2010/05/18号臨床試験登録特別号◆ディレクター報告「臨床試験における試練、変革、そしてチャンスの時」
同号原文|
NCI Cancer Bulletin2010年5月18日臨床試験登録特別号(Volume 7 / Number 10)
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◇◆◇ ディレクター報告 ◇◆◇
臨床試験における試練、変革、そしてチャンスの時
先月、権威ある米国医学研究所(Institute of Medicine)が癌臨床試験に関する報告書を公開した。その報告書「21世紀に向けた米国癌臨床試験制度(A National Cancer Clinical Trials System for the 21st Century)」は、NCIが支援する協同グループ(Cooperative Group)の臨床試験制度における弱点を考察したものであり、とりわけ次の4点を提言している。すなわち、NCIは臨床試験の迅速化と効率化を図ること、最新の科学を試験デザインに取り入れること、試験の優先順位を明確にしてより多くの試験を完了に導くこと、患者と医師の試験参加を促進する刺激策を見出すことである。
この提言が、協同グループに対して、半世紀を遡る歴史を持つ大きな組織としてもっと賢明なやり方をすべきだと主張した批判であれば、耳の痛いものであっただろう。しかし、今回は違う。NCIはこの報告書の作成を依頼し、資金援助したのである。さらに、米国医学研究所の報告書は、NCIがすでに実践しているやり方を反映したものである。唯一残念なのは、この報告書がきわめて最新の研究成果を反映させる必要性を認識させるには至らないと思われる点である。例えば、今年に入って私が何度も支持してきた構想であるが、臨床試験への参加に先だって事前にスクリーニングし、詳細な特徴を特定した患者の全国的な「仮想コホート」(※仮の患者分類をすること)を作ることなどである。
2005年、NCIはその臨床試験ワーキンググループからの報告を、2年後にはトランスレーショナル研究ワーキンググループからも報告書を受け取った。それ以来、NCIは研究成果を公衆衛生の利益に還元すべく、重要な知見を試験に統合し、実践することにたゆみなく取り組んできた。われわれが創設した臨床試験およびトランスレーショナル研究諮問委員会は、試験の合理化および迅速化に向けたNCIの取り組みに貢献している。また、NCIによる試験のほとんどを監督調整している運営効率ワーキンググループは、最近、臨床試験に関する一連の提言を発表し、それは米国医学研究所の報告書で強く支持されている。
われわれが数々の問題に取り組まなければならないのは明らかであり、医師への払い戻しも些細な問題とはいえない。端的に言って、現在NCIが拠出している臨床試験の資金では医師の費用を賄えていない。さらに言えば、払い戻しを増額し、費用のかかる複雑な相関科学を十分に支援することは試験の成功には不可欠であり、NCIの資金源が限られていることを踏まえると、資金を拠出する試験の数をしぼり込む必要があると考えられる。
もう一つの問題は、成人の臨床試験参加者が伸び悩み、危機的な状況にあることである。登録患者数に影響を及ぼす問題は多いが、私が思い出すのは、進行性乳癌と闘った妻の言葉である。問題は患者側にあるのではなく、「問題は、ぜひ参加したいと思える試験がないこと」だと妻は言っていた。『科学技術が可能にした医療』の新時代が、この状況を打破してくれることが私の望みである。現在では、患者一人一人の特徴を分類することができ、それによって、なぜこの新薬試験がその人の癌に合わせたものであるかを科学的に示せるチャンスのときである。そのことがまさに、NCI試験制度が必要としている、患者集積の起爆剤となるはずである。
今回のNCIキャンサーブレティン特別号では、患者の登録数増加に向けたわれわれの取り組みのごく一部を紹介する。そのなかで、われわれは臨床試験における患者募集の現状を把握し、試験に参加可能かどうかの地域格差、試験で行われる所定の治療費をカバーする保険会社の確保の難しさ、および患者募集と登録の全行程の実効性改善に向けた最善の方法を開発し共有するのが難しい現状など、患者登録の障壁を克服するための重要な取り組みなどを演題に取り上げ、プロセスの改善方法を検討する。
後者に関してAccrualNet[患者集積ネット]が開始されたことは心強い。これはNCIで準備に2年以上かけた新たな情報源であり、臨床試験への患者登録を促進し、管理する医療専門家にとって他に類を見ないツールとなるに違いないと私は考えている。
このほかにも、NExTやACTNOWなどのプログラムを含めた多くの創意により、医薬品の開発およびそのヒト臨床試験における検討が加速するであろう。これらのプログラムは、いずれも分子標的薬の開発とその早期臨床試験における検討の効率と効果の向上に焦点をあてたものである。同じ流れを汲んだ取り組みとして、NCIは、研究者と共同でNCI第3相臨床試験のほとんどで予測バイオマーカーを取り入れる一方、最近開始されたI-SPY2試験のように、試験の途中で柔軟に試験計画を変更できる(アダプティブ・デザイン)試験の開発と実施も推進している。
分子標的療法は、患者の腫瘍が標的分子を発現している場合のみ有効であるのは言うまでもない。NCIでは、研究者および医薬品業界にコンパニオン診断薬(治療が奏効する可能性が高いことを示す分子マーカーが腫瘍に発現している患者を正確に特定できる高感度の検査法)を開発するためのツールおよび供給源として臨床癌検査評価プログラムを提供している。これらの検査法は、試験の規模と費用を抑えながらも臨床ベネフィットを示す可能性が高い試験の実施につながるはずである。
解決しなければならない複雑な問題は山積みであるが、われわれが直面している最も大きな問題は、きわめて単純なものと私は考えている。われわれが的確に回答すべく備えなければならないのは、1つのシンプルな疑問に対してである—「なぜ、私は臨床試験に参加すべきなのでしょうか?」。今号のNCIキャンサーブレティンの各記事で確固とした回答が提示される。
— 米国国立癌研究所ディレクター Dr. John E. Niederhuber
翻訳担当者 市中芳江 、
監修 小宮 武文(呼吸器内科医/NCI研究員・ハワード大学病院)
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