急性期治療を必要とする非コロナウイルス患者の管理のための臨床ガイド: がん
―コロナウイルスパンデミック時の患者管理のための専門ガイド―
『急性期治療を必要とする
非コロナウイルス患者の管理のための臨床ガイド: がん』
2020年3月23日 バージョン2
Publications approval reference: 001559 英国国民保健サービス(NHS)
(大須賀 覚(アラバマ大学バーミンガム校 脳神経外科)翻訳提供/勝俣 範之(腫瘍内科・婦人科/日本医科大学武蔵小杉病院)監修 )
“外科医も泌尿器科医も整形外科医もない。我々は単に医師だ。我々を圧倒したこの津波に立ち向かうために、突然一つのチームの一員となった” イタリア ベルガモ、ダニエーレ・マッキネ博士 2020年3月9日
医師として、私たちは皆、コロナウイルスに関する一般的な責任を負っており、そのために国や地域のガイドラインを求め、行動しなければなりません。また、私たちには、NHSへの負担を最小限に抑えながら、必要不可欠ながんサービスのケアを継続できるようにする特別な責任があります。私たちは、地域で対応を計画している人たちと協力しなければなりません。また、私たちが直面する可能性のある例外的な状況下では、私たちが訓練してきた専門知識の領域外でも活動する必要があるかもしれません。 www.gmc-uk.org/news/news-archive/how-we-will-continue-to-regulate-in-light-of-novel-coronavirus
がん診療はコロナウイルスの最前線ではないように見えるかもしれませんが、私たちには果たすべき重要な役割があり、これは計画的に行われなければなりません。NHSへの圧力に対応するために、私たちの仕事のうち選択的な部分は縮小されるかもしれません。しかし、がんサービスはケアを提供し続ける必要があります。私たちは、コロナウイルスへの対応のためのリソースを保護しながら、これらのがんサービスの適切な管理を継続するために、地域における最善の解決策を模索すべきです。
また、スタッフの病気による欠勤や、サプライチェーンの不足などの要因が重なって、がん診療のための施設が厳しい状況に置かれる可能性があることも考慮する必要があります。これは可能性の低いシナリオですが、計画が必要です。
最も被害を受けやすいがん患者
がんを患う人の中には、コロナウイルス感染症に感染すると重症化するリスクが高くなる人もいます。
●がんに対する化学療法を現在受けている方
●肺がんに対する強力な放射線治療を受けている方
●白血病、リンパ腫、骨髄腫などの血液や骨髄のがんで、治療の各段階にある方
●がんに対する免疫療法やその他の継続的な抗体薬治療を受けている方
●免疫系に影響を及ぼす可能性のある他の標的がん治療を受けている方。プロテインキナーゼ阻害薬やPARP阻害薬など。
●過去6ヵ月以内に骨髄移植や幹細胞移植を受けたことがある方、または免疫抑制剤をまだ服用している方。
免疫抑制に加えて、いくつかの因子/合併症がコロナウイルスの予後不良と関連している可能性が高いです。
●60歳以上
●心血管疾患の既往
●呼吸器疾患の既往があること。
これらの個々の要因ががん患者に多ければ多いほど、特に全身性の抗がん剤治療を受けた場合に、コロナウイルスで重篤な病気を発症する可能性が高くなります。
がん治療の意思決定をする際の患者さんと臨床医へのサポート
2020年3月3日に発表されたNHSの行動計画(1)では、「将来のパンデミックのすべての段階において、NHS/HSCNIと地方自治体は、人々が必要とする本質的なケアと支援サービスを確実に受けられるようにするための計画を立てており、時には他のサービスが一時的に縮小されることもある」と明確にしています。また、パンデミックがさまざまな段階に進むにつれて、「最もリスクの高い人々が適切な治療を受けられるように、必要不可欠なサービスを提供することが主眼となるだろう」とも述べています。
