【英国NICE】COVID-19迅速ガイドライン: がん化学療法の実施 1~7

英国国立医療技術評価機構(NICE)ガイドライン[NG161]
 COVID-19迅速ガイドライン:がん化学療法の実施 1~7
公開日: 2020年3月20日 最終更新: 2020年4月9日、27日更新

1. 患者とのコミュニケーション

1.1患者と連絡を取り、精神的な健康をサポートや、利用可能な場合はボランティア団体、患者会などへ案内することにより、COVID‑19に関する不安や恐れを和らげるサポートをする。
1.2 次の方法で、対面の接触を最小限に抑える
・電話またはビデオによる相談の提供(特にフォローアップの予約と治療前の相談のため)
・重要でない対面フォローアップの削減
・容量が許す場合、医薬品の宅配サービスを利用する
・医薬品のドライブスルーピックアップポイントの導入
・可能であれば、地元のサービスを利用して血液検査を行う
1.3 どうしても外出する必要がある患者には、「英国のすべての人のための社会的距離と高齢者や脆弱な成人の保護に関する英国政府のガイダンス(英語)」の関連項目を参考にするように伝える。

2. COVID‑19と確認されていない患者

2.1 予定がある場合、可能であれば、家族や介護者を伴わずに一人で外出し、感染や拡大のリスクを減らすよう患者に指示する。
2.2 待合室での時間を最小限にする:
・慎重に予約時間を決める
・早く到着しないように患者にいう
・たとえば患者が車で待つことができるように、患者に会う準備ができたら患者にメールで知らせる

3. COVID‑19と診断された、または疑われる患者

3.1 既知または疑わしいCOVID‑19の患者が特定されたら 、「感染の予防と管理に関する英国政府のガイダンス(英語)」に従うこと。これには、患者の通院、搬送、外来のオプションに関する推奨事項が含まれる。
3.2  COVID‑19が判明した、または疑わしい患者の受け入れ、ならびに診察やケアに関与するすべての医療従事者は、「感染の予防と管理に関する英国政府のガイダンス(英語)」に従う必要がある。これには、個人用保護具(PPE)の着脱のビジュアル教材やクイックガイドなど、PPEの使用に関する情報が含まれる。
3.3  COVID-19患者は、がん全身療法(化学療法)後に重症疾患のリスクがあることに注意すること。[2020年4月3日]
3.4  COVID-19患者の場合:
・化学療法は、緊急にがん治療が必要な場合のみ継続すること。
・可能であれば、患者がCOVID-19の検査で1回以上陰性が判明するまで、抗がん剤治療を延期する。[2020年4月3日]

4. 来院時にCOVID‑19の症状がある患者

4.1 以前にCOVID have19診断を受けていない、または疑いのない患者が、診察時に症状を呈している場合の一般的なアドバイスは、「可能性のある症例の調査および初期臨床管理に関する英国政府のガイダンス(英語)」に従うことである。これには、患者の検査と隔離に関する情報が含まれている。
4.2 抗がん剤治療を受けている患者は免疫において無防備状態であり、COVID19の非定型症状を示す可能性があることに注意する。また、COVID19、好中球減少時の敗血症および肺炎の症状は、最初の症状では区別が難しい場合がある。
4.3 すべての患者に症状が適切に評価されていることを確認するために気分が悪い場合は、(NHS 111ではなく)地域のがん化学療法ヘルプラインに連絡するよう助言する。
4.4すべての患者を選別し、トリアージして、COVID‑19であることがわかっているか疑われるか、感染が確認された人と接触しているかどうかを評価する。
4.5 患者が発熱している場合(呼吸器症状の有無にかかわらず)、好中球減少時の敗血症を疑います。これは急速で生命を脅かす可能性があるため、「好中球減少症NICEガイドライン(英語)」に従う。
・好中球減少性敗血症の疑いがある患者は、二次または三次医療の評価のために直ちに紹介する
・好中球減少症の疑いがある敗血症を緊急の緊急医療として治療し、経験的な抗生物質療法を直ちに提供する
4.6 入院または診察時に分離されていない人にCOVID19が診断された場合、「医療専門家向け英国政府によるガイダンス(英語)」に従ってください。

