NCIが支援するコロナウイルス臨床試験リスト2020年8月更新

臨床試験とは、ヒトを対象にする研究試験のことです(*日本では一部を「治験」と呼びます)。臨床試験を通じて、医師は治療法や患者の生活の質を向上させる新たな方法を見出します。

米国国立がん研究所(NCI)は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)患者に対する有望な治療法を調べ、疾患による身体への影響の詳細を知るための臨床試験を支援しています。臨床試験の中には、がん患者のみを対象としたものもあります。臨床試験が自分に適しているか判断するには、担当医が手を貸してくれます。

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臨床試験23件中の、1~23件目(以下、8月21日現在・最新は原文ページを参照ください)

【1】 進行・転移固形腫瘍、または再発・難治性血液悪性腫瘍を有する成人参加者と、そのうち新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を合併した患者を対象としたTAK-981の安全性、忍容性、および薬物動態(PharmacokineticsPK)を評価する試験

本臨床試験の主要目的は、進行または転移固形腫瘍・リンパ腫患者を対象にTAK-981の単剤投与の安全性と忍容性を、用量漸増とがん治療の拡大投与パートにおいて評価すること、ならびにCOVID拡大パートでは、重症急性呼吸器症候群(SARS)を起こすコロナウイルス2SARS-CoV-2)のウイルス量について、TAK-981投与から8日以内の変化を評価することです。施設: 7施設

【2】 COVID-19治療における、最善の支持療法と全肺低線量放射線照射併用の有無

本第3相試験では、COVID-19患者の治療において、最善の支持療法+全肺低線量放射線照射の併用療法と最善の支持療法単独を比較します。低線量放射線照射は放射線治療の一種で、放射線の総線量は標準的放射線治療のそれと比較して低くなっています。本第3相試験で使用する放射線量は、疲労と一時的な血球数減少以外の短期的な副作用を引き起こす可能性は低いものです。最善の支持療法+全肺低線量放射線照射の併用療法により、患者の臨床状態、肺のX線像、および臨床血液検査結果が改善される可能性があります。施設:3施設

【3】 がん患者を対象としたCOVID-19の治療におけるTL-895+標準治療対標準治療の比較試験

本臨床試験では、チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)であるTL-895を評価します。本臨床試験は、第1相安全性導入期試験(第1部)とTL-895の推奨用量を決定する第2相試験(第2部)から成る2部構成試験です。第1部では、TL-895を非盲検で指定用量を7日間単位で2サイクル、継続的に経口投与し、用量段階を最大3段階評価します。第2部では、適格患者をTL-895+標準治療群とプラセボ+標準治療群に11の割合でランダムに割り付けます。臨床試験担当医師と治験依頼者は臨床試験期間中、各群患者の割り付け試験を盲検化します。施設:3施設

【4】 重度COVID-19入院患者(がんの有無を問わず)を対象としたPRE-VENT試験

本臨床試験は、がんの有無を問わず、重度COVID-19入院患者を対象に、パクリチニブ[pacritinib]の有効性と安全性を評価する第 3 相ランダム化二重盲検プラセボ対照多施設共同試験です。施設:マウント・サイナイ・アイカーン医科大学、ニューヨーク州ニューヨーク市

【5】 COVID-19患者を対象とした治療薬としての、ヒドロキシクロロキンのプラセボとの比較試験

本第2相試験では、COVID-19患者における症状の重症度の軽減に、ヒドロキシクロロキンがどの程度の効果を示すのかが研究されています。ヒドロキシクロロキンは、自己免疫疾患の治療薬として承認されています。自己免疫疾患は、免疫系が誤って人体を攻撃する疾患です。ヒドロキシクロロキンは、免疫系がCOVID-19と闘う際に、その過剰反応を抑制できる可能性があると考えられます。本臨床試験結果から、医師はCOVID-19治療薬としてのヒドロキシクロロキンに関する詳細が明らかになるでしょう。施設:スローン・ケタリング記念がんセンター、ニューヨーク州ニューヨーク