がん患者は、特に全身療法を受けている患者の多くがコロナウイルス感染症に感染すると重症化するリスクが高くなることを考えると、がん治療を開始または継続することのリスクがメリットを上回るかどうかを臨床医と話し合うことを望むでしょう。がん治療が中断された場合、臨床医は最も必要としている患者さんの治療を優先的に行う必要があるかもしれません。すべての決定は、MDT:マルチディシプリナリー(多職種)・チーム(Multidisciplinary Team) の意見を取り入れて行われ、患者と明確にコミュニケーションをとることが重要です。
検討すべきがんサービスのカテゴリー
●リーダーシップ
●手術を要する患者さん。入院と手術管理が必要な状態が続く
●全身の抗がん剤治療。集学的チーム(MDT)の意思決定は継続すべき。
●放射線治療
●陽子線治療
現地での対応を計画する際には、以下のように検討してみてください。
リーダーシップ
●「指導医」を選定しないといけません。この任務は、小さな単位で1 日、数日、あるいは 5 日間の場合もあります。これは危機管理に必要不可欠な役割である。これは「オンコール」のコンサルタントが行うことはできません。彼らは臨床業務の義務から解放されていなければならず、救急部(ED)から他の専門医や管理者との連 絡に至るまで、サービス全体の調整を行う役割を担っています。
●危機的な状況下では非常にストレスを感じることもあります。互いにサポートし合い、仕事量を分担しましょう。臨床部長がすべての調整を行うことを期待してはいけません。
●サプライチェーンの問題に備えて、不測の事態に備えた計画を立ててください。
手術を要する患者さん
患者さんの分類
優先度レベル1a
Emergency – 24時間以内に救命のための手術を要する
優先度レベル1b
Urgent – 72時間以内に手術を要する
これらは以下に基づく。
生命を脅かす病態のためのEmergency / Urgent 手術。閉塞、出血、局所的な出血および/または局所的な感染症、恒久的な損傷/ 脊髄圧迫のような進行する臨床上の危害
優先度レベル2
治癒を期待しての選択的手術で、優先順位をつけて行います。
●4週間以内に命を救う/病気の進行を防ぐ
●切迫した症状
●合併症状、局所的な圧迫による症状
●がんの生物学的優先度(増殖率から予想された)
局所的な合併症は一時的にコントロールすることができるかもしれない、手術を後回しにして/ステントまたはインターベンショナルラジオロジーで
優先度レベル3
10〜12週間は遅らせられる待機的手術、ひどい結果が予想されないもの
考慮すべき一般的な対策
すべての複雑ながんの手術では、日常的にレベル1のサポートが必要です。術後合併症のリスクはわずかで、術後1週間以内にITUへの再入院が必要となります。
同一の病院内で緊急の場所を待機的手術から分離することで、選択的手術を1つの場所で継続できるようになるかもしれません。
もし適切であれば、MDT(マルチディシプリナリー(多職種)・チーム)は転帰が変わらない場合において、非外科的な選択肢を検討してもよいでしょう。ネオアジュバント治療の延長や、非外科的治療が含まれます。
全身の抗がん剤治療
治療決定は、患者とMDTの両方からの意見を取り入れながら、各症例ごとで行われる必要があります。優先順位付けの詳細は、信頼できるオンコロジーのリーダーが監督すべきです。
全身性抗がん剤治療を受けている患者の優先順位付けの一般的なアプローチ
●治療意志と治療に伴うリスク・ベネフィット比によって患者を分類する
●代替的で医療資源をあまり消費しない治療レジメンを考慮する
●全身療法を受けている患者をモニターし、レビューするための別の方法を模索する
臨床医は個々の治療に関連した免疫抑制のレベルや、体調、患者の他のリスク因子も考慮する必要があります。
患者さんの分類
これは腫瘍の種類によって異なるが、臨床医は患者を優先順位の高いグループ1~6に分類することから開始するのを推奨する。もし、医療サービスが破綻した場合には、それに応じて患者さんに優先順位をつけて治療を行うことができます。