5. 自己隔離しているスタッフ

5.1 医療専門家が自己隔離する必要がある場合は、次の方法で引き続きサポート可能であることを確認する。 
・電話またはビデオによる多職種チーム会議への出席や相談を可能にする
・遠隔(オンライン)でのモニタリングとフォローアップに適した患者、および脆弱でサポートが必要な患者の特定
・データ入力など、遠隔で実行可能なタスクを実行する。
5.2 精神的健康を支えるため、可能な限り連絡を取り合ってスタッフをサポートする。

6. 化学療法の優先順位付け

6.1 全身化学療法を優先する必要がある場合は、表1を使用してこれらの決定を下す。以下を考慮すること:
・個々の治療やがんの種類に関連する免疫抑制のレベル、およびその他の患者固有の危険因子
・限られたリソース(労働力、施設、集中治療、設備)など能力の問題
・がんが最適に治療されないリスクと、患者が免疫抑制されてCOVID19で重症になるリスクのバランスをとること。

表1 がん化学療法の優先順位付け[2020年4月3日修正]

優先度

治療

成功の可能性が高い(50%以上)根治的治療
手術または放射線療法単独に併用して、または再発時に行われる治療に
50%の以上の治癒の可能性をもたらす術後または術前化学療法
成功の可能性が中程度(20%〜50%)の根治的治療
手術または放射線療法単独に併用して、または再発時に行われる治療に
治癒の可能性が20%から50%増加する術後または術前化学療法
成功の可能性が低い(10%〜20%)根治的治療
外科手術または放射線療法単独に併用して、または再発時に行われる治療に
治癒の可能性を10%〜20%追加する術後/術前化学療法
1年以上の延命の可能性が高い(50%を超える)非根治的治療
成功の可能性が非常に低い(0%〜10%)根治的治療
手術または放射線療法単独に併用して、または再発時に行われる治療の
治癒の可能性が10%未満になる術後/術前化学療法
中間(15%〜50%)の確率で1年以上延命する非治癒的治療
緩和または一時的な腫瘍制御の可能性が高く(50%を超える)、
1年未満の延命が期待される非根治的治療
緩和または一時的な腫瘍制御の可能性が中程度(15%〜50%)で、
1年未満の延命が期待される非根治的治療

表:https://www.england.nhs.uk/coronavirus/wp-content/uploads/sites/52/2020/03/specialty-guide-acute-treatment-cancer-23-march-2020.pdf

6.2多職種チームの一部として優先順位付けの決定を行い、各患者に対して個別の配慮がなされるようにする。各決定の背後にある理由が記録されていることを確認する。
6.3可能であれば書面で文書化して、患者およびその家族や介護者に、優先順位付けとは何か、また決定の理由を明確に伝える。

7. 通常診療の変更

  • 暫定NHSイングランド治療レジメン
  • 治療休止
7.1 COVID-19への患者の曝露を減らすために通常のケアを変更し、リソース(労働力、施設、集中治療、設備)を最大限に活用する方法を考える。
7.2 免疫抑制の治療であれば異なるレジメン、異なる部位、または可能な場合は別の投与経路を介して、抗がん剤投与を実施する。オプションは次のとおり。
  • 静脈内投与から、より有益と思われる場合は皮下投与または経口投与に切り替える(委員との合意が必要)
  • より短時間(期間)の治療計画を用いる
  • 免疫療法レジメンの頻度を減らす、たとえば4週毎または6週毎に移行する
  • 患者が病院に通う必要なく、経口薬または他の在宅治療の繰り返し処方を提供する
  • 骨疾患などの長期的な合併症を防ぐ治療の延期
  • 可能な場合は経口薬の在宅配送を使用する(ただし、在宅医療提供者の回復力を確認する)
  • 長期治療(おそらく6週間以上)には治療休止(英語)を取り入れる。
  • 暫定的な治療計画(英語)の提供。[2020年4月9日修正]
7.3 組織レベルで通常ケアの変更に関するポリシー決定を行うこと。
7.4 各患者が多職種チームによって個別に考慮されることを確認する。各決定の背後にある理由を記録する。
7.5 治療計画を変更したり、治療を中断したりすることのリスクとメリットについて、患者とその家族や介護者と話し合うこと。
7.6 他のがん看護スペシャリストの役割に異動した看護師を、化学療法(systemic anticancer therapy (SACT))看護師(英国腫瘍看護学会(英語) SACTコンピテンシーパスポートを使用)に再教育し、監督を担わせることを検討する。
7.7   次のような看護師を再訓練する:
  • 過去2年以内にSACTを実施した
  • 理論トレーニング(資格や認定コースなど)を完了している
  • 実践評価者と一緒に関連する資格の臨床能力を完成させる