【6】 重度COVID-19患者における呼吸不全・死亡の予防を目的とするトシリズマブの投与試験

本第2相試験では、重度COVID-19患者の呼吸不全や死亡の予防における、トシリズマブの効果が研究されています。COVID-19の合併症の一部SARS-CoV-2が肺を損傷することで生じます。また、こうした損傷の一部は、免疫系がこのウイルスを排除しようとする際に生じる過度の炎症反応によって引き起こされる可能性があります。インターロイキン6IL-6)と呼ばれるタンパク質は、この種の炎症に重要な役割を果たしており、トシリズマブはIL-6の細胞への接着を阻害します。したがって、トシリズマブはIL-6を阻害することにより肺の損傷を抑制し、人工呼吸器治療の必要性を減少させると考えられます。すでに人工呼吸器を装着している患者に対し、トシリズマブにより病状が改善され、人工呼吸治療から離脱できると期待されます。 施設:スローン・ケタリング記念がんセンター、ニューヨーク州ニューヨーク市

【7】 COVID-19患者におけるサイトカイン・ストームと未抑制浮腫に対する低線量放射線治療、RESCUE1-19試験

本第1/2相試験では、SARS患者やCOVID-19関連肺炎患者の治療における低線量放射線治療の効果が研究されています。本臨床試験の目的は、重度COVID-19患者におけるウイルス性肺炎浸潤物内の肺免疫毒性(肺損傷)の軽減を目的とする、選択的局所低線量放射線治療の使用の検証です。施設:2施設

【8】 重度COVID-19入院患者の治療薬であるBMS-986253

本第2相試験では、重度COVID-19入院患者の治療における、BMS-986253の効果が検証されます。BMS-986253は、COVID-19患者の健康状態の改善に有効な可能性があります。 施設:ニューヨーク長老派/コロンビア大学 医療センター ハーバート・アーヴィング総合がんセンター、ニューヨーク州ニューヨーク市

【9】 重度COVID-19患者を対象とした経口薬セリネクソールの有効性と安全性の評価

本臨床試験の主要目的は経口薬セリネクソール(KPT-330)低用量投与による有効性の評価、ならびに、重度COVID-19患者の臨床的回復、ウイルス量、入院期間、重症度、および死亡率をプラセボと比較して評価することです。 施設:ウェイン州立大学カルマノスがん研究所、ミシガン州デトロイト市

【10】 入院COVID-19患者を対象としたアカラブルチニブ+最善の支持療法と最善の支持療法の比較試験

CALAVI試験では、COVID-19の治療において、アカラブルチニブ+最善の支持療法の併用療法の安全性、有効性、および薬物動態が検証されます。 施設:オハイオ州立大学総合がんセンター、オハイオ州コロンバス市

【11】 過去1年以内に免疫抑制状態となったCOVID-19陽性のがん患者に対する治療薬ロピナビル・リトナビルの投与試験

本第2相試験では、COVID-19陽性のがん患者で、過去1年間に免疫系が弱まり(免疫抑制)、かつ、COVID-19が引き起こす軽度または中等度の症状を有する患者の治療において、ロピナビル・リトナビルがどの程度の効果を示すのかが研究されています。ロピナビル・リトナビルは、がん患者のCOVID-19の症状の軽減や、重症化の予防に有用な可能性があります。施設:オレゴン健康科学大学ナイトがん研究所、オレゴン州ポートランド市

【12】 入院を必要とする患者におけるCOVID-19治療薬としてのイブルチニブ

本第1b/2相試験では、入院を必要とするCOVID-19患者の治療において、イブルチニブの副作用と至適用量、ならびにその効果が研究されています。イブルチニブは全体的な免疫機能を維持しつつ、肺の炎症反応を抑制することでCOVID-19の症状を改善させる可能性があります。これにより、補助換気用人工呼吸器を使用する必要性が減少する可能性があります。施設:オハイオ州立大学総合がんセンター、オハイオ州コロンバス市

