嚢を切除します。これらの腺は精液の液体部分を作る役割をしています。根治手術では、精子細胞が精液へと混ざる通路もさらに切除します。精巣癌あるいは大腸癌の男性が受ける手術の中には、場合によってはオーガズムと関連する神経を傷害するものがあります。その結果、精液を放出することなく快感の絶頂を迎える「ドライ・オーガズム」となることがあります
アルキル化剤の化学療法薬剤を2種類以上使用していた男性、大量の化学療法の薬剤投与を受けた(幹細胞または骨髄の移植前など)男性、あるいは化学療法と併用して骨盤部分の放射線治療を受けた男性は、不妊のリスクが高くなります。化学療法において大量の薬剤投与を受けることは、直接精子細胞の産生能力だけでなく、精巣のテストステロン産生能力にもダメージを与えます。テストステロンは男性の妊孕性において重要なホルモンです。
男性不妊の検査
精液分析は男性の妊孕性を検査します。検査は、射精をした直後の精液を採取して顕微鏡で検査します。判定には、精液の質を測るのに、最低3項目を検査します。
・精子濃度は、精液中に存在する精子の数です。正常値は、1 mLの精液中に精子が最低2000万個です。
・精子運動率は、活発に泳ぎ回っている精子の百分率で表わします。少なくとも、50%の精子が動いている必要があります。
・精子形態率は、精子の形態です。少なくとも、30%の精子が完全な形態をしていることが正常とされています。研究所によっては、異なる評価システム(Kruger法)を取っており、より少ない数字―14%の精子細胞が完全な形態であるべきであるとしています。
妊孕性を温存するための選択肢
精子バンク
・何をするのか:
化学療法あるいは放射線治療を開始する前に、男性は医療施設か精子バンク、あるいは自宅で自身の精液のサンプルを採取します。性交時のコンドームから採取するのは、精液に細菌が混入する可能性があるため、マスターベーションによる採取が適切です。自宅で採取した場合は、精液を体温に保ち1時間以内に医療施設に届けます。精子バンクの中には、採取キットを提供するところもあり、それを利用すると自宅で採取した精液に保存料を混ぜ、医療施設に翌日配達の郵便で送付することができます。精液分析が行われます。精液サンプル内に生きた精子細胞があれば、凍結保存して将来の不妊治療に利用することができます。いったん凍結保存すると、精液サンプルは少なくとも20年から30年(場合によってはさらに長期間)ダメージを受けることなく保存することができます。
・費用:
精液保存の費用を負担する健康保険はほとんどありません。精液分析が精子バンクの手順のうちに入っていれば、その費用も負担されない可能性もあります。多くの精子バンクは、支払いが負担にならないように月払いのシステムも提供しています。
・誰が利用できるのか:
性的に成熟した男性(12~13歳でも該当する)であれば、精液内に十分健康な精子が存在する限り、精子バンクを利用することができます。
・精子の保存場所:
ほとんどの大都市に精子バンクが存在し、インターネットで検索することができます。あなたの癌医療チームは、紹介状を書いてくれるでしょう。精子バンクの多くは、精液サンプル採取や分析、長期間の保存などの手順を各地の施設と共同で行っています。
精巣から組織を採取して凍結保存する
・何をするのか:
精子細胞を作れるほど成長していないが、癌治療の後に妊孕性を失う可能性の高い男児に対して、実験的選択肢ではあるものの、外来での手術で全身麻酔の下で精巣の組織の一部を採取して将来のために凍結保存する方法があります。
男児が成人して癌が完治し、実際に妊孕性を失っていた場合には、以下の方法のうち1つに、本人の組織を使用します。しかし、これらの方法で実際に挙児に成功したケースはまだありません。
組織片は解凍ののち該当男性の精巣に戻され、精子が産生されるのを待ちます。これは非常にデリケートなプロセスで、成功するのは該当男性のホルモン値が正常で、精巣が良好な血液循環により適切な温度に保たれている場合に限られます。
・誰が利用できるのか:
精巣組織凍結保存を行っているのは、非常に限られた不妊治療センターあるいは癌センターのみです。癌治療を受けた男児の多くは、妊孕性を維持することを試みていません。組織凍結保存法による挙児が成功するまでは、この方法は研究上の選択肢として提供され、両親が同意説明文書に署名することが必要です。研究プログラムの中には、組織の採取と保存にかかる費用を負担するところがあります。この方法は高額になる上に挙児にいたらない可能性があるので、この負担は非常に重要です。