暫定NHSイングランド治療レジメン

7.8
COVID-19パンデミック時のがん患者の管理に柔軟性を持たせるために、NHSイングランドは一部のがん治療薬について暫定的な治療計画を承認していることに注意する。これは、薬剤投与のための患者との直接接触の必要性を減らし、ウィルスに感染しやすくなったり、医療システムを圧迫する可能性のあるその他の体調不良を生じさせるような、潜在的な副作用を最小限にするためである。

これらの暫定治療計画は、NHS England Chemotherapy Clinical Reference Groupのメンバーおよびがん薬剤師からの臨床的意見に基づく(詳細については、「暫定治療計画(英語)」を参照)。[2020年4月9日]
7.9 COVID-19パンデミックに対処するために実施された緊急措置が不要になると、治療計画は標準の委託された状態に戻ることに留意すること。[2020年4月9日]
7.10 暫定治療計画のリスクと利点について、患者、その家族や介護者と話し合う。[2020年4月9日]
7.11 COVID 19のパンデミック中に暫定的な治療計画を開始したすべての患者は、彼らと彼らの臨床医がともに、治療を中止するか、または別の治療に切り替えることが適切であると判断するまで、治療を継続することが許されるべきである。[2020年4月9日]

治療休止

7.12 現在の治療中断ポリシーは、Cancer Drugs Fund(CDF)とCDF以外の治療の両方に適用され、COVID‑19の発生時には適用されないことが提案される。
7.13 治療の中断が必要な場合、臨床医は承認フォームに記入して治療を再開する必要がある。これは、COVID‑19のために患者が中断したことを示す。たとえ疾患が進行していても、治療を再開することで疾患の制御を取り戻すことができる合理的な可能性があることを臨床医が示す場合、申請は承認される。治療に対する反応は、再開後2または3サイクルで見直されることが期待されており、疾病制御が回復しない場合、治療を中止する必要がある。

翻訳担当者 野中 希

監修 小坂泰二郎(乳腺外科/社会医療法人石川記念会 HITO病院)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

がん医療に関連する記事

先住民地域のラドン曝露による肺がんリスクの低減を、地域と学術連携により成功させるの画像

先住民地域のラドン曝露による肺がんリスクの低減を、地域と学術連携により成功させる

2024年ASCOクオリティ・ケア・シンポジウム発表の新研究ASCOの見解(引用)
「ラドンへの曝露は肺がんのリスクを高めますが、いまだに検査が行われていない住宅が多くあります。...
早期承認薬、5年後の確認試験で臨床効果を示したのは半数未満の画像

早期承認薬、5年後の確認試験で臨床効果を示したのは半数未満

AACR2024AACR2024米国食品医薬品局(FDA)が2013年から2017年の間に迅速承認を与えた46種類の抗がん剤のうち、5年以上経って確認試験で臨床効果が実証された...
抗がん剤不足の危機的状況をASCO副会長が議会で証言の画像

抗がん剤不足の危機的状況をASCO副会長が議会で証言

米国臨床腫瘍学会(ASCO)米国臨床腫瘍学会(ASCO)副会長および最高医学責任者Julie R. Gralow医師(FACP:米国内科学会フェロー、FASCO:ASCOフェロー)は、...
米国がん免疫療法学会 2023(皮膚、大腸、肺がん他):MDA研究ハイライトの画像

米国がん免疫療法学会 2023(皮膚、大腸、肺がん他):MDA研究ハイライト

MDアンダーソンがんセンター特集:微生物叢への介入、皮膚がんや転移性メラノーマ(悪性黒色腫)に対する新しいドラッグデリバリー法、肺がんやリンチ症候群の治療戦略など

アブストラクト:153...