【13】 がん患者における軽度または中等度COVID-19の治療法としてのリンタトリモド+IFNα-2bの併用療法

本第1/2a相試験では、軽度または中等度のCOVID-19を有するがん患者の治療において、リンタトリモド+インターフェロン(IFN)α-2bの副作用を検証します。IFNαはウイルスに対する防御にとって重要なタンパク質で、ウイルス感染を排除できるよう免疫応答を活性化させます。リンタトリモドは、通常ウイルス感染時に活性化される免疫経路を活性化することで、ウイルス感染を再現するように設計された二本鎖リボ核酸(RNA)で、リンタトリモド+IFNα-2bの併用療法により、免疫系が活性化し、ウイルスの複製と放出を抑制する可能性があります。施設:ロズウェル・パークがん研究所、ニューヨーク州バッファロー市

【14】 SARS-CoV-2感染症患者におけるサイトカイン放出症候群の治療薬トシリズマブ

本第3相試験では、SARS-CoV-2感染症患者におけるサイトカイン放出症候群(cytokine release syndrome:CRS)の治療において、トシリズマブ+標準治療の併用療法と標準治療単独との効果を比較します。CRSは、SARS-CoV-2感染症に反応して免疫系の細胞が産生する物質(サイトカイン)が過剰に放出されることで生じる重篤になりうる疾患です。トシリズマブは人体の免疫反応を抑制し、炎症を抑える可能性があります。トシリズマブ+標準治療の併用療法は標準治療単独と比較して、SARS-CoV-2感染症の患者におけるCRS治療法として有効な可能性があります。施設:エモリー大学病院ウィンシップがん研究所、ジョージア州アトランタ市

【15】 COVID-19パンデミック時における医療従事者のための呼吸法と瞑想

本第1相試験では、COVID-19パンデミック時における医療従事者のための呼吸法と瞑想が検証されます。呼吸法と瞑想はストレスの管理と肺の健康の改善に役立つ可能性があります。本臨床試験の目的は、呼吸法と瞑想がCOVID-19パンデミック時における医療従事者のストレス軽減と肺の健康改善に有効かどうかを知ることです。施設:MD アンダーソンがんセンター、テキサス州ヒューストン市

【16】 放射線治療を受けている患者におけるCOVID-19予防を目的としたヒドロキシクロロキンとプラセボの比較試験

本2相試験では、放射線治療を受けている患者を対象に、SARS-CoV-2感染予防においてヒドロキシクロロキンがどの程度の効果を示すのかが研究されています。ヒドロキシクロロキンは、マラリアの予防・治療薬、ならびに、全身性エリテマトーデスと関節リウマチの治療薬として承認されています。放射線治療を受けている患者は医療従事者や感染している可能性がある他の患者と頻繁かつ密接に接触しているため、SARS-CoV-2に感染するリスクが高まります。また、がん治療を受けている患者は免疫系が弱っていることもあります。がんの放射線治療を受けている患者にヒドロキシクロロキンを投与することで、SARS-CoV-2感染を予防できる可能性を検証します。施設:7施設

【17】 COVID-19に対する防御としての医療従事者用BCGワクチン

SARS-CoV-2は世界中で急速に蔓延しています。大規模流行は利用可能な病院の収容力に深刻な影響を与え、また、医療従事者への感染がこうした影響を増大させるおそれがあります。従って、継続的な患者ケアの確保には、医療従事者の感染と重症化の予防を目的とする方策が切実に必要とされています。カルメット・ゲラン桿菌(Bacille Calmette-Guérin:BCG)は抗結核ワクチンで、in vitro試験とin vivo試験において他の気道感染症に対する非特異的防御効果があり、罹患率と死亡率が70%も低下したことが報告されました。さらに予備解析では、既存のBCGワクチン接種プログラムがある地域では、COVID-19による発生率と死亡率が低く抑えられているとみられます。BCGワクチン接種により、SARS-CoV-2の流行期における医療従事者の感染と重症化が抑制される可能性があると仮定されています。施設:MDアンダーソンがんセンター、テキサス州ヒューストン市