優先度レベル1
●根治的治療。成功の可能性が高い(50%以上)。
●補助療法(または術前)。手術や放射線療法、または再発時に治療に、少なくとも50%の治癒の可能性を追加する。
優先度レベル2
●根治的治療。中程度(20~50%)の成功確率。
●補助療法(または術前)。手術や放射線療法、または再発時に治療に、少なくとも20~50%の治癒の可能性を追加する。
優先度レベル3
●根治的治療。成功確率の低い(10~20%)。
●補助療法(または術前)。手術や放射線療法、または再発時に治療に、少なくとも10~20%の治癒の可能性を追加する。
●非治癒的治療。1年以上の延命の可能性が高い(50%以上)。
優先度レベル4
●根治的治療。成功する確率が非常に低い(0~10%)。
●補助療法(または術前)。手術や放射線療法、または再発時に治療に、少なくとも10%未満の治癒の可能性を追加する。
●非治癒的治療。中程度(15~50%)の確率で1年以上の延命が可能。
優先度レベル5
●非根治的治療。高確率(50%以上)で緩和/一時的な腫瘍のコントロールが可能、1年未満の延命が可能。
優先度レベル6
●非根治的治療。中程度(15~50%)の確率で緩和または一時的な腫瘍のコントロールが可能、1年未満の延命が可能。
考慮すべき一般的な対策
患者の暴露を最小限に抑え、資源を最大限に活用するために、全身療法を別のレジメン、別の場所、または他の投与方法で行うことができるかどうかを検討します。
1.コミッショナーとの合意を条件に、静脈内治療を皮下または経口に変更する。
2.持続時間の短いレジメンを選択する。
3.2週間、3週間ではなく、4週間または6週間の免疫療法レジメンの使用を検討する。
4.可能であれば、経口薬やその他の在宅治療を繰り返し処方し、患者が直接診療所に出向く必要がないようにすべきである。
5.デノスマブやゾレドロン酸などの支持療法を延期することを検討する(高カルシウム血症を除く)。
6.可能であれば、経口薬の在宅投与を検討する(ただし、在宅医療提供者の対応力を確認する必要がある)。
7.患者を保護し、入院率を低下させるための一次予防としてGCSFを使用する。
8.コロナウイルスのリスクが高い時には、長期治療中の一時治療休止を検討する。
9.レジメンを安全に提供するために必要な支援サービスを検討する。
全身療法に関する患者の教育、モニタリング、レビューを行うための代替方法を模索し、患者の曝露を最小限に抑えるための代替手段を見つけてください。これには、患者が近くで血液検査を受けることや、電話/オンラインアポイントメントを受けることが含まれるかもしれません。
放射線治療
患者さんの分類
優先度レベル1
●カテゴリー1(急速に増殖する)腫瘍の患者で、現在根治を目的とした根治的(化学療法)放射線療法を受けており、休止する補償の幅がほとんどないか、または全くないもの。
●カテゴリー1腫瘍の患者で、外部照射放射線療法(EBRT)とその後の小線源療法の併用が管理計画であり、EBRTがすでに実施されている患者。
●カテゴリー1腫瘍の患者で、まだ治療を開始していない、現在のがんの待ち時間に合わせて治療を開始すべきと臨床上の必要性が判断された患者。
優先度レベル2
●救済可能な神経機能を有する悪性脊髄圧迫患者に対する緊急の緩和的放射線治療。
優先度レベル3
●カテゴリー2(侵攻性が低い)腫瘍に対しての強力な放射線療法で、放射線療法が最初の確定的治療である。
●術後放射線療法。手術後の残存病変が確認されていて、生物学的に侵攻性の腫瘍。
優先度レベル4
●緩和的放射線治療。症状が緩和されれば他の医療サービスの負担が軽減される。喀血など。
優先度レベル5
●補助放射線療法。病変の完全切除が行われていて、10年の再発リスクが20%未満である場合。例えば、内分泌療法を受けているほとんどがER陽性乳がんの患者。
●根治的放射線治療。ネオアジュバントホルモン療法を受けている前立腺がん患者に対する。
