がん患者のCOVID-19に対する反応に顕著な違い

固形がん患者のCOVID-19に対する免疫反応はがんのない人と同じであることが、キャンサーリサーチUKからの資金提供を受けて実施された新たな研究で示されている。

しかし、血液腫瘍患者の新型コロナウイルスに対する反応能力にはばらつきがあり、多くの患者はウイルスを体内から排除するのに感染の最初の徴候から最大90日もかかる-これは平均と比べると5倍も長い期間である。

パンデミックに関する知見を共有することの重要性に鑑み、この研究成果は本日(火曜日)、Cancer Cell誌にプレプリントとしてオンラインで迅速公開された。この研究は多くのがん患者にとって安心材料ではあるが、同時に、パンデミックの時のがんケアについてはすべてのがん患者をひとまとめにして扱うことができないことを強調することとなった。

がん患者は、COVID-19パンデミックによりシールディング(外出禁止など徹底的に人との接触を避けること)や治療延期に関する決断を含む多くの困難な課題をつきつけられてきた。COVID-19ががん患者にはより有害であるかどうかについても相反する証拠があり、がん患者の免疫系がウイルスに対してどう反応するかについてはほとんどわかっていない。

キャンサーリサーチUKの臨床研究医であるキングズカレッジ・ロンドンのSheeba Irshad医師主導のもと、Adrian Hayday教授およびPiers Patten医師(コンサルタント血液内科医)とで行った共同研究で、
1)がん患者のCOVID-19に対する免疫反応はがんのない人の反応と異なるか 
2)がん患者の免疫系に対するCOVID-19の長期的影響はどのようなものか
という2つの重要な問いに取り組みたいと考えていた。

この研究では76人のがん患者の血液を分析した:そのうち41人はCOVID-19にすでに罹患しており、35人はこれまでウイルスに曝露されたことがなかった。これらの血液サンプルは、すでに発表されているAdrian Hayday教授主導COVID-IP研究に参加したがんのない人の血液サンプルと比較された。がん患者41人のうち23人は固形がんであり、18人は血液腫瘍であった。

固形がん患者のウイルスに対する免疫反応はがんのない人のそれと変わらなかった。これは、がんの進行期にあり、積極的な抗がん治療を受けている患者においても同様であった。両グループとも最初のCOVID-19感染に対して強い免疫反応を引き起こすことができ、その後、ウイルスを排除できる高いレベルの抗体が産生された。

これは、固形がん患者において最初のウイルス曝露から最大78日後までの長期間にわたり高いレベルの抗COVID-19抗体が維持されることを示した初めての研究である。この研究では、患者がいったんCOVID-19から回復すると、免疫系はCOVID以前の「通常」機能に戻ることも見いだされた。

あるタイプの血液腫瘍患者のCOVID-19に対する免疫反応は類似していたが、活動期や初期の段階では「穏やか」であり、時間の経過とともに強くなり、慢性感染症でしばしば見られる免疫の変化に似ていた。免疫記憶に重要な免疫細胞であるB細胞を冒すがんにおいて特にそうであった。

B細胞関連血液腫瘍患者のウイルスに対する抗体反応は固形がん患者と比べて多様であり、はっきりと3つのグループに分かれた:1)固形がん患者やがんのない人のように抗体を産生しウイルスを排除した人:2)ウイルス暴露から75日以上がたっても抗体が産生されずウイルスを排除できていない人:3)ウイルスに対する抗体を持ったにもかかわらずウイルスを排除できなかった人。

SOAP研究の次の段階では、がん患者のCOVID-19ワクチンに対する免疫反応をモニターする予定である。

キャンサーリサーチUKの臨床研究医であるキングズカレッジ・ロンドンのSheeba Irshad博士は、「私たちは注意深くあり続けなければなりませんが、私たちの研究は、多くの固形がん患者がウイルスに対して良好な免疫反応を示し、抗体を産生し、うまくいけばがん治療をできる限り早く再開できることについて、がんケア提供者にいくらかの確信と安心を与えます」と述べた。

「これらの結論は、多くの患者では免疫抑制治療を受けているとしてもCOVID-19ワクチンに対して満足のいく反応を示すことを意味しています。血液腫瘍患者、とりわけB細胞腫瘍患者においては、COVID-19ワクチンが使われるようになってもこのことが当てはまらないかもしれません。私たちの研究からは、これらの患者は抗体を産生するにもかかわらず持続的な感染を起こしやすいことが示唆されるので、研究の次のステージではこれらの患者のワクチンに対する反応をモニターすることに焦点を当てることになるでしょう。彼らを守る現時点でのもっともよい方法は、クリニック内で集団免疫を獲得するために医療従事者全員にワクチン接種を行うことかもしれません」。

「ある種のがんやその治療は感染と闘う能力を低下させることがあるので、がん患者とその家族はウイルスのことが特に心配かもしれません。この研究は、固形がん患者には安心材料ですが、血液腫瘍患者はより脆弱であるかもしれないという証拠を裏付けています。がん治療を受けている人は誰でも、パンデミックの間は引き続き医師のアドバイスに従い、ウイルスに感染しないようにしなければなりません」と、キャンサーリサーチUKのMartin Ledwick主任情報看護師は述べた。

キャンサーリサーチUKの最高経営責任者であるMichelle Mitchell氏は、「COVID-19は今年、私たちの生活の中心でしたが、私たちはがんの影響を受けている人たちとパンデミックの間中その人たちを支援することに焦点を当て続けます。私たちの研究者がこのように早く研究を行い結論を得たことをたいへん誇りに思います」と述べた。

「がんは単一の疾患というわけではなく、ウイルスが異なるタイプのがんとどのように相互作用するかを理解することは、すべての患者が確実に最善のケアを受けられるようにするために決定的に重要です。この新しい研究のおかげで、私たちは血液腫瘍の治療には特別な注意が必要であることを知っており、医師は血液腫瘍患者が必要とするであろう特別な保護を与える方法を考えることができるようになりました」。

翻訳担当者 伊藤彰

監修 喜安純一(血液内科・血液病理/飯塚病院 血液内科)

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