【18】 パンデミック時における在宅がん患者のためのCOVID-19症状の遠隔追跡とがん症状管理の改善

本臨床試験では、がん患者におけるがんの症状とCOVID-19関連症状のケアと監視の支援を目的とする、全自動遠隔医療システムである在宅症状ケア(Symptom Care at Home:SCH)の使用が研究されています。地域社会で伝染性が非常に高いウイルスにより対面接触が推奨されない時でも、がん患者の継続的な監視とケアは重要です。SCHは、患者が在宅時に自分の症状に関する心配事をがん医療提供者に知らせることで、コミュニケーションの改善に役立つ可能性があります。こうすることで、医療従事者は患者を遠隔でケアできるようになり、助言がない限り診療所に出向く必要がなくなります。施設:ユタ大学ハンツマンがん研究所、ユタ州ソルト・レイク・シティ市

【19】 NCIによるがん患者におけるCOVID-19、NCCAPS研究

本研究では、がんの治療を受け、かつ、SARS-CoV-2(COVID-19という疾患を引き起こす新型コロナウイルス)の検査結果が陽性の患者から、血液検体、診療情報、および医用画像を収集します。血液検体、診療情報、および医用画像の収集により、研究者らは、COVID-19ががん治療を受けている患者の転帰にどのような影響を及ぼすか、また、がんの存在がCOVID-19にどのような影響を及ぼすかを明らかにできるかもしれません。施設:725施設

【20】 乳房切除術を受けた乳がん患者における自己負担額、逸失賃金、および失業に関するCOVID-19パンデミックの影響

本研究では、乳房切除術を受けた乳がん患者における、自己負担額、逸失賃金、および失業に関するCOVID-19パンデミックの影響が検証されています。乳房切除術後の乳房再建術を受けた患者は、経済毒性(福利厚生に関する医療費の高騰の悪影響)リスクが高くなります。本研究の目的は、乳房再建術の有無に関わらず、がんに対する外科的治療の結果として、患者が負担する費用に関する情報を収集すること、およびCOVID-19が患者の乳房再建費に影響を与える可能性を知ることです。このことから、乳房切除術を受けることによる経済的影響が明らかになる可能性があります。施設:4施設

【21】 急性かつ消散したCOVID-19患者におけるB細胞とT細胞のレパートリーと免疫応答の研究

背景:SARS-CoV-2感染者には、増悪して死亡するという予測不能のリスクが存在する。その結果、自宅隔離可能な患者と病院で治療すべき患者の決定は困難である。こうしたリスクは人体のB細胞とT細胞がウイルスに応答する機序と関連する可能性があると考えられている。B細胞とT細胞は、人体の免疫応答の主要な構成要素である。B細胞とT細胞が人体に有益なパターンでSARS-CoV-2に応答することで回復に至る可能性があり、この有益なパターンの定着が有用な可能性がある。COVID-19ワクチンの臨床試験参加者がワクチンに応答するときに、このような有益なパターンが得られる場合、これは、ワクチンが奏効するという有用な早期の前兆になる可能性がある。目的:免疫細胞がSARS-CoV-2に対して応答する機序を調査する。適格条件:18歳以上の成人で、SARS-CoV-2感染が確認もしくは疑われている、または、SARS-CoV-2感染歴がある人。また、SARS-CoV-2感染が疑われない健常人。試験デザイン:参加者を診療記録の再調査で選別する。参加者を研究用検査法で検査し、SARS-CoV-2感染者と非感染者を判定する。この検査法は研究結果の理解用で、参加者への助言用ではない。顕性感染の参加者を通常、病院に隔離する必要がある。それ以外の参加者は、NIHまたは地元の医院や検査施設で採血が受けられる。参加者は採血が週3回まで合計10回受けられ、COVID-19ワクチンの臨床試験開始後にも採血が受けられる。参加者は2カ月毎に最大2年間、電話または電子メールで連絡を受ける。施設:米国国立衛生研究所臨床センター、メリーランド州ベセスダ市

翻訳担当者 渡辺岳

監修 花岡秀樹(遺伝子解析/イルミナ株式会社)、野長瀬祥兼(腫瘍内科/市立岸和田市民病院)

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