考慮すべき一般的な対策
すべての症例において、最も臨床的に適切な低頻度のスケジュールを使用すべきです。例えば、転移性脊髄圧迫(MSCC)に対しては一回8Gyの分割。
補助乳房放射線治療については、5分割の26Gy照射は15分割の40.05Gyと比較して同じ毒性であり、リンパ節陰性乳がん患者の開始時期の延期を緩和する可能性があります。
NICE早期乳癌ガイドライン(2018年)の基準を満たす低リスク乳癌患者には、補助乳房放射線治療の省略を提示します。
麻酔の利用可能性は、いくつかの放射線治療のキャパシティを決定する要因となる可能性があります。婦人科の小線源治療、TBI、小児などを含む。
陽子線治療
陽子線治療(PBT)を受けている患者には特に配慮が必要であり、PBT委託ルートとクリスティ病院の臨床医が管理します。患者は、治療として陽子線を利用する優先順位と、陽子線での治療ができない場合は、通常の放射線治療を受ける優先順位(Royal College of Radioloigistsの分類と治療中の場所を用いて)の両方を考慮して優先順位を付けられます。
患者によっては、治療のための短い遅延が治療成績を低下させることなく可能な場合もあるので、即時の代替手段として通常の放射線治療を選択することが最善の選択ではないかもしれません。
PBTのキャパシティに大きな問題がある場合は、PBTのために移動するのではなく、局所的に通常の放射線治療をすることを勧めることを検討する必要があるかもしれません。放射線治療についての上記の考慮事項は、治療センターを通じて適用されます。
患者との接触を減らし、作業能力を最大化するための全サービスにわたる一般的な対策
●対面でのアポイントメントを最小限にする。
●可能な限り電話またはビデオ相談での相談を提供する。
●不必要なフォローアップ訪問を削減する。
●層別フォローアップモデルの採用を加速する。
●適切/利用可能な場合には、経口の全身投与薬を在宅に郵送する。
サービスの滞留時間を短縮する。
●特に治療のために通院が必要な患者さんには、待ち時間を短縮するために予約を取る。
●早めに到着しないように患者に勧めましょう – 診察の準備ができたらメールを送るなどの対策を検討し、車の中で待つようにする。
●COVID-19の症状を持つ患者の検査と隔離を含む、信頼できる行動とプロトコルに従う。
コロナウイルス陽性症例との接触のためにスタッフの自己隔離が必要な場合、スタッフがケアを提供し続けたり、MDTをサポートしたりできる方法を検討してください。例えば、以下のような方法があります。
●多職種チーム(MDT)会議へのオンライン出席。
●電話またはビデオによるコンサルテーション、特にフォローアップ。
●リスクの高い患者を特定し、ケアや治療の変更を話し合うために連絡を取る。
●リモートモニタリング/フォローアップに適した患者の特定。
●データ入力(リモートアクセスが可能な場合)。
全体的な考察
●非生産的な通院を避けるべきです。
●最初の接触で、シニアの意思決定をすることで、それ以上の通院を減らすか防ぐべきです。
●計画的な仕事が減れば、最前線でのシニアの存在感が増します。
●臨床医は、慣れない環境やサブスペシャリティ領域の外で仕事をする必要があるかもしれません。彼らをサポートする必要があります。
●コンサルタントとの話し合いなしに手術を予定してはいけません。
●外来受付時間の延長によりEDへのアクセスが可能になり、待合室の混雑を緩和することができます。
●7日間従事する体制の可能性を検討する必要があるかもしれません。
●危機が去るまで長期のフォローアップ患者を延期することを検討しましょう。
●あなたの施設でフォローアップのオンラインクリニックを作ることはできますか?
●放射線科がコロナウイルスのパンデミックにリソースを流用するため、CTスキャンやその他の画像診断が制限される可能性があります。
原文掲載日
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