ソーシャルディスタンスで新型コロナウイルス感染が大幅に減少
米国50州と134カ国を対象とした研究で、ソーシャルディスタンスが効果的な公衆衛生政策であることがより明確に
テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らによると、米国内外を問わずソーシャルディスタンス政策の実施と一致して、新型コロナウイルス感染の大幅な減少および地域別の人の移動の減少がみられ、ソーシャルディスタンスが新型コロナウイルスのさらなる拡大を防ぐための有用な手段であるとの証拠を提供しているという。
この研究はPLOS ONE誌に本日発表されたもので、46カ国で全国的に実施されたソーシャルディスタンス政策により、2週間で推定157万人の新型コロナウイルス感染を防止し、新たな感染が65%減少したと推定している。これらのデータは、個人レベルでのソーシャルディスタンスの実践により大きな利益が得られることを明確に示すものであると研究者らは考える。
「MDアンダーソンでは、がん患者のケアに重点を置いていますが、がん患者は新型コロナウイルスによる重症化の危険があることがわかっています」と、統括著者のRaghu Kalluri医師(がん生物学教授、学部長)は述べている。
「そのため、私たちは患者さんだけでなく社会全体に利益をもたらす可能性のある安全対策について偏りのない分析が重要だと感じました。私たちのデータに基づく分析から、ソーシャルディスタンスの実践が感染率に非常に大きな影響を与える可能性があることが明らかになりました」。
米国におけるソーシャルディスタンス政策の影響
米国におけるソーシャルディスタンス政策の有効性を判断するために、研究者らは50州それぞれの新型コロナウイルス感染状況を分析した。彼らは、多数の要因が感染拡大に関与していることを踏まえ、各州がソーシャルディスタンス政策を実施する前後の新規症例を分析した。
3つの州では、同政策を実施しなかったため、比較の対象とされた。これらの州は、比較する他の州と同一期間について分析された。
「ソーシャルディスタンス政策を導入した州では、導入していない州と比較して導入後に感染率が大幅に低下したことがわかりました」と、筆頭著者のDaniel McGrail博士(システム生物学博士研究員)は述べている。「実際に、感染拡大の減少が最も小さかった2地点は、ソーシャルディスタンス政策を実施していなかった州でした」。
ソーシャルディスタンス政策を実施している47の州では、政策を実施していない州と比較して、域内のコミュニティ・モビリティの平均値も大幅に低下した。コミュニティ・モビリティとは、地域住民が家、職場、小売店などの場所から場所へ移動する傾向を数値化したものである。ソーシャルディスタンス政策を実施していない州でも、人の移動は減少したが、その減少幅はソーシャルディスタンス政策を実施している州と比較して著しく小さかった。
世界全体でみるソーシャルディスタンス政策の影響
米国ではソーシャルディスタンス政策を実施していない州が少数であり、分析に限界があることから、研究者らはソーシャルディスタンス政策の影響を世界全体で分析した。彼らは、ソーシャルディスタンス政策を全国的に実施している46カ国、同政策を実施していない74カ国、および地域限定で同政策を実施している14カ国から十分なデータを取得することができた。
同様の分析を行った結果、ソーシャルディスタンス政策を全国的に導入した国では、地域限定で導入した国あるいは導入していない国の同一時期と比較して、政策導入後の感染減少幅が有意に大きいことがデータからわかった。地域限定で同政策を導入している国と同政策を一切実施していない国との間に、有意差はみられなかった。
何らかのソーシャルディスタンス政策を実施している国では、政策をまったく実施していない国と比較して、地域別の人の移動が有意に減少した。また、同政策を全国的に実施している国では、地域限定で同政策を実施している国と比較して、地域別の人の移動がより大幅に減少した。人の移動の減少とウイルス感染の減少との間には強い相関関係があり、ウイルス感染を効果的に防止するために、ソーシャルディスタンスを個人レベルで実践することの重要性が強調された。
「これは、ソーシャルディスタンス対策を集団で実践すれば新型コロナウイルスの感染抑止効果は計り知れないことを示す明確な証拠であり、私たちは個人に対し、感染拡大をできるだけ抑止するためにソーシャルディスタンスを実践するよう奨励しています」と Kalluri氏は述べた。「公衆衛生当局者や政治家が地域における新型コロナウイルス感染拡大防止策を検討する際に、今回のデータが大きなエビデンスとなるものと思います」。
著者らは、この研究が新型コロナウイルスを直接検出する検査に依存しており、罹患率が過小評価されている可能性があることを認識している。また、研究者らは、感染拡大に寄与する可能性が高い多数の要因に対する内部管理策としてソーシャルディスタンス政策を導入した後の感染拡大率に着目している。
今回の分析に際して、日々の症例数と人口データは、ジョンズホプキンス大学のシステム科学工学センターによるCOVID-19 Data Repositoryから収集した。新型コロナウイルス政策に関する情報は、Aura Vision Global COVID-19 Lockdown Trackerから、人の移動に関するデータは、Googleモビリティレポートから取得した。本研究のためのすべてのデータは2020年6月5日に収集したものである。
Kalluri氏とMcGrail氏のほか、MDアンダーソンの共著者として、Janli Dai医師とKathleen McAndrews医師も参加しており、両者ともがん生物学が専門である。Kalluri氏はさらに、ライス大学生物工学部およびベイラー医科大学分子細胞生物学部の職も兼務している。
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