体外受精-卵細胞質内精子注入法(IVF-ICSI)
精子細胞の数が200万以下の場合、行われる不妊治療は通常、卵細胞質内精子注入法の体外受精(IVF-ICSI)になります。
・何をするのか:
子どもを出産する女性は、数週間前から1~2個以上の卵子を成熟させるために、卵巣を刺激するホルモン注射を受けます。その卵子は、外来による簡単な手術によって採取されます。採取された卵子は、ラボで洗浄された後、個別の容器に保存して受精の準備が整うのを待ちます。胎生学者は、特殊な顕微鏡を使用して健康そうな精子を選び、その精子を卵子に注入します。成功すれば、胚がいくつか発生します。通常、1つか2つの胚のみが女性パートナーの子宮内に戻され、着床して妊娠にいたるのを待ちます。
・費用: IVF-ICSIは高額で、女性にとって医療面でのリスクもあります。しかし、非常に成功率も高く、特に女性が35歳未満で正常な妊孕性がある場合には効果があります。
・誰が利用できるのか:IVF-ICSIはわずかの精子しか必要がないため、精液品質や精子運動率が低い男性にとって良い選択肢となります。
子宮腔内受精(IUI)
この選択肢は、正常値に近い精液品質のある男性に適しています。
・何をするのか:男性の精液は、できるだけ多くの活動的な精子を集めるために、精製し濃縮されます。医療施設で、精液サンプルは細いカテーテル(管)から直接、子宮頸部を通して女性の子宮へ送り込まれます。こうして、はじめから、精子が卵子に受精しやすい状態にします。
この手順は、女性が妊娠できる時期である月経中期に行います。場合によっては、女性は卵子を複数成熟させるためにホルモン注射を受けることもありますが、IVFで使用されるほどの量ではありません。これは過剰排卵と呼ばれます。しかし、超音波検査で成熟した卵子が多すぎると判明した場合には、IUIを中止するか、あるいは卵子を採取しておいてIVFで使用するかのいずれかにしなければいけません。これは、多胎妊娠のリスクを避けるためで、多胎妊娠では母体および胎児の両者が危険になります。
家族をつくる選択肢
精子提供による人工授精
・何をするのか:
男性が精子を提供します。サバイバー本人あるいはカップルが個人的に知っている人から精子提供者を選ぶこともありますが、精子バンクからドナーを選ぶほうが一般的です。ドナーはサバイバーの男性と人種や肌の色などが似通った背景を持つ人物を選ぶことがあります。米国ではほとんどのドナーが匿名でいることを望みますが、多くのドナーは自分の趣味や性格などの情報を精子バンクに提供しています。遺伝的疾患のリスクを避けるために、ドナー本人および家族の既往症は慎重に分析されます。精液は、妊娠のためにIUIで使用されます。
養子縁組
・何をするのか:
養子縁組は、孤児を法的責任において引き取ることです。詳しい情報は、養子縁組業者に連絡を取ってください。最近は若いシングルマザーが、乳児を手放さないことが多くなっているために、養子縁組は難しくなってきています。海外の国の多くは癌サバイバーが養子を取ることを認めていませんが、中には腫瘍専門医による、該当サバイバーが健康であり通常の平均寿命を期待できる旨を説明する書類を認める国もあります。米国の養子縁組業者はほとんどが民間の組織で、弁護士によって手配されます。しばしば生母は、自分が受け取る多くの「養子先プロフィール」を読んで、養子に出す両親を選びます。米国内の養子縁組業者で、癌サバイバーが養子を取ることにどれだけ協力的かは、業者によって大きく幅があります。
・費用:養子縁組の手続きは高額で(5000ドルから4万ドル)、長い時間がかかることがあります。
・誰が利用できるか:養子縁組業者は、養子を希望する者全員に、適格審査を課しています。医療チームと話し合い、子どもを養育するのに十分健康であると証明する必要書類について相談して下さい。
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中島美香 訳
林正樹(血液・腫瘍内科/社会医療法人敬愛会中頭病院) 監修
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原文掲載日
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